保守政府の地球温暖化/エネルギー(電力)政策

政局展望

保守政府の地球温暖化/エネルギー(電力)政策

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

10月17日、ターンブル首相とエネルギー関連の公的監督機関のヘッドが連邦議会内の委員会室で記者会見を開き、「全国エネルギー保証」(National Energy Guarantee)と呼称される、連邦保守政府の新地球温暖化/エネルギー政策の概要を公表している。これは、いわゆるフィンケル答申書内で提言され、数カ月前に創設されたばかりの「エネルギー安全保障委員会」(ESB)、すなわちエネルギー関連監督機関の頂上組織が策定し、それをそのままターンブル政府が採択したものである。

地球温暖化/エネルギー(電力)政策の意義と複雑性

昨年7月の連邦選挙以降、エネルギー(電力)問題は大きな注目を集めてきたが、その背景には、まず多くの国民にとって最大の関心事であるのは、何と言っても自分達の「懐」に直接響く「生活コスト」の問題との事情がある。そして生活コストの中でも重要なのが、可処分所得の使途の大きな部分を占める住宅関連費とユーティリティー費、とりわけ電気料金の高騰問題であるのだ。またもともと環境通で、温暖化問題に重大な関心を寄せてきたターンブルが、アボットの政策路線を踏襲したことで毀損(きそん)された、環境分野でのクレディビリティーを何とか回復させるために、電力政策と密接に関連する再生可能エネルギー源の活用問題を取り上げてきたとの事情もある。

ターンブル政府が発表した「全国エネルギー保証」(National Energy Guarantee)のメディア向け資料
ターンブル政府が発表した「全国エネルギー保証」(National Energy Guarantee)のメディア向け資料

更に昨年の9月末に、半世紀に1度とされる大暴風雨がSA州を襲い、一時期州全体が停電するという非常事態が発生したことも関係している。この事件を契機にして、エネルギー安全保障問題、すなわち信頼性や安定性があり、しかも廉価な電力の供給問題ばかりか、再生可能エネルギー源に過度に依存することの危険性が、国民の間でも一挙に注目されたのである。

そのため今後当面の間、エネルギー政策、電気料金対策は政治的にも重要で、次期連邦選挙でも争点化することが確実視されているが、ところが同問題を取り巻く状況は極めて複雑で、解決が困難なものとなっている。

その理由は、第1に、それが地球温暖化政策とも密接に関連しているからだ。しかも電気/エネルギー政策における基本目標、具体的には、信頼性のある電力供給かつ安価な供給との両目標と、二酸化炭素ガスの排出量削減という地球温暖化対策の基本目標とは、互いにトレード・オフの関係にある。どちらの目標を重視するかにより、政策の中身が変化するばかりか、いかなる政策も必ず批判勢力に遭遇することとなるが、実際に同政策分野では与野党の路線には大きな差がある。

そしてこの事実は、同分野における第2の問題点を惹起(じゃっき)している。それは、温暖化/エネルギー政策が長期にわたるもので、従って長期にわたる計画、長期にわたる設備投資活動が要求されているにもかかわらず、「党派的」な政治状況ゆえに、政策上の不透明感が存在していることだ。

当然のことながら、政権が交代した場合に政策路線が激変するとの懸念があれば、長期にわたる、高額の投資活動、投資インセンティブは大きく阻害されることになる。産業界や投資家にとって、コスト増を招く政府の規制策等以上の懸念、不安材料となるのは、政策の首尾一貫性の欠如や継続性の欠如であるからだ。

第3の問題点は、豪州の連邦制度の存在である。連邦制のメリットとしては、政府の権限、権力を分散化することによって、より民主的で、また強い「抑制と均衡」の機能を備えた政体となること、そして国民に密着した、国民のニーズに適(かな)った施政が可能になるとの点が挙げられる。ただし制度が複雑化するのは不可避で、また連邦と州の両者が所管する共管的権限分野では、連邦と州との間で権限、所掌(しょしょう)の重複を生み、それが非効率性の原因となってきたばかりか、責任の所在をあいまいなものにしてきたという、連邦制のデメリットも指摘できよう。

天然ガスといった資源・エネルギー分野は、連邦憲法上、問題の発生しやすい連邦と州との共管的権限分野である。そして資源・エネルギー分野で相当な権限を持つ各州政府の内、東部ではVIC、QLD、SA州の3政府が全て労働党政府であり、その中でもとりわけSA州政府は、「過激」とも言える温暖化対策を実施中である。そのため、連邦主導の全国的、統合的な温暖化/エネルギー対応策の策定、採用はますます困難なものとなっているのだ。

最後に、第4の問題点は、与党保守連合内が対応策に関し分裂していることだ。そして同政策問題は、自由党のリーダーシップ問題とも繋がっているとの事情もある。

保守政府新政策の概要と特徴

新政策の詳細設計については、政府が「ステークホルダー」と交渉、相談しつつ、今後詰めていくこととなるが、予想通りに政府の新政策は、いわゆるフィンケル答申書の核心的提言、すなわち電力部門に「クリーン・エネルギー目標値」(CET)なる、温室効果ガス削減方式を採用すべきとの提言を却下するものであった。そして新政策ではCETの代わりに、主として電力小売り業者を対象とする2つの柱からなる規制策を採用している。

具体的には、「電力供給信頼性基準」と「温室効果ガス排出量削減基準」という2つの規制で、仮に電力小売り企業が基準を満たせない場合には罰則、制裁が課せられ、最悪の場合は操業禁止措置が取られることもあり得る。なお前者の基準は2019年から、後者の基準は20年から適用されるとしている。

上述したように、廉価な電力の供給の信頼性確保と排出量削減の実現とは、互いにトレード・オフの関係にあるわけだが、新政策は意図的に2つの目標を「リンケージ」させ、統合化した政策としている。ただし、明瞭に前者を優先しており、例えば、「再生可能エネルギー源活用目標値」(RET)(注:電力企業等に対し、再生可能エネルギー源による電力の活用、増加を義務付けるもの)は2020年以降は設定せず、また発電コストの低落を理由に、20年以降は再生可能エネルギー源産業への公的助成、補助措置も廃止される。

前者の「基準」は文字通り、電力供給の信頼性、安定性の確保を目指したもので、エネルギー監督機関が電力小売り企業に対して、電力の緊急供給が可能な(Dispatchable)発電源から一定率の電力を仕入れることを義務付けるというものである。緊急供給可能である限りは「技術中立」で、換言すれば、化石燃料である石炭やガスを使用したベース・ロード発電でも、揚水発電や蓄電施設といった、再生可能エネルギー源のバックアップ発電でも対象となる。その結果、政府は電力設備投資の阻害要因である政策の不透明感も払拭されると主張している。

また温暖化の観点からは「汚い」ものの、発電コストが低く信頼性の高い石炭火力発電所にしても、今後はその改修、操業の延命措置が図られるものと期待されている。

一方、後者の「温室効果ガス排出量削減基準」とは、同じく主として電力小売り企業に対し、温室効果ガスの削減を義務付けるものである。要求される削減率は少なくとも26%、すなわち豪州の公式な次期中期削減目標値である、2030年時点で05年の排出量の26~28%を削減するとの目標に、呼応するものになると予想されている。

なお「削減基準」は小売りビジネスごとに設定される。ただ個別の電力小売り企業が、いかなる手段、方法を通じて削減基準を達成するか、要するに、いかなる「エネルギー・ミックス」で卸売り電力を購入して達成するのかについては、それぞれの企業の経営戦略や選択次第となる。また「削減基準」をクリアできない電力小売り企業は、国内/国外の排出クレジットを活用できる見込みである。

上記「エネルギー安全保障委員会」(ESB)の試算によれば、以上の施策により、2030年時点での再生可能エネルギー源の発電量占有率は、28~36%になるものと予測されている(注:CETを採用した際の予測値は42%)。そしてESBは2020~30年の間に、電気料金は平均的世帯で年間当たり110~115ドル低落するとしている。

一方、CETの採用では、現行政策が継続した場合よりも、30年までに年間当たり平均90ドル下落すると試算されていた。この「全国エネルギー保証」政策の最大の特徴、長所とされるのは、それが電力供給の信頼性と温室効果ガスの削減という、相互に競合する目標を同時に盛り込んだ、斬新で「優れもの」の政策という点にある。しかしながら、上述したように、そもそも電力政策と温暖化政策は不可分なもので、従って両目標、両政策の「リンケージ」は至極当然のことである。

ただ、確かに「リンケージ」の政治的効果は無視できない。リンケージ策はいわば政府による「中庸路線」の表明であり、そして政府に「バランス感覚」が備わっていることを印象付けるものであるからだ。「リンケージ」のもう1つのメリットは、政策を将来調整することが容易となる点だ。例えば、仮に将来の政府が電力の価格、供給の安定化を一層強調したければ、「全国エネルギー保証」という統合/単一メカニズム内の「電力供給信頼性基準」の値を上昇させ、同時に「温室効果ガス排出量削減基準」の値を下降させれば良い。

新政策の行方

政府の「全国エネルギー保証」政策については、現在のところ、何よりも政策の透明性や継続性を重視する産業界やビジネス界は、再生可能エネルギー源業界を除き、相当に好意的である。一方、ショーテン率いる野党労働党は、例によってターンブルの指導力の欠如を批判しているものの、未だに詳細が未定ということもあり、検討の余地、あるいは条件付きで支持に回る可能性を残している。

その野党の現在の温暖化政策の中核は、やはり「温室効果ガス排出権取引き制度」(ETS)と、「再生可能エネルギー源活用目標値」(RET)制度である。また労働党は電力/発電部門については、「排出集約度削減スキーム」(EIS)を採用するとしている(注:電力/発電部門だけを対象とする閉鎖的なETSとみなせるもの)。ただ野党労働党は、フィンケル答申書内の最重要提言であるCETに対しては、EISと類似していることもあって、かなり好意的であった。それどころか、クリーン発電の厳格な定義設定を条件とはしつつも、ターンブル政府がCETを採用するのなら、労働党もEISを廃棄して、CETを支持することも吝(やぶさ)かではないとしていた。

ところが、そのCETを否定したにもかかわらず、今回の保守政府の新政策に対しては、野党は批判、攻撃はしつつも、やや柔軟な姿勢を見せているのだ。その背景には、何よりも保守政府の新政策とは、エネルギー関連の公的監督機関が策定し、しかも関連機関が「お墨付き」を与えたものとの事情がある。

実のところ、公表された新政策なるものは、政府から独立した専門家で構成される頂上機関のESBが、フライデンバーグ環境・エネルギー大臣宛てにしたためた、合計僅か8ページからなる「書簡」に過ぎないものである。この書簡の中で、「全国エネルギー保証」政策が提言され、それを保守政府がそのまま採用した次第である。その事実が、野党労働党をして、新政策を一蹴することを極めて困難なものにしているのだ。

ただ新政策に対する野党の柔軟姿勢の背景には、新政策を支持することが、野党にとってもメリットになり得るとの判断や計算もある。というのも、将来ショーテン労働党が政権の座に就いた際に、例えば温暖化対策優先へと舵を切ることは容易なことであるからだ。労働党政権としては、既に導入されたレジーム/メカニズムをそのまま使えるし、しかも「リンケージ」政策ゆえに調整の容易な政策フレームワークを使って、思い通りに政策の力点を動かすことが可能となる。新制度のETSを導入することの政治的障害、困難さを考えれば、既存の「全国エネルギー保証」制度を活用することの方が遥かに楽であろう。

ただし新政策の施行の鍵を握るのは、何と言っても州等政府の方である。連邦政府の新政策は、既存の全国電力市場規約を通じて施行されることから、そのためには電力市場を運営する州等政府の承認や協力が不可欠となるからだ。ところが、再生可能エネルギー源の活用に熱心な東部3州の労働党政府、具体的には、SA、VIC、そしてQLD州の3州政府は、SA州を筆頭にして、連邦政府の新政策を強く批判している状況である。ターンブル政府としては、早々に連邦・州首相会議(COAG)を開催して、東部の州等政府からの承認、協力を取り付けたいところだが、連邦と州等政府の交渉は難航することが予想される。

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