鉱物資源利用税廃棄法案の成立

政局展望

鉱物資源利用税廃棄法案の成立

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

アボット保守連合政府の鉱物資源利用税廃棄法案は、野党労働党とグリーンズの反対はもちろんのこと、上院に8人存在する「その他」議員も、廃棄には厳しい「付帯条件」を付けていたことから、成立のめどが立っていなかったが、9月2日、同法案は、政府の修正案を受け入れた「その他」議員6人の支持を得て、上院で可決され、無事に成立している。その結果、既に7月に保守政府の廃棄法案が成立した炭素税制度と同様に、ギラード労働党政府によって2012年7月1日から施行された資源税制度も、丸2カ年度のみで、すなわち今年の6月30日をもって廃止されることとなった。

鉱物資源利用税導入の経緯


アボット保守連合、鉱物資源利用税を廃止へ(Photo: AFP)

ラッドが首相であった2010年5月に、労働党政府は、いわゆるヘンリー税制改革答申書の提言を受入れて、利潤に応じて課税される資源超過利潤税(RSPT)の導入を公表している。ところがRSPTについては、当の政府も驚くほど資源業界が強く反撥している。その背景としては、資源業界には厳しいRSPTの中身もさることながら、そもそもラッド政府がいつものパターンで、関係各層への事前の根回しや交渉もせずに、しかも政治的要求を優先させて、重大な政策を場当たり的に単独決定し、公表したことが指摘できる(注:実のところ、RSPT問題での「A級戦犯」は、当時のスワン財務大臣であったが)。いずれにせよ、その後の資源税交渉にも不熱心で、しかも資源業界を「悪玉扱い」にするラッド政府の姿勢に強く反撥した業界は、メディアを通じて強力な反政府、反資源税キャンペーンを展開したのである。資源業界は、何と言っても財政が潤沢なだけに、政府にとっては手強い相手で、また同問題では頼みの綱であった一般世論も、結局、政府に対して批判的となった。こういったことから、RSPT問題を巡る一件は、ラッド政府に甚大なダメージを与え、労働党の内部からは、ラッドのリーダーとしてのパフォーマンスに深刻な疑問が呈されたのである。それが、10年6月の「ラッド降ろしクーデター」を引起した、「最後の一押し」ともなった。

一方、連邦選挙を間近に控え、資源業界との喧嘩に強い危機感を抱いていた後任のギラード首相は、大きく宥和(ゆうわ)路線へと舵を切り、3大手資源企業の要求、すなわちBHPビリトン、リオ・ティント、そしてエクストラタ社からの要求を大幅に受入れて、RSPTを大きくソフト化した、鉱物資源利用税(MRRT)の採用を決定している。このMRRT導入法案は12年の3月に成立し、MRRT制度は同年7月1日より施行された。MRRT制度の主要骨子は、①超過利潤(“Rents” / “Super Profits”)への課税率は30%(注:ただ25%の資源採掘引当て制度があるので、超過利潤の75%に課税されるに過ぎない。別の見方をすれば、ヘッドラインで見ると30%のMRRTの税率も、実質は22.5%に過ぎないということ)、②課税対象となる利潤の「敷居」は、10年国債の利回りに加えて7%を超える分、③課税対象は鉄鉱石と石炭のみ、④オンショアの石油や天然ガス・プロジェクトは、オフショアの石油および天然ガス・プロジェクトを対象とする現行課税レジームの石油資源利用税(PRRT)の中に含める、⑤遡及的適応措置への対応、⑥課税対象の資源企業は年間の収益が7,500万ドル以上(注:年間収益が1億2,500万ドルまでは課税を段階的に実施)、⑦州等政府に収めたロイヤルティーについては、将来のMRRT税のクレジットに(注:企業への「二重課税」を避けるための措置)、そして⑧MRRT税収を財源に各種施策を実施、などというものであった。

鉱物資源利用税の問題点

MRRT制度は無事施行されたものの、施行の前後から、MRRT制度が業界もしくは州等政府からの違憲訴訟に直面する可能性(注:実際に違憲訴訟となったが、既に合憲判決が出ている)、州等政府が資源企業に課すロイヤルティーとMRRTとの相殺問題、具体的には、資源の豊富なWA州やQLD州政府による、ロイヤルティーの「便乗値上げ」の問題(注:ロイヤルティーの補償、相殺は、将来のロイヤルティーの値上げ分も含めて、全額を企業に対して補償するとしていたことから、これが州等政府の値上げインセンティブを刺激し、結局、州等政府が値上げをするたびに、連邦へのMRRT税収額が減少することとなった)、そしてMRRT税収入の使途および税収入予測額を巡る問題、などが大いに物議を醸した。このうち、財政再建を重視するアボット保守連合政権にとっても深刻な問題となっていたのが、最後のMRRT税収入の使途と税収入額の問題である。周知の通り、オリジナル版のRSPTにしても、RSPTを業界寄りに大きくソフト化したMRRTにしても、税収入の最重要な使途とされたのは、法人税率低減の財源にするというものであった。その理由は、労働党政府にとって法人税率の低減は、資源税導入を正当化する上での、重大な「理論武装」であったからだ。すなわち、労働党政府は資源税の目的として、将来にわたり安定した税収を確保することと同時に、ブームを謳歌する資源・エネルギー業界の税貢献を高めることを挙げてきたのだが、それに加えて政府は、資源税収の一部を財源に法人税の減税を実施し、問題視されていた「国内経済の二重構造/二重スピード」(Two Speed Economy)を是正することができると強調してきたのだ。

豪州では、一方でブームに沸く資源・エネルギー部門があり、他方で、豪州ドル高の趨勢もあって、ますます価格競争力が阻害されている製造業部門などがある、といった状況が現出していたが、資源税は所得再配分的な施策を通じて、資源業界特有の「ブーム&バースト」のサイクルを上手くコントロールするとともに、資源部門と非資源部門との「スピード」をいわば平均化する、さらに「資源」の偏在を是正できるとされたのである。

ところが、労働党政府にとって最重要な「理論武装」であった法人税率の低減策は、一昨年5月に公表された連邦予算案の中で、あっさりと「没」にされ、政府はその代わりに、MRRT税収入の一部を使った各世帯への露骨な「ばら撒き」策を採用している。中核が「学校生徒ボーナス」策と呼称されるものだが、「ばら撒き」の背景には、労働党政府は光熱費の高騰等、生活コストの圧力に晒されていた、低・中所得層有権者の再確保、維持を狙っていたのだが、ただ、当時の政府の最大の優先事項は、アンダーライング現金ベースでの財政収支を何とか黒字に転換することにあったため、各種懐柔策の財源的な余裕がなかったとの事情があった。そこで政府は、法人企業を犠牲にした上で、選挙上極めて重要な低・中所得層対策を優先させたのである。重大な政策内容の変更は、ギラード政府は約束を守らないとの、既に国民の間に醸成されていたパーセプションを強めるものであったし、またMRRT導入のための最大の「理論武装」を自ら放棄したことによって、労働党政府の政策立案能力、経済運営能力に一層の疑問符が付くとともに、目先の政治的要因を優先する体質にも批判が集まることともなった。ただ、より問題であったのは、当時の政府のMRRT税収入予測があまりに楽観的なものであったことだ。これは12年7月にMRRT制度が施行された直後に、早くも明らかとなった。当時のギラード労働党政府は、税収入が予測を大きく下回った理由として、一次産品価格や資源需要の低迷傾向、また豪州ドル高の趨勢などで、石炭や鉄鉱石企業の利潤が圧縮された一方、MRRTは石炭や鉄鉱石ビジネスの超過利潤に課税されるからと反論してきた。さらに労働党政府は、州政府のロイヤルティーの引上げがMRRT税収の減少につながったとも強調してきた。

要するに連邦政府は、自分たちのあずかり知らぬ要因によるものと釈明してきたのである。しかしながら、上記要因はその通りとしても、予測額と実際の額との間にはあまりに大きなギャップがあったことから、MRRTの設計そのものに問題があったのは間違いない。いずれにせよ、ギラード労働党政府によって、MRRTの税収入を財源とする複数の「ばら撒き」的な政策が施行された一方で、肝心のMRRT税収入額が期待を大きく下回るものとなった結果、これらの関連政策はMRRT税収入だけではとても賄いきれず、結局政府は、かなりの額を一般財源から手当てせざるを得ないこととなり、財政の一層の赤字要因ともなったのである。なお、現行のMRRT制度では、MRRT税収入と関連付けられた政策は大きく8つあり、その内の3つはビジネス関連、1つは資源関連、1つは退職年金関連、そして残り3つが家族/世帯関連あるいは低・中所得層向けの政策となっている。

鉱物資源利用税と保守連合

アボット保守連合とMRRTだが、保守連合にとりMRRTとは、「金の卵を産む鶏を殺す愚行」であったし、また労働党政権を「重税政権」と攻撃する上でも重要なイシューであった。そのため、政権の座に就いた保守連合は、早くも昨年の10月にはMRRT廃棄法案の原案を公表し、しばらく後に下院に上程している。MRRT廃棄法案は、上述したMRRT税収入を一部財源とする、関連政策の廃棄法案と抱き合わせとなっていたが、アボット政府としては、MRRTの廃棄後には、MRRT税収入を財源とするような施策は廃棄して当然との考えであった。そしてアボット政府は、廃棄によってMRRT税収入はなくなるものの、例えば「学校生徒ボーナス」策といった、MRRTの税収入を財源として実施中の各種政策、あるいはMRRT税収入では結局賄いきれない各種実施政策を廃棄するため、ネットでみると138億ドルを節減できるとしていた。

さて廃棄法案は、言うまでもなく下院では難なく可決され、法案は上院に送付されて、今年の3月下旬には採決に附されたが、結果は予想通りで、すなわち、野党労働党とグリーンズが反対に回ったことから、同じく3月に否決された政府の炭素税廃棄法案に続き、MRRT廃棄法案も否決されることとなった。そこでアボット保守政府としては、今年の7月1日からスタートした新上院での可決を期待したわけだが、新上院の政党別勢力分布も、与党保守連合は33議席に過ぎず、野党労働党が25、グリーンズ10、「その他」議員が8となっている。ただし、旧上院に比べると新上院は、これでもアボット政府には遥かにましな状況と言える。その理由は、旧上院においては、仮に労働党とグリーンズが政府法案に反対した場合には、政府法案が可決される可能性はなかったが、新上院においては、仮に労働党とグリーンズが政府法案に反対した場合でも、8人いる「その他」議員の内の少なくとも6人が支持すれば、政府法案は可決されるからだ。実のところ、MRRTの廃棄そのものについては、「その他」議員は全員が賛成していた。ただ問題は、「その他」議員8人のMRRT廃棄支持は、自由民主党のレオンヘルムを除き、あくまで条件付きであったことだ。

その条件とは、上述したMRRT関連政策、すなわち、一応MRRTの税収入を財源に導入された諸施策、取り分け、その内の3政策を政府が保持することを条件に、廃棄法案に賛成票を投ずるというものであった。具体的には、(ア)低所得層を対象とする退職年金関連政策、(イ)低所得層を対象とする所得補助政策、そして(ウ)「学校生徒ボーナス」策の3つである。結局、パーマー連合党(PUP)など、合計で6人の「その他」議員が、政府の妥協案あるいは変更提言を受入れた結果、MRRT廃棄法案も上院で可決、成立している。

一方、上記3政策の当面の存続を政府から勝ち取った「その他」議員は、逆に政府の要求を飲んで、変更に伴う歳出節減予定額の減少を一部補うために、退職年金義務積立て率(注:賃金/給与支払い額の一定率を、被用者毎の退職年金基金に積立てることを雇用者に義務付けるもの)の上昇計画を一層遅延させることに同意している。公約の「政治的重み」という点では、炭素税の廃棄公約よりも軽かったとはいえ、MRRTの廃棄を実現したことは、言うまでもなくアボット保守政府には大きな得点であった。

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