自由党リーダーシップ問題とターンブル首相の課題

自由党リーダーシップ問題とターンブル首相の課題

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

今年の4月初旬のニューズポール世論調査で、与党が連続して実に30回にわたり、野党の後塵(こうじん)を拝したことから、自由党のリーダーシップ問題が再度注目を集めている。ターンブル首相が可及的速やかに取り組むべき課題は大きい。

低迷続くニューズポール世論調査

民間の世論調査では最も信頼性が高いとされるニューズポールが、今年の4月5日から8日にかけて全国で実施した世論調査によると、選好票の流れも加味したいわゆる「2大政党選好率」ベースで、与党保守連合は48%、野党労働党は52%という結果であった。この「2大政党選好率」の水準は、仮にこの時期に本選挙が実施された場合には、定数が150の連邦下院で過半数ギリギリの76を保持してきた与党保守連合の議席数が、少なくとも14は減少することを意味するものである。

ただ、同調査で最も重要であったのは、2016年7月の両院解散選挙以降に計32回の調査が実施されたのだが、初めの2回を除いて、換言すれば上記調査までの連続30回にわたって、野党が与党をリードしたことであった。この事実が重要であった理由は、「連続して30回敗北」云々は、ターンブルが15年9月の「アボット降ろしクーデター」を正当化する、「理論武装」の1つとして活用したものであったからだ。

自由党のマルコム・ターンブル連邦首相
自由党のマルコム・ターンブル連邦首相

ターンブル陣営にとって、13年選挙勝利の立役者で、しかも首相任期の1期目に過ぎなかったアボットへの「クーデター」を正当化する中核理由は、主として3つあった。第1は、アボットには経済政策分野での手腕、リーダーシップが欠如しており、一方、ビジネス通、経済通であるターンブルにはそれがある、というものであった。ターンブル陣営がそのように主張した背景には、アボット保守政権としては初めての14/15年度連邦予算案が大失敗に終わったこと、すなわち国民の強い反発を惹起(じゃっき)し、そのためもあって、同予算案に盛り込まれた数多くの重要政策が執行、施行できず終わったとの事情があった。

第2の理由は、与党保守連合の政策/意思決定過程における機能不全問題であった。実は世論調査の恒常的な低迷を背景にして、早くも14年11月ごろから、与党自由党内では強い「雑音」が発生していた。具体的には、首相オフィスの過剰な権限や介入、ミクロ・コントロールぶりに対する批判や不満であった。確かに、任期1期目の首相を引きずり下ろした「政治的コスト」は大きかったものの、以上述べた「クーデター」正当化の2つの理由は、納得できるものではあった。

問題は、ターンブルが党首挑戦記者会見でも明瞭に述べた、正当化の第3番目の理由で、それが世論調査の恒常的な低迷というものであった。すなわち、与党保守連合内の求心力が著しく脆弱化していた最中の15年9月初旬に、ニューズポールの世論調査が公表されたのだが、同調査の「2大政党選好率」におけるアボット与党の敗北が、連続して30回目となったのである。

これだけでは、党首挑戦の動きを顕在化するには足りなかったものの、「30の大台」に乗ったことは、多くの与党議員に、「既に国民はアボット政府を見限っており、今後の回復はもはや期待できない」との思いを抱かせるものであった。

そして実際にターンブルは、15年9月14日の党首挑戦記者会見で、この点を強調しつつ、アボットへの挑戦を正当化していたのである。ところが今年4月初旬の世論調査では、アボットを批判したターンブル当人が、連続して30回敗北の記録を「達成」した次第である。

自由党リーダーシップ問題

予想に違わぬ4月の世論調査結果を受けて、これも予想された通り、保守連合内の反ターンブル陣営から「雑音」が発生している。その中で最も注目されたのは、前国民党党首(前副首相)のジョイスの発言であった。ターンブルとジョイスとの関係は、ジョイスの不倫スキャンダル事件を契機にして、より正確には、ターンブルの2月15日の記者会見を契機にして、回復不能なほどにまで悪化している。

ターンブルは記者会見の中で、今後閣僚と閣僚スタッフとが肉体関係を結ぶことを禁ずるという、つい最近米国の下院で法制化されたものに類似した、新閣僚規約を公表するとともに、ジョイスを名指しで容赦なく批判したのである。具体的には、ターンブルは不倫スキャンダルを「ジョイスのショッキングで甚大な判断ミス」と断じつつ、独立した国民党の党首の座にあったジョイスに対して、今後の去就、政治家としての身の振り方を検討すべきとまで主張している。

ところが、予想もしていなかったターンブルの露骨な個人攻撃に激怒したジョイスは、翌16日に同じく記者会見を開き、ターンブルの発言を逆に強い調子で批判したという経緯がある。この一件を境にして、もともと決して「ウマが合う」タイプではない両者の関係は決裂している。

いずれにせよ、4月の世論調査結果は、ターンブルに意趣返しする絶好の機会をジョイスに与えるものであった。実際にジョイスは、年末までに支持率、評価が大きく改善しない場合には、ターンブルは自ら首相の座を降りるべきと発言している。つい先日まで、与党保守連合のナンバー2で、ターンブルの片腕であった人物、また現在は陣笠(じんがさ)とは言え、未だに現役の国民党政治家による公然とした発言だけに、このジョイス発言は、保守連合の「党内不和」の状況を改めて浮き彫りにするものであった。

ただ「30回連続敗北」という事実、しかも敗北記録が少なくとも当面の間更新される見込みであることが、近い将来に自由党リーダーシップの交代にまで発展するとは、現時点では思えない。

何よりも、ターンブルを葬り去ったとしても、与党の状況が好転、改善すると期待できるような、肝心の後継首相候補が存在しないからだ。

ちなみに4月のニューズポール調査は、同時期に自由党のリーダーシップ評価調査も併せて実施したが、それによると、ターンブルへの支持率は28%に過ぎなかったものの、対象者の中では第1位であった。

一方、第2位はビショップ外務大臣の27%で、アボット前首相は13%、自由党右派の代表的リーダー候補であるダットン内務相は僅かに9%であった。また5月8日には連邦予算案が公表されるし、その「売り込み」の必要性、さらに近い将来に、与野党が次期選挙に向けて「臨戦態勢」に入る、といったタイミングの問題もあり、リーダーシップ挑戦の動きはなおさらのこと困難と言えよう。

ターンブル首相の課題

しかしながら、言うまでもなくターンブルとしては、世論調査における評価を可及的速やかに改善すべく、鋭意努力する必要がある。そのために肝要なことは、第1に、魅力ある政策を国民に提示すること、第2に、保守連合内の求心力を高めること、そして第3に、ショーテン野党労働党を積極的、執拗に攻撃すること、の3つであろう。

まず第1の政策だが、言うまでもなく選挙上重要な政策とは、国民生活に直結した政策、要するに「生活コスト」関連の政策である。政策分野では、大きく経済政策と社会保障政策が関連、相当するが、前者は伝統的に自由党の「十八番」、後者は労働党の「十八番」とされてきた分野である。

ターンブル保守連合政府としては、得意の経済政策分野で魅力ある政策を提示することが肝要だが、この点については、間もなく公表される来年度連邦予算案の中に、個人所得税の減税政策が盛り込まれるのは確実な情勢である。現在、賃上げ率の低さが問題視されているが、いわゆる「ブラケット・クリープ」効果を相殺するためにも(注:インフレに伴う賃上げによって名目賃金が上昇し、その結果、多くの就労者の個人所得に一段高い税率が適用され、税収入が増加する現象)、適宜減税を実施することは不可欠であるからだ。ただ、18年予算案に盛り込まれる個人所得税減税は、次期選挙を意識した、かなり寛大なものとなる可能性がある。

また同予算案には、連邦主導の大規模な運輸インフラストラクチャー整備策も含まれるものと予想されている。インフラ整備策の主要ターゲットは、人口の増加ペースに社会インフラの整備が追い付かない都市郊外在住の有権者層と、大政党への不満から極右政党のワンネーション党へと流れた、地方在住有権者層である。

ところで政策の中身はもちろんとして、ターンブルにとって政策関連の課題で重要なのは、いかに政策を国民に「売り込む」かである。なお、次期予算案に関し補足すると、連邦下院の任期は最大で3年であることから、通常は次回の下院選挙までに計3回の連邦予算案が公表されることとなるが、前回選挙以降2回目の18年予算案は、次期選挙前の最後の予算案となる公算が高い。

ターンブルの第2の課題、すなわち党内求心力の強化であるが、改めて言うまでもなく、統治能力、政権担当能力が不足していると判断される故に、かつて労働党のホーク首相が喝破(かっぱ)したように、「党内不和は自殺行為」に他ならない。また、国民は「政党内を収められないリーダーや政党に国は治められない」と考えるし、また「政府は国民生活の改善という使命を蔑(ないがし)ろにして、私利私欲にかられた権力闘争を行っている」と憤慨する。党内求心力が脆弱化していれば、政府がいかに魅力ある政策を提示しても無駄と言えよう。

それでは、党内求心力を高めるためにターンブルがやるべきこと、すなわち、自由党内の右派/保守派、並びに右派の国民党との関係を改善するために必要なことだが、具体的には、①何よりも、政策をより「右旋回」させること、②現行の政策/意思決定過程を変更して、多くの議員に決定過程に参画しているとの気持ちを抱かせること、そして③「臨戦態勢下にある」とのムードを作り出すこと、などである。上記③だが、次期連邦選挙がいつ実施されてもおかしくないというムード、状況であれば、自ずから党内求心力も高まることが期待できるからだ。

次期選挙だが、選挙形態が下院の解散と上院半数改選の同時選挙となるのはほぼ確実である。その場合、次期選挙の実施日は最も早ければ今年の8月4日で、最も遅い場合では来年の5月18日となる。実のところ、各政党が「臨戦態勢」に突入するのも、それほど先のことではない。

最後に、世論調査を改善するためのターンブルの第3の課題である、ショーテン野党労働党への攻撃、とりわけショーテン個人へのスミアー・キャンペーンだが、これも極めて重要である。実は16年連邦選挙でターンブル保守連合が予想以上に苦戦したことの重要要因が、与野党の選挙キャンペーン戦略の優劣、すなわち、野党の徹底的かつ効果的なスケアー・キャンペーン(注:野党は、保守政府は国民皆保険メディケアの「民営化」を計画しているとの根も葉もない主張をしたが、これが絶大な効果を上げた)や、ターンブル個人をターゲットとしたスミアー・キャンペーンと、それとは対照的な与党のスケアー・キャンペーンの稚拙さ、というよりもスケアー/スミアー・キャンペーンの欠如であった。

おそらく、保守政府がポジティブ・キャンペーンに強く依存した背景には、ネガティブ・キャンペーンなどの姑息な手段に頼るのは沽券(こけん)に関わる、とのターンブルのプライドがあったように思える。ただ保守政府は、ボート・ピープル問題、テロ問題を中心とする国家安全保障全般、財政再建問題、そして労働組合の「悪行」など、ショーテン野党を攻撃する材料には事欠かなかったはずである。

仮に首相がアボットのままであった場合でも、16年選挙の結果が現実のそれよりも良かったとは思えないが、「攻撃犬」と形容されたアボット指導下の選挙キャンペーンが、野党への攻撃を主体とするもので、しかもかなりの効果を上げたであろうことは想像に難くない。こういった16年選挙時の状況は、現在の政治状況にも当てはまる。

要するに、政策面でも、リーダーシップの面でも、ショーテン野党は叩けば埃の出る身であり、与党の攻撃のやり方次第では、今後与党が世論調査の結果を改善することも可能と言える。

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