ジョイス副首相の「不倫」スキャンダルに揺れる連邦政界

ジョイス副首相の「不倫」
スキャンダルに揺れる連邦政界

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

NZとの二重国籍問題でいったんは連邦下院議員からの辞職を余儀なくされたものの、その後地元のNSW州ニュー・イングランド連邦選挙区で実施された補欠選挙で圧勝し、一応は禊(みそぎ)をすませたかに見えたジョイス国民党党首だが(注:副首相兼インフラストラクチャー・運輸大臣)、今度は自身のスタッフであった女性との「不倫」スキャンダルで苦境に陥っている。しかも同問題は、ターンブル首相との関係を危険なほどまでに緊張させている。

ジョイスの「不倫」事件とキャンベラ政界

ジョイスの「不倫」問題は、昨年の中ごろに既にキャンベラの政界では噂になっていたもので、また、昨年の12月2日に実施された上記補選の時点では、ジョイスの地元の一部有権者の間にも知られるようになったものである。ちなみにジョイスは、政界に復帰した直後の12月7日に、同性愛者間の婚姻の法的認知問題に絡む議会審議の中で、24年間連れ添った細君のナタリーと別居したことを自ら告白している。ただし、ジョイスも詳細を明らかにしたわけではなかったし、そもそもプライベートなことなので、国民も特段の関心を抱くことはなかった。そのジョイスの「不倫」問題が一挙に注目され、また今年の2月6日に再開された議会でも取り上げられたのは、7日に人気大衆紙のデイリー・テレグラフ紙が、第1面にジョイスの恋人であるキャンピオンの写真を掲載したからであった。

この女性が33歳と若く(注:ジョイスは今年の4月で51歳)、また昨年の4月までジョイスのメディア担当顧問であったこと、しかもジョイスの子どもを宿していることなどから(注:今年の4月に出産予定)、「不倫」問題が大いに注目され、また物議を醸したのである。

断崖絶壁に立たされている状況のバーナビー・ジョイス国民党党首
断崖絶壁に立たされている状況のバーナビー・ジョイス国民党党首

またジョイスの一件をめぐっては、キャンベラに長期にわたって滞在する連邦政治家の生活、実態に改めて目が向けられているし、政治家のプライバシー問題の取り扱い、あるいはメディアの在り方に関しても議論が展開されている。

実は連邦政治家の中には、家族問題を抱える者が驚くほど多い。言うまでもなく原因は、キャンベラ滞在が長期にわたることから(注:しかも国土が広大でもあるので)、家族との時間がなかなか持てないことにある。その結果、しばしば子どもが非行に走ったり、配偶者との関係が冷却したり、家庭内暴力、あるいはジョイスのように、スタッフの女性と不倫に走るといった議員も頻繁に出てくる。キャンベラ政界では常時、そういったゴシップ的なさまざまな噂が駆けめぐっているのだ。

ただし政治家のゴシップは、政界や政治関係者の間では噂となっても、通常は報道されることはなく、したがって国民の目に触れることもない。それは連邦政治や連邦政治家を担当する政治記者たちが、情報収集活動に疎い、あるいは怠惰であることを意味するわけでは決してなく、実情は全く逆である。すなわち、多くの記者たちは政治家の重大な個人秘密情報も十分に把握している。ただし、豪州には日本の「ゴシップ週刊誌」的なものはないし、またプライバシーを重視する社会でもあることから、そういった政治家の個人情報を記者たちが記事や放送で取り上げることは少ないのだ。

ジョイス「不倫」事件の問題点とその影響

ところが政治記者たちが躊躇(ちゅうちょ)せずに、それどころか、積極的に政治家の個人関連情報、「ゴシップ」に関し報道するケース、すなわち、記者たちが個人情報の報道を「公共の利益に適う」と考えるケースが主として2つある。それは、特定政治家の行動が、例えば公費の不正使用もしくは不正使用疑惑といった、規則、法律問題に絡む場合と、もう1つは、政治家の著しい偽善性を示すようなケースの2つである。

前者は、例えば公費を使って不倫相手との旅行を行った場合、などである。なお、豪州では公費の濫用に関しては厳しく、額の多寡(たか)にかかわらず、しばしば閣僚級が辞任を余儀なくされることとなる(注:ただし、旅費・宿泊費制度にはグレー・ゾーンも多いが)。一方、後者は、例えば倫理観の高さを「売り物」とする政治家が、極めて倫理に悖(もと)る行動を採った場合、などのケースである。

以上の点を念頭に置きつつ、ジョイスの問題を考察した場合、まずジョイス「不倫」報道が当然のもので、しかも正当なものであることに疑いの余地はない。その理由は、上記2つのケースが正に当てはまるからだ。

具体的には、まず「不倫」相手のキャンピオンは、記者を経てジョイスのメディア担当ジュニア・スタッフとなった女性だが、さすがに副首相の不倫相手が同じオフィスで働くのはまずいということで、周囲の関係者は昨年の4月に、キャンピオンをジョイス・オフィスから、国民党のカナバン資源・北部豪州担当相のスタッフへと転出させている。また、昨年7月にカナバンが二重国籍問題で一時的に閣僚ポストを降りた後には、キャンピオンを同じく国民党の他の議員のスタッフに据えている。ただ、カナバンのスタッフ・ポストはわざわざキャンピオンのために新設されたもので、また公募もせず、しかも、それまでとは異なりシニア・スタッフのポストであった。そのため、同人事に関しては、上記第1のケース、すなわち公費の濫用、不正/不適切使用、あるいは情実人事などの疑惑が持たれているのだ。

また、上記第2のケースに照らしても、今回のジョイス報道は正当化され得る。というのも、強硬保守ジョイスが、これまで伝統的な家族観の持ち主であることを盛んに喧伝し、売り物にしてきたこと、そしてそれが、保守の牙城である地元のニュー・イングランド選挙区でのジョイス人気に大いに貢献してきたからだ。

例えばジョイスは、昨年の後半に大いに盛り上がった同性愛者間婚姻の法的認知問題でも一貫して反対に回り、これが補欠選挙での予想を上回る圧勝の、少なくとも一因になったことは否定できない。ところがジョイスは、家族重視を盛んに説く一方で、若い女性を選び、ほぼ4半世紀にわたりジョイスを支えてきた細君のナタリーを捨てたわけで、こういったジョイスの偽善性がメデイアの報道を正当化しているのだ。

いずれにせよ、スキャンダルが注目された当初は、この問題が、第1にジョイスの地元での人気を低下させる、第2に国民党内の求心力を低下させ、リーダーとしてのジョイスの権威を失墜させる、そして第3に与党自由党と国民党との連立関係を悪化させる、などと懸念されたのである。だが議会再開の第1週目の時点では、保守連合側にはまだ余裕が感じられた。例えばターンブルも当初は、「ジョイスの一件はあくまで個人のプライバシーの範疇」と述べつつ、野党の批判を一蹴していた。

ターンブル首相とジョイスとの軋轢(あつれき)

ところが2月13日から始まった議会では、同スキャンダルが一挙に深化、拡大している。それどころか、議会審議もほぼ同問題一色というあり様であった。理由は、ジョイスと裕福な地元ビジネスマンとの「利害の衝突/利益相反」的な関係など、胡散(うさん)臭い新たな事実が明らかとなったからであった。

具体的には、細君や家族の元を去ったジョイスが、マクガイアーなる地元の富裕なビジネスマンで、国民党内にも影響力の持つ人物が保有するタウンハウスを無料で借り受け、キャンピオンと同棲しているというものである。ショーテン率いる野党労働党は、この新事実を取り上げて効果的かつ執拗に保守連合政府を攻撃し、ターンブル政府は防戦に大童(おおわらわ)となったのである。そして政府の形勢が不利になると、ターンブルは今度はジョイスのスキャンダルから、というよりも、ジョイス自身から距離を置くとの戦術を採り、野党の辞任要求などに対しては、「それは国民党が決めること」といった、「第3者」的な姿勢に終始していた。

ただターンブルの傍観者的姿勢が、リーダーシップを著しく欠くものであったのは否定できず、そのため野党の常套(じょうとう)句である「ターンブルは弱いリーダー」との主張が、ますます信憑性を帯びることとなったのである。そこでターンブルは、「強いリーダー」のイメージを前面に掲げつつ、今度は一転してジョイス問題に積極的な姿勢で臨んでいる。すなわち、ターンブルは2月15日に記者会見を開き、今後閣僚と閣僚スタッフとが肉体関係を結ぶことを禁ずるという、つい最近米国の下院で法制化されたものに類似した、新閣僚規約を公表するとともに、ジョイスを名指しで強く批判、個人攻撃したのである。

ターンブルは、今回の不倫スキャンダルを「ジョイスのショッキングで甚大な判断ミス」と述べつつ、ジョイスの細君や家族への深い同情を表明したばかりか、独立した国民党の党首の座にあるジョイスに対し、今後の去就(きょしゅう)、政治家としての身の振り方を検討すべきとまで主張している。ところが、予想もしていなかったターンブルによる露骨な個人攻撃に激怒したジョイスは、翌16日に同じく記者会見を開き、ターンブルの発言を逆に強い調子で批判している。またジョイスは、国民党は独立した政党であり、したがって自由党からの国民党への介入には断固抵抗するといった、首相への事実上の「闘争宣言」まで行っている。

以上のように、今回のジョイス・スキャンダルは、首相及び副首相が公然かつ個人的に対立するという、極めて深刻な事態にまで発展したのである。

言うまでもなく、保守連合をここまで追い込んだのはジョイス自身であるし、ジョイスがターンブルに反発すること自体が、しかも、あたかも自分が犠牲者であるかのようなジョイスの言動は、「盗人たけだけしい」ものではある。ただ周知の通り、ジョイスはエキセントリックで武骨な「体育会系」の人物で、公然と売られた喧嘩に背を向けるようなタイプではない。しかもターンブルは首相とは言え、別政党のリーダーであり、また国民党は自由党よりは小規模なものの、ジョイスには対等な連立政党のリーダーであるとの強い自負がある。更に言えば、ジョイスがターンブルの前で小さくなれば、国民党内部からの批判は必至であった。

要するに、ターンブルがあのような発言をすれば、ジョイスが公然と反発することは、ターンブルとしても当然予想して然るべきものであった。一方、仮に予想した上での発言とすれば、保守連合政府全体をまとめるリーダーとして、ターンブルは無責任の誹(そし)りを免れまい。他方で、国益はもちろんのこと、党益をすら無視したかのような、記者会見でのジョイスの利己的な「闘争宣言」は、さすがに国民党の一部議員をも呆れさせている。

ジョイス・スキャンダルの行方

ターンブルとジョイスは、性格的にも思想、信条的にも対照的な政治家であり、両者が良好な関係を維持するためには、意識的に互いに気を遣う必要があるし、また実際にそうしてきたからこそ、両者の関係が維持されてきたのである。ところがジョイスの不倫事件を契機にして、両者は関係維持の努力を放棄しつつあるように見える。元々微妙な関係であるだけに、今回のように劇的な事件によって関係が大きく破綻した現在、果たして今後関係を修復、改善できるのか大いに疑問と言える。

そのため保守連合内には、連合内の求心力を復活させるためには、リーダー間の新たな関係を構築することが不可欠と見る向き、あるいは主張する向きもある。そしてリーダー間の新たな関係となれば、それは国民党リーダーの交代によって現出することにならざるを得ない。換言すれば、近々にジョイスが失脚し、国民党の新党首が誕生するとのシナリオも考えられるのだ。

そこで特に重要となるのは、国民党議員の地元における有権者の反応である。仮にジョイス批判が相当に強いということであれば、ジョイスを引きずり下ろそうとする党内の動きは活発化することとなる。もう1つ重要なのは、近々に実施される上院委員会の調査で、ジョイスとキャンピオンとの関係に絡み、ジョイスの旅費・宿泊費などでの不正/不適切請求が発覚する可能性であろう。

現在ジョイスは正に断崖絶壁に立たされている状況にある。仮に当面の間はジョイスがリーダーの座を護ったとしても、上院委員会調査でダメージとなる新たな事実が発覚すれば、それがジョイスに対する最後のひと押しとなる公算が高い。

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