【鵜の目タカの目①】「夢の世界」の扉を開けた五郎丸

鵜の目タカの目 ― 特約記者・植松久隆による取材雑感

「夢の世界」の扉を開けた五郎丸

文=植松久隆(Taka Uematsu/本紙特約記者)、写真=小副川晴香

五郎丸、ついに開幕戦デビュー

2月27日、シドニーで行われた世界最高峰のスーパー・ラグビー(SR)の開幕戦のワラタス戦で五郎丸歩(29歳、QLDレッズ)が、ついにデビューした。

試合終了後、地元TVクルーに囲まれる五郎丸。「夢の世界」の扉を開けた彼は、ピッチで何を思っていたのだろうか

試合終了後、地元TVクルーに囲まれる五郎丸。「夢の世界」の扉を開けた彼は、ピッチで何を思っていたのだろうか

試合は優勢が囁かれたホームのNSWワラタスが、下馬評通りに開始早々から押す展開。早々に先制したワラタスは、立て続けにトライで得点を重ねてレッズを引き離す。そんなレッズにとって苦しい試合展開で、五郎丸デビューの瞬間が予想よりも早まった。

前半26分が過ぎたあたりで、リザーブ席で戦況を静かに見守っていた五郎丸がおもむろに立ち上がり、ビブスを脱ぐ。前半26分45秒。プレーが切れて交代が認められた五郎丸は、いつもとは違う“背番号23”を背負い、いつものポジションへと走った。その瞬間、「夢の世界」の大きな扉が開け放たれ、日本ラグビーの至宝・五郎丸が、SRの夢舞台で歴史的な一歩を刻んだのだ。

早い時間帯でのデビューは、味方選手のケガを受けてのスクランブルだった。この試合にSRデビューを果たしたCTBヘンリー・タエフが負傷。バックスのポジション変更を余儀なくされたレッズのグレアム監督は、先発FBのハントをウィングに回し、その代わりのFBに五郎丸をピッチに送った。

押し込まれた展開にケガのトラブルも重なっての予想以上に早い出場。五郎丸本人はどう捉えていたのか。やはり、思ったより早かったのか。それを問う報道陣の質問に「1分でも試合早く出たかった」と五郎丸。先週の木曜日の練習後に「何分から出てもいいように、しっかり準備しておきたい」と語っていた通り、交代の声が掛かると同時に、心身ともに準備万端のスイッチが入った。SRではこの日デビューのルーキーでも、さすがに国際舞台の修羅場を潜り抜けてきたプロフェッショナル。ほとんど経験のないベンチ・スタート、しかも、スクランブル発進でも全くの不安はなかった。

持ち前のキックでチームに貢献

五郎丸投入の効果は、すぐに表れた。そこから、レッズは少し持ち直して、遅ればせながらの反撃に転じる。最初の直接的なプレー関与は33分。自陣奥に押し込まれて受けたボールを大きく蹴りだす。さらに、37分には抜け出した相手選手の突進を鋭い出足のタックルで止めるなど、主に守備面での貢献を見せた五郎丸。後半に入ってからは、必死に挽回を試みるチームの中で、持ち前のキックでも貢献した。

後半5分、相手反則で得たペナルティー・キックを冷静に蹴りこみ、SR初得点となる3得点。お馴染みのルーティンの指組ポーズが場内の大画面に大写しになると、敵サポーターからも歓声が沸いた。後半9分に再び、正面で得たペナルティー・キックはわずかに右に逸らした。この後、後半20分に味方トライのコンバージョン・キックを決め、この試合5得点。キックは3回中2回成功、成功率67%。

「悪くない。でも、任せられた以上は100%決めなきゃいけない」、試合後の五郎丸はキックのさらなる精度アップを誓った。「日本国内のリーグ(トップ・リーグ)と比べると、コンタクトエリアでのパワーは、さすが世界最高峰のリーグだと感じた」。自ら、この日の会見で「夢の世界」と表現した世界最高での初めてのプレーに関しては、実体験をもとに率直に語った。

後半10分、味方へのパスをインターセプトされたシーンでは、世界のトップ・レベルのディフェンスの出足を感じ取っただろう。もう1つの印象的なシーンは、後半21分、抜け出したワラタスFHの豪州代表のカートリー・ビールの進路に立ち塞がり、肩で接触して相手を倒した場面。相手へのアドバンテージで事なきは得たが、アウェーで敵サポーターから大きなブーイングを浴びる経験もSR参戦をより実感させる瞬間だったのではないだろうか。

奮闘むなしく、五郎丸とレッズは劣勢を挽回できないままノーサイドの笛を聞いた。試合後の五郎丸が、グラウンドから引き上げる時に客席の少年ファンとハイタッチをするシーンが見られた。その時には、スタジアムに現れた時のやや緊張した締まった表情とは違う、安堵感が含まれたような表情が見て取れた。もちろん、チームの10-30という敗戦に笑顔はなかったが。

「僕はベストを尽くすだけ」

その後の会見では、試合に敗れた後ということもあって、淡々とした受け答えに終始していた(試合後は、いつもこうなのかも知れないが、日本時代を知らない筆者には比較の余地が無い)。筆者の「次のホーム開幕戦では、もっと長いプレー時間、それこそ先発を狙うのか」という質問には、「それを決めるのは監督。僕はベストを尽くすだけ」。内心、「そんなこと当たり前だろう」と思われたに違いない。それでも聞いてみたかった、彼のレギュラー奪取宣言を。

現状のチーム状態、さらにタエフの故障もあって、次節のホーム開幕戦(5日・ブリスベン)での先発出場の可能性はグンと上がった。それでも、五郎丸は「しっかり準備する」ことが大事なことは、当然ながら理解している。来週は、彼の背中に躍る「GOROMARU 15」の文字を見ることができるのだろうか。

夜もとっぷりと暮れたスタジアムからの帰り道。同業の記者さんと「ゴロウさん、やっぱり嬉しいはずですよね、会見クールだったけど」「『夢の世界』っていい言葉だったよな」、そんなことを語りながら家路を急いだ。

五郎丸歩の『夢の世界』での冒険譚。ブリスベン在住である強みを生かして、小回り良く取材、本紙のマンスリー記事とウェブ記事連動で、皆さまに届けていきたい。

あ、そうだ。ゴロウさん、会見の時に最後に言おうと思って言えなかったことがあります。

「1日早いですが、お誕生日おめでとうございます!」

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る