【新連載】歴史に名を刻め 2020東京アスリート

新連載

4年に一度のスポーツの祭典「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」が日に日に迫る中、同大会への出場、
メダル獲得を目指しオーストラリアを拠点に奮闘を続ける、また来豪したオリンピック、パラ・アスリートをインタビュー。

プロBMXアスリート
榊原魁さん・爽さん

Photo: Craig Dutton
Photo: Craig Dutton

競技人生の原点に凱旋できるチャンスは誰にも渡せない

直径約50センチのホイールとリア・ブレーキ、特徴的なハンドルを備えた小型の自転車で、1周300~400mのコースを走り順位を競う「BMXレース」。2008年の北京から正式種目となったその競技で五輪出場を目指す兄妹、榊原魁さんと爽さん。イギリスと日本のハーフでオーストラリア代表を選択しているというユニークなバックグランドを持つ2人に、競技人生の始まりや夢の舞台への思いについて話を聞いた。(聞き手=山内亮治)

競技人生を支え合ってきた互いの存在

――競技を始めたのはいつで、どのようなことがきっかけでしたか。

魁:3歳で父親から自転車を買い与えられたことが、BMXとの出合いでした。とても幼かったのですが、自転車に乗れるようになり試しにコースを走ってみると完走できたんです。そこから「スプロケット・クラス」という順位が付かない参加を目的とした8歳以下のクラスで走るようになりました。練習より先にレースの出場から競技人生が始まったんです。
 本格的にレースに向け練習を始めたのが、日本で生活していた7歳の時でした。日本は、練習環境がオーストラリアに比べると非常に限られていましたが、その当時、東京・八王子に練習場ができました。それにより練習を定期的に積めるようになったんです。

2001年から11年まで日本で生活。競技人生の原点と呼べる場所になった(写真=本人提供)
2001年から11年まで日本で生活。競技人生の原点と呼べる場所になった(写真=本人提供)

爽:4歳からBMXを始めましたが、それはやはり魁の影響でした。毎週末、魁の練習や大会に連れて行ってもらっていましたが、両親がただ観ているだけではつまらないのではないかと私を心配し、自転車を買ってくれました。それがBMXを始めたきっかけでした。自分から始めたいと言ったわけではなかったんです。
 魁のように自分もレースに参加するようになったのですが、1年間、自転車に乗らなかった時期がありました。競技人生初のレースで、派手に転び大泣きして両親の元へ帰ってしまったんです。その後、何とか競技に復帰できました。きっと魁を見ていて、自分も頑張ろうという気持ちになったんだと思います。

――兄妹でプロ・アスリートとして活動されていますが、お互いの存在をどのように感じ、影響し合っていますか。

魁:少し前までは、同じ競技をしている「ただの妹」という認識でした。自分から進んで練習する高いモチベーションが感じられませんでしたから。
 しかし、ここ2、3年、本格的に競技に関わるようになった途端、自分が目標としていたレベルに彼女は想像以上の早さで到達するようになりました。目標をいとも簡単に達成する爽の姿から学ぶことは多いんです。無理かもしれないと諦めかけていることでも、爽を見ているとできるんだという気持ちになります。爽は、自分にとって大きなモチベーターとなっています。

爽:魁の言葉にあるように、競技を始めてからはしばらく、モチベーションが高いとは言えない状況が続いていました。練習が面倒くさい、友人と遊びたいという気持ちだったんです。そんな中でも魁が一生懸命トレーニングしている姿を見ると、次第に自分も頑張らないといけないという気持ちになり、心を入れ替えました。
 また、魁から「練習しろ」と怒られたことが何度もありました。そういう叱咤激励がなければ競技を今まで続けてこられなかった気がします。厳しい兄でもありましたが、そのお陰でBMXのことが大好きになり、自主性を持って練習に取り組めるようになりました。

世界での立ち位置

――五輪を目指し海外を転戦していると伺っています。現在の2人の世界における立ち位置とはどのようなものでしょうか。

今年6月にアゼルバイジャンで開催された世界選手権に出場した魁さん。自身のレベルに手応えを感じながらも悔しい結果となった(Photo: Craig Dutton)
今年6月にアゼルバイジャンで開催された世界選手権に出場した魁さん。自身のレベルに手応えを感じながらも悔しい結果となった(Photo: Craig Dutton)
今年5月のオランダのW杯で3位の成績を収めた爽さん(写真右)。海外遠征1年目ながら自信となる結果を得た(Photo: Craig Dutton)
今年5月のオランダのW杯で3位の成績を収めた爽さん(写真右)。海外遠征1年目ながら自信となる結果を得た(Photo: Craig Dutton)

魁:今年の大会への参加状況について言えば、まず自分も爽もタイトルの防衛が懸かっていたオーストラリア全国大会への出場を辞退しました。現在の自分たちのレベルを考えた時、余程のミスがなければ優勝に手が届く確率が高いからです。本当に完璧に近いレースをしなければ勝てない、そうした重圧に身を置く方が五輪を見据えた時に良いのではと考えた末の決断でした。
 年明けからW杯を戦い、5月に行われたベルギーでの第6戦では4位に入賞するなど個人最高の成績を収め、W杯におけるランキングを昨年の11位から8位へ上げることができました。6月にアゼルバイジャンで開催された世界選手権も今までで最高の走りをしていましたが、残念ながら準々決勝でミスをしてしまい上位入賞を果たせませんでした。ただ、自分自身としては毎年レベルを着実に上げられている感覚を持てています。

爽:今年から年齢の関係でBMXレースでは最高峰となるエリート・クラスでの参戦となり、海外遠征が始まりました。そのため、結果を重視するのではなく、海外遠征を世界のトップ・ライダーとの数多くのレースを通して経験を積む場と位置付けていました。
 その意識が良かったのか、年明けのフランスでのW杯で3位と2位の成績を収め、自信を持って臨んだ5月のオランダのW杯は3位とまた表彰台に上ることができました。世界選手権も6位に入賞しました。フランスでのW杯でロンドン、リオと五輪を連覇している選手とレースすることもありましたが、浮き足立つことなく自分のライディングに集中できたことに手応えを感じています。

五輪への狭き門

――今後、五輪に出場できるかどうかはどのように決まるのですか。

魁:今年の9月から五輪当該年の6月までが五輪の予選期間に当たります。その間に、W杯、国際自転車競技連合(UCI)主催大会、オーストラリア全国大会、オセアニア選手権大会と出場しなければならないレースの数が決まっています。それらの大会でポイントを獲得し、各国上位3人のポイントを合算したのがその国のポイントとなります。そのポイントによって国の順位が決まり、順位に応じて五輪の出場枠が与えられます。国別ランキングの上位2カ国は3枠、3~5位は2枠、6~11位は1枠、それに開催国枠などが加わり五輪にはたったの24しか出場枠がありません。男女それぞれです。

爽:女子に関しては、リオまでは16枠しかなく、東京から24枠に拡大しました。8人の枠が増え、自分としては出場のチャンスが高まったと感じています。

――五輪への手応えや課題を今はどのように感じていますか。

魁:五輪出場は楽な道ではないと思いますが、今の自分の状態は過去に想像したレベルを超えていると思っており、このままレベルアップを続けていけばチャンスはあると思っています。メンタルの面で安定を保つことや身体的にも状態を上げていくことが必要だと考えています。

爽:まだトップ・ライダーよりも若いため、彼女たちに比べ身体面でのパワー不足が否めません。それを補うために筋力トレーニングを増やす必要があるように感じています。そうして、肉体面での課題が克服できればスタートから優位に立てるレース展開を増やせると思います。スキルに併せ、フィジカルで良い状態を作らないといけません。

――東京五輪への思いを聞かせてください。

魁:自分も爽もゴールドコーストで生まれましたが、日本は6年間暮らし、BMXを本格的に始めた場所です。世界選手権に初めて出たのも日本代表としてでした。東京五輪は、BMX人生の原点と言える特別な場所に競技を通して凱旋できるかもしれないまたとない機会です。不思議な縁を感じます。その特別な場所に帰るチャンスは誰にも渡せません。

爽:BMXを日本で始めた当時、祖父と祖母が私たちの練習を見に来てくれていました。その時のことを思い出すと、BMXレースの最高峰と言える舞台、しかも東京という場所で自分たちの成長した姿を2人に見せられればと強く思います。それがかなうことは、自分にとってこれ以上にない最高の瞬間です。


榊原魁(さかきばらかい)
1996年7月29日生まれ。3歳で父親から自転車を買い与えられたのを機にBMXに出合い、日本での生活が始まった4歳から本格的に競技をスタート。高校卒業後にプロBMXアスリートに。2017年のオーストラリア全国大会とオセアニア選手権大会で優勝。18年もベルギーのW杯4位と活躍中。UCI世界ランキング9位

榊原爽(さかきばらさや)
1999年8月23日生まれ。兄・魁の影響で4歳からBMXの練習に参加、6歳から競技を開始。2017年に高校を卒業しプロBMXアスリートとしての活動を開始。2016年、17年とオーストラリア全国大会とオセアニア選手権大会の両大会を連覇。初年度となった18年からのW杯、世界選手権でも好成績を収めている。UCI世界ランキング4位

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