ギラードの圧勝に終わった労働党党首選挙

政局展望

ギラードの圧勝に終わった労働党党首選挙

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

 

2月27日、連邦議会内で労働党連邦議員総会「コーカス」が開催され、ギラード首相とラッド前首相(前外務大臣)との間で党首選挙が実施されたが、予想通りにギラードが大勝利を収めている。

党首選挙の経緯と両者のキャンペーン戦略

ギラード陣営が繰り返し主張してきた通り、ラッドは2010年6月の「クーデター」で失脚した直後から、リーダーへの返り咲きを虎視眈々と狙ってきた。とりわけ11年2月以降には、ラッド陣営の水面下での復帰活動は相当に活発化している。

その理由は、同年2月にギラードが選挙公約を破って、炭素税の導入政策を公表し、その結果、ギラードならびに労働党への支持率が大きく低迷する事態となったからだ。ただ11年の末ごろになると、依然として低水準であったとは言え、ギラードおよび労働党への支持率もやや上向きとなり、少なくとも当面の間はギラードの地位も安泰と見る向きが多かった。ところが年が明けると、ギラードは短期間にいくつかの判断ミスやスキャンダルを重ねて、自ら政権の基盤を再度脆弱化させている。

こういった立て続けの「自殺点」によって、ギラード政権は末期症状を呈しているとの見方とともに、メディアのラッドへの注目が一挙に強まり、同時にラッド側も労働党議員への働きかけ、ロビイング活動を強めていた。

一方、当初はリーダーシップ問題の盛り上がりを否定していたギラードも、党首としての指導力を誇示するために、脅威が顕在化しつつあったラッドを、外務大臣のポストから更迭することを真剣に検討していた。ところがギラード陣営が、まさにラッドの閣僚からの更迭を実行しようとしていた矢先の22日に、ラッドが先手を打って外相からの辞任を表明。これを受けてギラード側は、白黒をつけるために連邦労働党議員総会「コーカス」を開き、党首選挙を実施すること公表している。

両者のキャンペーン戦略だが、まずラッド陣営の党首選挙キャンペーンは、「ピープル・パワー」とのスローガンを掲げつつ、一般大衆の人気を活用するというものであった。ラッドは24日の党首挑戦演説の中で、ギラードは国民の信頼および自信を失ったと述べる一方で、依然として国民の間で人気の高い自分こそが、国民の労働党への信頼を取り戻すことができると強調している。また同時にラッドは、有権者に対して、労働党議員にコンタクトし、党首選挙でラッドに投票することを要請するよう呼びかけている。

これに対してギラード陣営の戦略は、第1に、統治能力、政権担当能力の誇示である。ギラードは大衆人気ではラッドに到底勝ち目はないし、またメディアの扱い方、大衆を前にしたパフォーマンスでもラッドの方がはるかに上手い。そこでギラードとしては、与党党首、すなわち首相の選択は人気コンテストではないと強調する一方で、首相に不可欠の資質として、困難かつ重要な問題を解決する能力を挙げている。

第2のキャンペーン戦略は、ラッドへの個人攻撃、人格攻撃である。今回の権力闘争は相当に「醜い」ものであったが、その点ではギラード陣営の方が上回っており、ギラード支持派の閣内大臣ばかりか、ギラード自らが先頭に立って、ラッドの統治能力の低さばかりか、人格的な問題点までを攻撃している。

党首選挙におけるギラードの勝因・ラッドの敗因

27日には予定通りに党首選挙が実施されたが、ギラードの得票が71票に対して、ラッドの得票はわずかに31票と(注:欠員1)、ギラードが党首選挙史上でも稀に見る大勝利を果たしている。

ギラードの勝因あるいはラッドの敗因としては、①10年6月に続いて、選挙で勝利した首相を再度すげ替えることにはさすがに抵抗があったこと、②ラッドの大衆動員戦略が裏目に出た、③ラッドが返り咲いた場合、労働党内の求心力が一層低下することが懸念された、そして④ラッドが勝利を果たしても、ラッド労働党政権が実現しない可能性、あるいは早期選挙となる可能性が懸念された、などが挙げられよう。

この内の②について補足すると、大衆の人気に頼るとのラッドのキャンペーン戦略は、ラッドの党内支持数が少なかったから、要するに必要に迫られたものであったが、党首選挙の観点からはラッドに有利に働くはずのものであった。というのも、人気者のラッドがリーダーとなれば、労働党全体への支持率も高まることが予想されたからだ。

ところが多くの議員が、この戦略に反発した可能性が高い。というのも大衆動員、大衆から労働党議員に圧力をかけさせるとの戦略は、「コーカス」構成員の判断、意思を軽視したものにほかならないからだ。

周知の通り、ラッド労働党政権時代の最大の問題点とされたのは、政策/意思決定過程における混乱、というよりも伝統的な労働党の意思決定過程の無視であった。ラッドの「ピープル・パワー」戦略は、国政選挙ではなく、いわば「内輪の話」であるはずの党首選挙の結果を、外部の大衆の力を借りて変化させようとの試みであり、また労働党の通常の手続きを迂回しようとするものである。これによって一部の議員は、ラッド時代の悪しき記憶を新たにしたものと考えられる。

労働党リーダーシップ問題と労働党の行方

さて、リーダーシップ問題の行方だが、最大の脅威であったラッドに圧勝したことから、少なくとも当面の間、ギラードの地位は安泰と言えよう。ただし、これでギラードの地位が次期連邦選挙(注:現時点では来年の後半、おそらくは来年の8月から11月までの間)まで安泰という保証はない。

仮に今後半年ほどが経過した時点でも、与党労働党への支持率がかなりの程度回復しなかった場合には、ラッドはともかくとして、スミス国防相、ショーテン職場関係相、コンベイ気候変動相といった、「第3者」グループの候補を担ぎ上げようとの動きが、党内でも活発化する可能性がある。

ただ誰が首相であろうと、労働党の行く末は暗いと言わざるを得ない。その理由は、深刻な「お家騒動」の発生、しかもギラード陣営とラッド陣営が互いに個人攻撃、辛らつな攻撃を繰り返したことから、有権者の目に労働党の党内不和ぶりが決定的に印象付けられ、既に労働党の「ブランド名」には深刻な傷が付いてしまったからだ。国民の間に確立されてしまったこのパーセプションが払拭されるまでには、相当な時日を要するであろう。

また、今回のリーダーシップ問題、ギラードとラッドの対立は、言うまでもなく野党保守連合に格好の攻撃材料、選挙スローガンを提供するものであった。ギラードへの批判内容は、野党側の創作ではなく、何と言っても労働党の身内からの批判であるだけに信憑性が高く、したがって有権者への効果も絶大となろう。仮に次期連邦選挙がギラード以外の首相の下で戦われるとしても、「お家騒動」の記憶だけで、有権者の一部は野党保守連合を選択するかもしれない。

確かに次期選挙までにはかなりの期間がある。ただ今回のリーダーシップ問題で労働党が被った甚大なダメージに鑑み、誰の指導下であれ、次期選挙で労働党が勝利するのはますます困難となったように思える。

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