【視点】有終の美―小野伸二、退団決定の発表に寄せて

16日、小野伸二の今季限りでのWSW退団が発表された。

当然、いつかは発表されるのだという覚悟はできていたが、実際に発表されると、やはり寂しい。現行のシーズンは今まさにたけなわで、楽しみはこれからなはずなのだが、「小野が見られるのは、最大であと〇試合」とカウントダウンしてしまう自分がいる。

小野は、WSWという自分の所属クラブだけではなく、リーグ全体のために多大なる貢献をしたことは、もはや言うまでもない。その一つひとつのプレーのクオリティの高さ、意外性のある(小野を良く知る日本人にとってはお馴染みの)パスなどは、多くの人を魅了した。Aリーグ自身やAリーグ中継を行うFOXなどのプロモーションでは、リーグの顔の1人として多くの露出を見せてきた。

ピッチ上では、欠かせない司令塔として攻撃をリードした。彼の持つ抜きん出たテクニックは、相手選手をもうならせた。若い選手を叱咤激励し、自らも攻守に走り回る小野がいる時といない時では、攻撃のリズムが違ってくる。名実ともに、WSWの顔だった。

当地の日本人コミュニティでも、多くのファンが足繁くパラマッタにある本拠地のパーテック・スタジアムに通った。一部の熱心なファンは、ブラックタウンの練習場にまでも足を運んだ。日系の子供たちは、羨望と憧れの眼差しで小野というコミュニティの“英雄”を見つめてきた。

WSWのライオール・ゴーマン チェアマンも、小野に最大限の賛辞を贈る。小野抜きでは、「おとぎ話」と称されたような昨季の快進撃も現実のものとはならなかったであろうから、それも当然と言えば当然だが。

以下、ゴーマン氏のコメントの要約を載せておく。

「シンジは、ピッチの内外を問わず、究極のフットボーラ-で、究極の紳士だ。決してなくなることのない思い出と共に、彼はこのクラブを去る。(中略)シンジ・オノは、永遠に我々のクラブの伝説として語り継がれることになる。ワンダラーズ・ファミリーの全てが、彼の豪州での残りの時間が記憶に残るものとなるよう望んでいる。彼は、これからもずっとワンダラーズ・ファミリーの一員であり、長きに渡って歴史として記録されていく物語の一部である。彼の母国に帰ってからの成功を祈るとともに、クラブの誕生から今に至るまでの道程での何にも代えがたい彼の貢献に謝意を表したい」

もう、これでもかというくらいの褒め言葉のオンパレードだが、これは決して美辞麗句で飾り立てたものではない。すべての関係者の思いを紡いだ心からの謝意なのだろう。いずれにしても、退団するクラブにここまで言わせる助っ人外国人選手が今までいたかは記憶にない。おそらくは初めてだろう。

と、ここまで書いて、今さらながら、この原稿の文章のほとんどが「過去形」になっていることに気が付いた。ここまでは感傷的にこれまでのことを振り返ってきたので、意識しないでいるうちに過去形でばかり書いていた。でも、過去形で書くには、まだ早い。

小野とWSWは、去年逃した“ファイナル王者”のタイトルを奪取するために、残りのレギュラーシーズンとACL、そしてファイナル・シリーズとあと4ヵ月少々、戦い続ける。これは、まだ日本が誇る Tensaiの雄姿を見られるチャンスが残っているということだ。ぜひ、小野が有終の美を飾ろうと奔走する姿を瞼に焼き付けてほしい。そして、長きに渡って、小野と言う天才が輝いたシドニーでの2年の物語を語り継いでもらいたい。

(文・植松久隆(ライター/本紙特約記者)

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