政局展望「アルバニーゼ野党労働党の発足」

アルバニーゼ野党労働党の発足

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

5月29日(水)には、キャンベラの連邦総督公邸での宣誓・認証式を経て、モリソン第2次保守連合政権が正式に発足したが、翌30日には、2019年選挙でまさかの敗北を喫した野党労働党が、選挙後初の野党両院議員総会「コーカス」を開催している。

新労働党指導部の誕生

5月18日(土)の夜の選挙敗北演説の中で、ショーテンが労働党党首からの辞任を表明した直後から(注:正確には、党首選挙への不出馬を宣言)、労働党の次期党首レースが開始されたが、当初有力候補とされたのは、アルバニーゼ影のインフラ担当大臣、プレベセック副党首兼影の教育相、ボーウェン影の財務相、そしてチャーマーズ影の予算相の4人であった。

アンソニー・アルバニーゼ野党労働党党首
アンソニー・アルバニーゼ野党労働党党首

この中で、最初に党首選挙への出馬を明らかにしたのはアルバニーゼであったが、その直後に、アルバニーゼと共に本命の1人と目されていたプレベセックが出馬断念を表明し、またいったんは出馬声明を行ったボーウェンも、僅かの時間を置いて前言を翻ひるがえしている。そして最後に残った形のチャーマーズも、結局、出馬を見送っている。その結果、1カ月程は要する党首選挙を実施せずに(注:13年に採択された新ルールでは、党首の選出はコーカス・メンバー及び一般党員の投票により決定される)、「異議なし」で、唯一の出馬候補であるアルバニーゼが(注:「政界こぼれ話」を参照)、第21代の次期労働党党首に就任している。

附言すれば、水面下でショーテンは、プレベセック、次にはボーウェンに対し、党首選挙へ出馬するよう強く説得したとされる。このショーテンの介入については、とりわけアルバニーゼ陣営から強い批判が出ている。

一方、党首ポストと同じく、選挙敗北後には自動的に空席となる副党首のポストだが、有力候補としては、マールズ影の国防相、チャーマーズ影の予算相、そして影の金融サービス相のオニール女史の3人の名前が挙がっていた。ただチャーマーズに続いて、オニールも出馬を否定したことから、副党首ポストについても、唯一の出馬候補であるマールズが「異議なし」で就任することとなった。今回の正副党首人事は、党首はNSW州選出の左派で、一方、副党首はVIC州選出の右派と、州バランス並びに派閥バランスの観点からも、適切なものとなっている。

コーカスでは野党指導部の残り2人、すなわち、留任した上院リーダーのウォン女史、そして上院副リーダーのキネーリー女史の2人も、併せて紹介された。

労働党新影の組閣

政策/意思決定過程において、制度的/組織的にトップダウン型となっている自由党とは異なり、「派閥政治」で労働組合の影響力も強い労働党の場合は、意思決定過程における「プレーヤー/政治アクター」も多い。これは議会労働党のリーダーの権限にも一定の制限が課されていることを意味する。

それを如実に示すのが、影の組閣/組閣の際に、影の閣僚/閣僚候補を選出するのは、所属議員数に応じて候補枠を与えられた各派閥であり、リーダーはそれら候補者たちに所しょしょう掌を割り振るだけとの事実である。今次影の組閣も同様で、アルバニーゼはそれぞれの所掌を6月2日(日)に公表している。影の閣内閣僚数は合計で24人だが、構成は男女がちょうど半分ずつの12人となっており、指導部4人の構成と共に、男女平等に強く配慮したものとなっている。

主要な影の閣内閣僚人事としては、①所掌の選択権が与えられていたマールズ副党首は、国防から外務への異動を希望していたが、留任希望のウォンに配慮して影の国防相に留任、②その結果、ウォンも影の外相に留任、③影の財務相のボーウェンが影の保健相に異動、④保健の所掌を希望していたショーテン前党首が影の全国身障者保険スキーム(NDIS)兼政府サービス相に就任、⑤チャーマーズ影の予算相が影の財務相に異動、⑥キネーリーが影の内務相に就任、⑦プリベセック前副党首が影の教育相に留任、⑧バトラーが影の気候変動・エネルギー相に留任、⑨バーク影の環境・水資源相が影の労使関係相に異動、そして⑩オコーナー影の雇用・労使相が影の雇用・産業相に異動、などとなっている。

影の閣僚人事に関し補足すれば、まず上記③のボーウェンの降格人事は、当然予想されたものであった。今次選挙における労働党の重要敗因は、ショーテン労働党の野心的な経済政策と、同政策に対する時代錯誤的な理論武装にあり、そして同経済政策を策定、推進した中心人物こそ、ボーウェンに他ならないからだ。

次に④だが、ショーテンは保健を希望していたものの、NDIS兼政府サービスも決して格落ちではなく、コーカスでショーテンに演説を認めたことといい、現在のところ、アルバニーゼがショーテンに配慮していることが窺える。というのも、NDIS問題は今後も極めて重要な政治イシューであり続けるし(注:むしろ本格的な施行段階に入る今後こそ、より重要とも言える)、またNDISはギラード政権時代にショーテンがまとめ上げたものでもあるからだ。

最後に⑥だが、ショーテン野党はターンブル保守政府が強大な内務省を新設し、担当相に自由党右派の大物のダットンを据えた際に、カウンターとなる影の内務相ポストを創ることを拒否していた。ところが、今回の影の組閣でアルバニーゼは、影の内務の所掌を創設するとともに、担当する影の閣僚に、かつてNSW州首相を務めたキネーリーを据えている。これは、広義の国家安全保障問題の重要さと、同分野の評価では恒常的に労働党が保守連合の後塵(こうじん)を拝している、とのアルバニーゼの認識、反省に基づくものと言えよう。

ただ、アルバニーゼが直々にキネーリーを上院副リーダーに据えたことといい、同影の閣僚人事といい、やっかみもあってか、これを「情実人事」と見る向きもある。ただキネーリーの長所は、何と言ってもプレゼンテーション能力の高さであり、一方、対抗相手のダットンのプレゼン、話しぶりが、愛想のない一本調子のものであるだけに、この人事は奏効するかもしれない。

アルバニーゼ野党の課題

何と言っても、アルバニーゼにとって当面の最重要課題とは、「負けるはずのない」選挙に敗れた後の党内求心力をいかに維持するかである。

確かに新党首選出ルールによって、党首の座は格段に強化、安定化された。新ルールでは、①連邦選挙で敗北した場合は、(従来通り)選挙後、自動的に党首選挙を実施、②野党労働党の党首が党の評判を著しく毀損(きそん)したとして、労働党両院議員総会「コーカス」のメンバーの内の60%以上が要求した場合には、任期中途に党首選挙が実施に、一方、③連邦選挙で勝利を収めた場合は、与党労働党党首は当該議会任期の間の地位が保証に、ただし、④(上記③のケースであっても)(ア)任期中途に党首が自ら辞任した場合、(イ)党首が要求した場合、あるいは(ウ)コーカスのメンバーの75%以上が、党首が党の評判を著しく毀損したことを理由に要求した場合には、任期中途に与党党首選挙を実施、そして⑤党首の選出はコーカス・メンバー及び一般党員の投票により決定され、両者の投票の「重み」は半々ずつ(注:新ルール下でも、副党首はコーカスのみの投票で選出)、となっているからだ。

ただし特筆に値するのは、新ルールは未だに労働党の綱領、すなわち同党の「憲法」には盛り込まれておらず、従ってコーカスでの投票だけで、ルールを元に戻すことも可能であることだ。

また求心力やリーダーシップ問題の観点からは、大方の予想に反して、前党首のショーテンが、政界どころか、影の閣僚に留まったことも重要である。上述したように、選挙後初のコーカスでは、敗戦の将となったショーテンによる演説があったが、ショーテンは選挙で敗北した要因として、既得権益グループ/団体による、労働党の政策に対する事実無根のスケアー・キャンペーンの効果、そして、それに手を貸した一部メディアの報道ぶりなどを挙げている。

ところが、労働党の政策に対する報道は決して事実に悖(もと)るものではなかったし、また今次選挙では、税政策や気候変動政策を始めとする野党の野心的政策への恐れや憤り、対立を鼓舞するかのような「階級闘争カード」の多用、そしてショーテン本人の不人気などが、野党の重大な敗因となった。そのため、自身の責任を棚上げしたかのようなショーテンの弁解ぶり、強弁は、野党内でもひんしゅくを買っている。

そしてショーテン演説は、アルバニーゼのリーダーシップを貶(おとし)めるものでもあった。ショーテンの自己弁護的言動は、選挙で明瞭に有権者から否定された労働党の新リーダーとして、有権者に対して低姿勢を採らざるを得ないアルバニーゼの言動、姿勢と、真っ向から対立するものであったからだ。

「反省を欠く」ショーテンが影の閣内に居残っている限り、明瞭なメッセージを国民に発信することも困難となる。アルバニーゼにとってのショーテンが、自由党のターンブル前首相にとってのアボットとなる危険性もあろう。

アルバニーゼにとり重要なもう1つの課題は、言うまでもなく政策路線の見直しと転換である。19年選挙の敗北の主因が、ショーテン労働党の政策に対する有権者の懸念、拒否の姿勢であったことに鑑(かんが)み、アルバニーゼ新生労働党の政策転換は不可欠となる。

具体的には、「猛省の証左」とすべく、上述した路線を否定し、今後は右派のショーテンの「左旋回」を正して、中道左派路線へと舵を切りなおす必要がある。ただし、これは決して容易なことではない。というのも、左派のアルバニーゼが「右旋回」を図れば、かつてのアルバニーゼの主張や議論は何であったのかと、アルバニーゼの信条、信念に疑問符が付く恐れがあるからだ。

なお、注目されるアルバニーゼ労働党の政策内容とは、第1に、保守政府の個人所得税減税策の内、第3段階/ステップ減税への対応、第2に、労働党の各種税収入増加策の行方、具体的には、フランキング・クレジット、ネガティブ・ギアリング、キャンピタル・ゲイン税関連政策の行方である。第3に、保守政府のボート・ピープル対策の3本柱である、①外地難民審査、②暫定保護査証、③密入国船の「追い返し」の内、従来通り①と③を採択するのかである。

第4は、地球温暖化対応策で、何よりも労働党は、現在の温室効果ガス新中期削減目標値、すなわち2030年の時点で、05年排出量の45%減との野心的目標値を保持するのかどうか。30年の時点で発電量全体の50%という、再生可能エネルギー源活用目標値(RET)についてはどうか。そして大排出産業主体に対し、現行制度よりも拡大、厳格化した「セーフガード・メカニズム/措置」を適用するとの策は保持するのか。

最後に第5点として、石炭産業に対する連邦労働党の姿勢、とりわけアダニ石炭開発プロジェクトへの姿勢はどうなのか。アダニ問題に関し補足すれば、今次連邦選挙において重点州であったQLD州で、労働党は議席を増加させるどころか、逆に喪失している。

同州での労働党の苦戦の一因は、労働党が資源産業にクールで、他方で温暖化対策に偏重していると見られたことにあった。これに資源産業労働者、資源産業に依存している地方在住層が反発したのである。そして、その「シンボル」とされたのが、労働党のアダニ石炭開発へのクールな姿勢であった。附言すれば、今回の選挙結果を受けて、これまで連邦労働党以上にアダニ・プロジェクトに冷淡であったパラシェイQLD州労働党政権は(注:反アダニの中心人物は、同州労働党左派のリーダーである、トラッド同州財務大臣兼副州首相)、連邦選挙後には「アダニ・フレンドリー」な姿勢に変節している。

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