【政局展望】与党再選のNSW州選挙

政局展望

与党再選のNSW州選挙

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

3月28日に実施されたNSW州選挙は、与野党の議席差が大きく縮小したものの、自由党のベアード率いる保守連合政権が危なげのない勝利を収めている。

NSW州の選挙制度

NSW州の下院は4年の固定任期制を採用しており、この州下院選挙と、任期が8年である州上院の半数改選選挙が、4年ごとの3月の第4土曜日に同時に実施される。前回のNSW州選挙は11年3月26日(土)であったことから、今回の選挙は15年の3月28日となった。NSW下院は1人1区の小選挙区制で、選挙区の総数は93(注:要するに下院の定数は93)、一方、同州上院は州全体を1選挙区とする比例代表制で、上院の定数は42となっている。周知の通り、同じく1人1区の小選挙区制である連邦下院選挙では、いわゆる「優先順位付き連記投票制」(注:原則として、投票用紙に記載されている立候補者全員に選好順位を振る投票制度)を採用しているが、NSW州では連邦とは異なり、またQLD州と同様に「選択的優先順位投票制」なる制度を採用している。同制度下では、投票者は少なくとも第1位選好順位の候補者を選択すれば良い。

選挙帰趨

さて選挙後の下院政党別勢力分布は、与党自由党が37議席(注:選挙前は42)、与党国民党17(同19)、野党労働党34(同23)、グリーンズが3(同1)、無所属2(同8)となっている。与党の過半数「バッファ」は7、そして与野党の議席差は20である。今回の選挙では与野党議席差のかなりの縮小、すなわち、与党議席数の減少と、野党議席数の相当な増加があったわけだが、これは十分に予想されていたことであった。というのも、前回の11年3月選挙では、当時の与党労働党が異例なほど莫大な数の議席を減少させ、一方、当時野党であった保守連合は、逆に莫大な数の議席増を果たしたことから、今回の選挙でその「揺り戻し」があることは確実であったからだ。

一方、下院選挙と同時に実施された上院半数改選選挙は、改選数21のうち、与党保守連合が9、労働党7、グリーンズ2、射撃・釣り愛好家党1、キリスト教民主党1、そして動物愛護党が1となった。連邦と同じく、各州でも上院は重要であるが(注:ただしQLD州は一院制。州のステータスではないACTとNTも一院制)、ところが連邦と同じく各州でも、下院を制した政権党が、上院では過半数に満たない状況が頻繁に現出している。今回の選挙で余裕をもって下院を制したベアード保守連合も、大方の予想通りに、上院で過半数を制することには失敗している。なお、今次NSW上院半数改選選挙の対象ではなかった21上院議員の内訳は、保守連合が11、労働党5、グリーンズ3、射撃・釣り愛好家党1、そしてキリスト教民主党1となっている。

一方、今次選挙における保守連合の当選数は9であるので、今後の保守連合上院議員数は併せて20人となる(注:野党労働党は12)。上院の過半数は22であることから、与党は2議席不足していることとなるが、ただ、与党にとってはありがたいことに、強硬保守のキリスト教民主党が2議席を擁していることから、同党の支持を得れば政府法案は可決されることになる。ベアード保守政府にとって最重要な法案である、電力民営化政策施行法案についても、労働党、グリーンズ、射撃・釣り愛好家党は反対しているものの、キリスト教民主党は前向きであり、ある程度の条件を政府がのみさえすれば、同党の支持を得て法案は上院で可決、成立する公算が大と言える(注:野党労働党が、最終的に民営化法案を支持するという可能性も全く無視はできない)。

与党の勝因/野党の敗因

今回のNSW州選挙の与党保守連合の勝因、あるいは野党労働党の敗因としては、主として以下の5点が指摘できよう。まず何よりも第1に、ベアード州首相への高評価、高い人気である。11年州選挙では、オファレル率いる野党保守連合が歴史的な地滑り勝利を収めたが、勝利に貢献したオファレルは、昨年の4月に比較的些細な理由から州首相を辞任している。辞任の翌日には、後任のリーダーを選ぶNSW自由党の両院議員総会が開かれたが、投票を経ずに「異議なし」で、同州与党自由党のリーダーに選ばれ、第44代目のNSW州首相に就任したのが、財務大臣であったベアードである。後述するように、今回の選挙では政府の電力部門民営化政策への反対が強かったのだが、それにもかかわらず、与党が余裕をもって勝利を収めたのも、有能であるばかりか、庶民的で典型的な「ナイス・ガイ」のベアードへの人気、ベアードの信頼感の高さの賜物であったと言えよう。

第2に、ベアード政権が第1期目の政権で、また今次選挙はベアードにとって州首相としては初陣で、しかも11年選挙までの労働党政権が強い批判に晒されていたとの事実である。確かに、昨年11月のVIC州選挙では第1期目の保守連合政権が敗北し、しかも敗れたナプサインにとって同選挙は州首相として初陣であった。さらに、今年1月のQLD州選挙の場合には、第1期目の保守連合政権が敗北したばかりか、VIC州とは異なり、与野党の議席差が莫大であったにもかかわらず、また何よりも、敗れた保守政権の前のブライ労働党政権への批判が強かったにもかかわらず、第1期目の政権が敗北している。

まさにQLD州選挙は、「政権は2期続く」との「常識」を覆す驚天動地の結果となったが、第1期目の政権で、しかも前政権の評価が低い場合に、現政権が有利であるのはもちろん否定できない。しかも、QLDとNSWのどちらの州も労働党前政権への評価が低かったとは言っても、両州のケースを比較した場合には重要な差異が2つ存在している。1つは、リーダーへの評価の違いである。周知の通り、QLD州選挙帰趨の最大、かつ唯一と言っても過言ではない要因は、自由国民党のニューマン州首相に対する州民の強い怒りであった。それとは好対照に、NSWでは高い人気を誇るベアードが州首相を務めている。

もう1つの重大な差異は、労働党前政権への低評価の内容である。すなわち、QLDのブライ労働党政権への批判、州民の怒りは、主として同政権の統治能力への批判、取り分け経済運営能力への批判であった。一方、NSW州は、労働党が政権党となるのが「自然」と見なされてきた全国でも稀な州である。その労働党に対して、NSW州民が強い不満、憤りを抱いていた背景には、何よりも、文字通り数え切れないほどの労働党政治家のスキャンダルや(注:最悪のケースでは、現職の閣僚が児童性愛や同性愛、麻薬がらみの犯罪で収監された)、腐敗、大規模な汚職問題があった。要するに、QLDとNSWの労働党前政権への州民の評価は、共に低かったとは言うものの、その内容には重大な差異があり、すなわち、前者への悪評価が主として「能力」に関するものであった一方で、後者への悪評価は「素行」に関するものであった。

豪州は「庶民の国」であり、尊大な政治家や特権意識も持つ、あるいは特権的地位を悪用する政治家にはことのほか厳しい。労働党前政権への州民の怒りの強さ、深刻度は、明らかにNSW前労働党政権への方が勝っていたと言える。

第3に保守連合政権の高パフォーマンスである。11年NSW州選挙でのオファレル保守連合の勝利は、主として労働党が勝手に倒れた結果、自滅した結果に過ぎず、オファレルのリーダーシップが評価された結果では毛頭なかった。しかしながら、前回選挙以降、約3年間にわたったオファレル保守連合政権のパフォーマンスは、相当に高いものであった。その後、オファレル州首相の突然の辞任という政変劇を受けて、ベアードが「棚ボタ」で最大州の州首相となったわけだが、就任直後には、党内求心力を維持できるか懸念する向きもあった。ベアードはオファレル後継の最右翼と目されていたとはいえ、リーダー交代が現実のものとなるのは、何年も先のことと見なされていたため、大物のオファレルの突然の辞任は、党内にやや「力の真空」を生じさせる恐れもあったからだ。

政治家としては依然として若手で、また、リーダーとしての「心の準備」もできていなかったベアードだけに、しかもNSW自由党は、これまでもしばしば党内抗争を繰り広げてきただけに、ベアードとしては、何よりも求心力の維持に細心の注意を払う必要があったのである。ただ、その後ベアードは、ポジティブさや人柄の良さによって、見事に保守連合内をまとめ上げている。党内求心力の低下、権力闘争は「政府は州民のための本来の仕事を放棄している」とのパーセプションを醸成するだけに、保守連合内のまとまりの良さは与党への高評価につながってきたのだ。

第4に、NSW経済が相当に好調との状況である。例えば昨年、コモンウェルス銀行の証券部門であるコムセックが、各種経済指標に基づいて各州のランク付けを行ったが、同機関が調査を開始した08年以降で初めて、NSW州経済が第1位にランクされている。同州の経済がこれほど好調であったのは、00年に開催されたシドニー・オリンピックの時代とされる。州経済が好調である理由としては、何と言っても、豪州準備銀行(RBA)の金融緩和政策により、州の不動産部門がブーム状況にあること、また豪州ドル高が是正されたことにより、教育部門や観光部門も好調で、そして製造品の輸出状況も改善されたことなどが挙げられている。

また、不動産部門の印紙税収入の大幅増加により、州の財政も健全なものとなっている。州民の生活に直接関係する州経済が好調であることは、NSW保守連合政権の経済運営能力への評価を高めるもので、今回の選挙でも、与党への同評価が多くの有権者の投票行動に影響を与えたと言える。最後に第5点目としては、選挙キャンペーン戦略における与野党の優劣が挙げられる。まず与党保守連合の選挙戦略は、労働党の政権担当能力を批判したもの、とりわけ、リーダーのフォーリーの「初心者振り」を印象付けようとするものであった。

今次選挙で与党は、フォーリーが労働党連邦/州政治家の典型的なキャリア・パスを経ていること、換言すれば「実社会に疎い」こと、しかも政治家として閣僚も経験していないことを攻撃している。これらの事実を通じて、与党がキャンペーン活動で州民に繰り返し訴えたかったのは、そのような「初心者」が、いきなり最大州NSWの州首相になるには無理があるという点であった。

このキャンペーンは、一定の効果をもたらしたものと考えられる。これに対して、野党労働党の選挙キャンペーン戦略は、与党の電力部門民営化政策へのスケアー・キャンペーンに的を絞ったものであった。この電力部門の民営化問題とは、今次州選挙で最大の政策争点となったものである。具体的には、ベアードが昨年の6月に公表したもので、NSW州電力送電・配電部門公企業の49%を、99年間のリースで民営化するというものだが、地方在住有権者層の反発を恐れる連立先の国民党に配慮して、地方の送電・配電公企業は民営化の対象から外されている。ベアードは、民営化公企業の債務返済分を除いた売却額、民営化のプロセスで発生する金利収入、そして連邦政府の「民営化リサイクリング」策により、合計では向こう10カ年で200億ドルほどが確保でき、これを資金にして、シドニー湾横断の第2鉄道海底トンネルや道路建設など、運輸インフラの大規模な整備や、教育分野などへのテコ入れを行うとしている。この電力部門の民営化問題は、過去20年近くにわたってNSW州政界で政治問題化してきたものであるが、フォーリー野党は、州民の多くに依然として民営化への懸念があるとの状況を活用すべく、反民営化を選挙戦略の中核に据えたのである。確かに、労働組合とも共闘した野党のプロパガンダは、一部の州民の民営化への恐れを強化した点で、ある程度の効果があったことは否定できない。

しかしながら野党の反民営化キャンペーンは、重要な労働党のクレディビリティーを貶める結果となった。その理由は、「民営化イコール電気料金の一層の高騰」との労働党の主張が、専門家によって、あるいは電力部門の民営化を断行したVICやSAの事例によって、明瞭に否定されたからだ。そういった中で労働党は、「排外カード」を切り、民営化によってNSW州の電力部門が、中国の「国策企業」の支配下に置かれると警鐘を鳴らしている。NSW州には中国系有権者が多く居住しているし、また伝統的に「エスニック系には強い」労働党には、中国寄りの政治家も多いことから、中国叩き的な政治宣伝は驚きをもって受け止められたが、同宣伝はかつての労働党の大物政治家からも公然と批判された。労働党の反民営化選挙戦略は、「収支決算」では失敗であったと言えよう。

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