保守政権の地滑り的勝利に終わったWA州選挙

政局展望

保守政権の地滑り的勝利に終わったWA州選挙

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

3月9日に実施されたWA州選挙は、予想通りバーネット率いる自由党・国民党保守政権が、地滑り的勝利で再選を果たした。なお、WA州下院の任期はこれまで最長4年であったが(注:中途で解散も可能)、同州では昨年に4年の固定任期制を採用している。今次WA州選挙は固定任期制となって初の選挙であった。

選挙帰趨

3月17日時点での集計によれば、各政党へのスウィング率は(注:08年9月に実施された前回のWA州選挙と比較した場合の得票数の増減)、与党自由党がプラスの8.72%を記録し、与党国民党もプラスの1.18%、一方、野党労働党はマイナスの2.71%、またグリーンズ(緑の党)もマイナス3.53%と、今次選挙では保守政党への相当なスウィングが発生している。

その結果、選挙後の各政党の勢力分布は、自由党が31議席(注:選挙前は24議席)、国民党7議席(同5)、労働党21議席(同26)、そしてグリーンズや無所属はゼロとなっている(注:選挙前の無所属は4。この内の1人は、前回選挙後に実施された補欠選挙でグリーンズから当選したものの、バズウェル財務大臣との不倫が発覚して無所属となった女性議員である)。

下院の過半数は30以上であることから、自由党は国民党の閣内協力などなしに単独で政権を維持できるが、バーネットは今次選挙の前から、たとえ自由党の単独政権が可能となっても、これまで通りに国民党の協力を仰ぐと宣言していた。

ちなみに、選挙直前に同州で実施されたニューズポール世論調査によると、政党支持率で与党は実に54%を獲得し、野党はわずかに32%であった。「2大政党選好率」ベースでは与党が59.5%の高率に対して、野党は40.5%と、同調査の結果からも(注:同調査は「どちらが勝つと思うか」との質問も併せて行っているが、それによると、「与党の勝利」との回答は70%にも達していた)、本番での与党の圧勝は十分に予想されていたことで、注目点は議席数の増減幅であった。

与党の勝因

与党の勝因としては、以下の4点が指摘できよう。

第1に、バーネット保守政権が第1期目の政権に過ぎなかったことである。周知の通り、豪州国民は変化を嫌う、あるいは現状維持志向の強い国民とされる。換言すれば、現状を打破すべきと考える余程の理由がない限りは、豪州の有権者が第1期目の政権を葬り去ろうとすることは稀である。

確かに最近の選挙では、比較的短期間の内に有権者の投票行動が変化する例も観察されてはいるものの、「選挙で勝利すれば2期はほぼ保証されている」との経験則は依然として有効と言えよう。

第2に、州民の生活に直接影響を与える州経済の好調さである。資源・エネルギー大州であるWA州は、驚異的な経済成長を続ける中国からの旺盛な資源・エネルギー需要もあって、豪州経済全体の牽引役を果たしている。

もちろん、高度経済成長は、州人口の増加によるインフラストラクチャーの圧迫問題や、需給ギャップによる住宅コストの上昇といった問題も発生させており、今次選挙でも、鉄道や道路といった運輸インフラの整備問題が選挙争点の1つとなった。

しかしながら、政界を揺るがすような政府の一大スキャンダルでもない限り、高度経済成長、低失業率を続ける州の政権党が、選挙で敗北を喫することは稀である。

第3に、バーネット保守政権への積極的な評価である。そして保守政権への高評価は、リーダーであるバーネット個人への高評価に負うところが大と言える。

バーネットへの具体的な評価だが、まず経済通であるバーネットの経済運営能力が高く評価されている。繰り返し指摘してきたように、義務/強制投票制を採用する豪州では、任意投票制度の下では決して投票などしない、いわば「いい加減な」有権者までが投票を強いられるが、これら有権者層は政治状況や与野党の政策内容を熟知しているわけでは決してなく、単なる「イメージ」で政党を選ぶ。そのイメージの中でも重要であるのが、自分たちの生活に直結する政党の経済運営能力に対する漠然としたイメージである。

好調な州経済は、エコノミスト出身のバーネットの手腕によるもの、とのパーセプションが一部浮動層有権者の間に醸成されており、これが自由党の大幅な議席増に繋がったものと考えられる。

バーネットに対するもう1つの評価は、強いリーダー、断固としたリーダーというものだ。その背景には、前回選挙で勝利した直後のバーネットが、WA州以外の8政府がすべて労働党政権という正に四面楚歌の状況下で、連邦労働党政府と激しく遣り合ってきたとの事情がある。

WA州はシドニーやメルボルンといった東部の大経済都市や、政治都市である首都キャンベラから地理的に遠く離れた地域にある。そのため、WA州民は独立自尊のメンタリティーが強く、中央政府の州への介入、コントロールには強く反発する(注:半ば真面目に、WA州は独立国になるべきと主張する向きすらある)。

ところが、表向きは協調的連邦主義を標榜していたラッド/ギラード連邦労働党政府も、実際には州政府への相談や根回しを省略して、単独的、一方的に、州にも甚大な影響を及ぼす各種政策を決定してきた。

孤立した状況下にあったにもかかわらず、こういった「連邦の横暴」に対して敢然と闘いを挑んできたのがバーネットで、また現在は全国で上位4州がすべて保守政権となったものの、バーネットは最古参の保守系州首相として、依然として対連邦政府攻撃ではリーダー役を務めている。強力な連邦政府に堂々と対抗するバーネットの姿勢が、もともと中央政府には冷淡で警戒的なWA州民の、バーネットへの評価を押し上げているのだ。

第4点としては、ギラード連邦労働党政府に対する反発が挙げられる。もちろん、通常は州選挙の結果と連邦政治の状況との相関関係は低く、換言すれば、州選挙の帰趨は主として州の事情、あるいは州のイシューで決定される。しかしながら今回のWA州選挙に関しては、カーペンターWA州労働党政権の下で閣僚であった女性などが、敗北の主因を連邦労働党への反発と断定した上で、「主犯」のギラードを更迭すべきとまで息巻いている。

元閣僚の主張や攻撃などは、今回惨敗を喫したWA州労働党関係者の「スケープ・ゴート」探しとも解釈されようが、やはり今次WA州選挙に連邦労働党が果たした役割はかなり大きいと言わざるを得ない。

実のところ、WA州選出のスミス国防大臣なども、惨敗の要因として連邦労働党政府への反発があったことを認めている。その理由は、WA州は資源・エネルギー大州であり、したがって資源・エネルギー産業にはマイナスとなる炭素税や鉱物資源利用税(MRRT)に反発する州民も多いのだが、言うまでもなく両税を導入したのは、ギラード連邦労働党政権であるからだ。

こういった事情から、WA州野党もMRRTなどに反対の姿勢を採ってきた。上述したように、バーネットは連邦労働党政府との喧嘩で男を上げたわけだが、喧嘩の原因となったのも主として炭素税とMRRT、そして財・サービス税(GST)の配分問題であった。

GST問題に関して附言すれば、資源・エネルギー・ブームによってWA州政府のロイヤルティー収入が莫大な額となっていることは、GSTの配分額の算出に際してはマイナス要因、すなわち配分額の削減要因となる。そのために、WA州で徴収されたGSTの内のごく一部がWA州に還元されているに過ぎない。これに不服なバーネットは、WA州内でのGST徴収額の少なくとも75%を、WA州に還元すべきと要求しているのだ。

さらに言えば、それがWA州選挙にどの程度の影響を及ぼしたかを判断するのは困難であるものの、連邦労働党政府が最近公表した2政策、すなわち「457査証」(注:一時滞在の就労査証。同査証の有効期限は最高4年間で、国内では見つけることが困難な技能の持ち主に対し、有資格の豪州の雇用者がスポンサーとなった場合に発給される)の厳格化策と、現行労使制度である公正労働法の改正政策も、今次選挙でWA州労働党に不利に働いた可能性が高い。

というのも、457制度の厳格化や労働組合の役割の強化に繋がる政府改正内容のマイナス影響を大きく受けるのは、正に資源・エネルギー産業界であり、したがって資源大州WA州の経済であるからだ。そのため連邦労働党政府の両政策は、今次WA州選挙で労働党への抗議票を生んだ可能性が高い。

またWA州野党の敗北の理由として、労働党という「ブランド名」自体に深刻な傷がついていることも指摘できるが、その「主犯」はやはり連邦労働党と言えよう。

保守政権の行方と連邦選挙への意味合い


再選を果たしたWA 州自由党・国民党保守政権を率いるコリン・バーネット州首相

さて第2次バーネット政権がスタートしたが、余程のことがない限りは、安定した政権が続くものと予想される。そのように予想する最大の理由は、自由党の単独政権が可能であるにもかかわらず、バーネットが国民党との継続的な協力関係を選択し、また前回選挙後に協力の見返りとして国民党が要求した条件、具体的には、ロイヤルティー収入の4分の1を地方振興策に回すとの条件を、今後も継続すると約束したからだ。

下院の数の上では問題はないとは言え、地方選挙区で強い国民党との関係が冷却し、両政党の間に軋轢でも生じれば、バーネット政権の統治能力に重大な疑問符が付けられ、ひいては政権が不安定となる恐れがある。引き続き国民党との協力関係を選んだことは、極めて賢明な決定であった。

実は選挙前の国民党は、自由党が議席数を大幅に伸ばし、その結果、国民党の影響力が低下することを懸念して、「国民党が引き続きバランス・オブ・ワーを握らないと、ロイヤルティーを財源とする現行の地方振興策は存続しない可能性がある」などと、地方選挙区の有権者に訴えていたという経緯がある。

ただ、何と言っても第2期保守政権で注目すべきことは、果たしてバーネットが今後4年間の任期を全うするかどうかであろう。もちろん、選挙前のバーネットは、途中で政界から引退することはないと断言したものの、依然として任期中途での引退を予想する向きもある。

ポーターという、バーネット後継最右翼と目されていた政治家が連邦政界への鞍替えを図ったことから、バーネットが引退するとなれば、実力派ではあるものの、素行に問題のあるバズウェル財務大臣が州首相の座に就くかもしれず、そうなれば次期WA州選挙で、マクゴーワン率いる労働党が勝利を果たすことも十分に考えられよう。実際に、今次選挙では惨敗を喫したとは言え、野党リーダーであるマクゴーワンのパフォーマンス、ならびに選挙キャンペーンでの野党のパフォーマンスはかなり高いものであった。

直前のニューズポール世論調査などでは、さすがにバーネットとの差が広がったものの、例えば2月初旬の時点でマクゴーワンは、「好ましい州首相」の項目でバーネットに4%差にまで迫っていたほどである。

またマクゴーワンは、選挙キャンペーンでは姑息な「小さな標的戦略」(注:自身の政策、手の内は見せることなしに、ひたすら対抗政党の失策、政策だけを批判、追及するとの戦略)に頼るのではなく、積極的な政策提言、とりわけ運輸インフラの整備に関してかなり魅力的な政策を公表していた(注:ただ鉄道インフラの建設コストの試算額が低過ぎ、批判を浴びたが)。

確かに「小さな標的戦略」の不採用は、それが無意味だからとの事情もあったが(注:同戦略は、対抗相手が弱い状況、黙っていても倒れるような状況下で初めて有効である)、正攻法で政策論議に臨んだ姿勢は大いに評価できる。

選挙直後にバーネットは、早晩労働党は復活すると警鐘を鳴らしたが、これは敗軍の将であるマクゴーワンへのリップ・サービスでは決してなく、バーネットの正直な判断、気持ちと言えよう。

最後に、今次WA州選挙の連邦選挙への意味合いを考えると、上述したように、WA州選挙における野党の敗因の1つは、連邦労働党の介入や、炭素税とMRRTという連邦の政策に対する反発であった。次期連邦選挙ではなおさらのこと、WA州民はこういった政策の生みの親である連邦労働党に、喜んで鉄槌を下すこととなろう。

ちなみにWA州は、炭素税やMRRTの導入前から労働党の人気が低いところで、前回2010年8月の選挙連邦では、WA州の連邦下院定数15の内、労働党が獲得したのはわずかに3議席であった。

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