【第4回】ラグビー五郎丸歩、世界への挑戦 – 暗転

ブリスベンから現地レポート

ラグビー五郎丸歩、世界への挑戦

Photo: Taka Uematsu
Photo: Taka Uematsu

第4回:暗転

五郎丸歩(クイーンズランド・レッズ/30)のスーパー・ラグビー(SR)挑戦が衝撃的な結末を迎えることになってしまった。2戦連続の先発で迎えた祖国日本からSR初参戦のサンウルブズ戦で活躍を見せるも、後半途中で負傷退場。一夜明けてから手術を要する重度の脱臼と判明、今季絶望が報じられた。5月に入って、激しく浮き沈みを見せた五郎丸の“歩み”。その挑戦をつぶさに追うシリーズ第4弾は、現地在住記者ならではの情報と写真で切り取っていく。取材・文・写真=植松久隆(ライター/本紙特約記者)

もどかしい4月、見せ場なき途中出場

五郎丸歩、日本ラグビー界の比類なきスーパー・スター。そんな大物選手のクイーンズランド・レッズ(以下レッズ)入団が決まって以来、筆者のダイアリーの「5月21日」の欄には、大きな花丸とともに「レッズ対サンウルブズ!」との書き込みが踊っていた。サンウルブズとの対戦こそ、五郎丸の今回のSR挑戦の大きな“クライマックス”になるのは誰の目にも明らかだった。ここ2カ月は、その大事な試合に「果たして、五郎丸は出られるのか……」との期待と不安を抱きながら彼のSR挑戦を見守ってきた。
 五郎丸の豪州到着後、SRデビュー後の数試合は日本のメディアの関心も高く、“五郎丸フィーバー”は確かにここブリスベンでも見られた。しかし、その後、五郎丸の試合出場状況に比例してメディアの関心度は急降下。4月に入ると、現地の日系メディアの取材は筆者を含む数名の決まった顔ぶれに固定された。しかし、それもサンウルブズ戦が近づくと激変、一気に日本メディアの関心が戻ってきた。

その盛り上がりに呼応するかのように、サンウルブズ戦の直前で五郎丸の置かれた状況が好転。「先発復帰」というフォローの風が吹いた。そんなサンウルブズ戦のドラマに触れるには、4月からの五郎丸の置かれた環境の激しい浮き沈みを詳述しておく必要がある。そのために、少し時計の針を戻すことにしよう。

4月の後半、2週間の南アフリカ遠征に出たレッズ。第7節の今季初勝利の良いイメージを持って臨んだ遠征だったが、南アフリカ勢の壁は高かった。プレトリアでのブルズ戦(第8節/4月17日)は、22-41で力負け。続く、ケープタウンでのストーマーズ戦(第9節/4月23日)も、20-42とダブル・スコアの完敗。この2連戦での五郎丸は、それぞれの試合で後半34分、後半29分から交代出場も得点に絡むなどの見せ場を作ることはできなかった。過酷な2週間の南アフリカ遠征を終えて本拠地に戻ったレッズは、サンコープ・スタジアムでチーターズを迎え撃った(第10節/4月30日)。必死のアピールも実らず、7試合連続でのリザーブ・スタートとなった五郎丸は、この試合の戦況をベンチから見守った。レッズは3戦連続の南アフリカ勢との対戦となったが、ホーム・ゲームのこの試合のレッズは先の2戦とはひと味違った。バックスの動きが全体的に良く機能して、チーターズに30-17と完勝。この試合の五郎丸は、結局、最後までお呼びが掛からず第4節のブルーズ戦以来となる6試合ぶりの出場機会無し。「点差の開いた勝ち試合で出番を得られない」――この厳然たる事実が、五郎丸の置かれた状況の厳しさを浮き彫りにした。

激動の5月、180度急展開

仲の良い立川理道との会話に笑顔を見せる(Photo: Nino Lo Giudice)
仲の良い立川理道との会話に笑顔を見せる(Photo: Nino Lo Giudice)

チーターズ戦において、今季のバックス陣で一番の活躍を見せてきたCTBサム・ケレヴィが試合中に手首の骨折を発症。最低3週間の離脱を要する緊急事態が発生した。ケレヴィの離脱で次節以降のバックス再編成が急務となるのは、同僚のけがに起因するものとは言えど、五郎丸にとっては出場機会の確保、ポジション奪取の可能性を考えれば“チャンス”到来だ。

「ハントをケレヴィの代わりにセンター、五郎丸をFBで起用」とのシナリオを期待しつつ迎えたNZ遠征のクルセイダーズ戦(第11節/5月6日)のメンバー発表だったが、ふたを開けてみると、先発メンバーどころか、遠征メンバーにも五郎丸の名前は無かった。マット・オコナー、ニック・スタイルズ共同監督は、ハントをFBから動かさず、ケレヴィの穴を今季ここまで出場のなかった若いキャンベル・マグナイで埋めることを選択した。

更には、開幕直後のけがからWTGクリス・フェアウアイ=サウティアの復帰してきたことで、前節先発のルーキー、ジュニア・ラロイフィをバックスのユーティリティーとしてベンチに残した煽りでFB専任の五郎丸がはじき出された。

「(五郎丸が)選ばれなかったことにショックを受けがっかりしているのは確かだが、チームとしてベストな(遠征メンバー)23人を選ばなければならなかった」とオコナーBKコーチは語ったが、この遠征メンバー落ちは、五郎丸にとってもさすがに「想定内」ではなかったはずだ。

しかし、次の“出番”は思わぬ形で巡ってきた。クルセイダーズに5-38と完敗した翌週のハリケーンズ戦(第12節/5月14日)のメンバーに股関節痛から回復途上のライバルのカーマイケル・ハントの名前は無かった。大事を取ったハントに代わって、前節では遠征メンバーすら外れていた五郎丸だが、わずか1週でその置かれた立場は、「遠征メンバー外」から「先発出場」と180度の急展開を見せた。共同監督の2人が、単純にFBを入れ替えるという策を講じたことで、五郎丸に一転して先発のチャンスが回ってきたのだ。

実に発出場となったハリケーンズ戦での五郎丸は、キックでは貢献するもいくつかの失点に絡むなど、14-29の敗戦のなかでビター・スイートな内容ながらフル出場で、一定の存在感を見せることができた。

熱狂のサンウルブズ戦、そして……

そして、ついに、サンウルブズ戦(第13節/5月21日)がやってきた。試合前々日、スタメン出場確定した後に、実に1カ月以上ぶりとなるメディア対応で「出られることは非常にうれしい。サンウルブズと試合ができるのは特別」との思いを語った五郎丸の表情には安堵感が見えた。5月に入ってからのジェットコースターのような激しい浮き沈みを「やはり試合に出る出ないが一番の評価のポイント。与えられた時間の中で結果を出すのが実力のある選手」と冷静に振り返った。総じて和やかなメディアとのやり取りだったが、一部のメディアが報じたフランス移籍に関しては頑なに「ノー・コメント」を貫いた。

試合当日の観衆は、今季最高となる1万9,073人。今季の平均入場者数に上乗せされたおよそ2,000人の上積みは、「ほとんどが日本人ファンの貢献(レッズ関係者)」と言うように、多くの日本人が五郎丸と日本のSRチームであるサンウルブズの対戦を楽しんでいた――少なくとも、後半の56分までは。

サンウルブズ戦では、けがで途中退場するまで、持ち味のキックで10得点と勝利に貢献(Photo: Nino Lo Giudice)
サンウルブズ戦では、けがで途中退場するまで、持ち味のキックで10得点と勝利に貢献(Photo: Nino Lo Giudice)

会見では肩のけがの具合を『ノー・プロブレム』と語ったが……(Photo: Nino Lo Giudice)

会見では肩のけがの具合を『ノー・プロブレム』と語ったが……(Photo: Nino Lo Giudice)

大事な試合での五郎丸の先発出場を目の当たりにして、“五郎丸ポーズ”からの長い距離のPGも見ることができた日本人ファンの多くが満足感に浸り始めた矢先に、無事是名馬でこれまでのキャリアを歩んできた五郎丸を予期せぬハプニングが襲った。敵のトライを封じるべく、サンウルブズでも1、2を争う巨漢のリアキ・モリに肩からの激しいタックル。衝突の後、立ち上がれずピッチに横たわり顔を大きく歪める姿に、スタジアムはため息に包まれた。

そのまま、五郎丸は途中退場して、試合はレッズが35-25で接戦を制した。試合後の会見では「ノー・プロブレム」と、肩の状態を語った五郎丸だが、その夜にスキャンに行い、一夜明けて確定した診断結果は「肩鎖関節脱臼、全治12週間」という予想以上に深刻なもの。手術を要するこの大けがで、残りのSRシーズンと6月の代表戦の全てを棒に降ることになってしまった。この先のことに関して、現時点では公式の発表は無いが、当面はブリスベンの地でけがからの回復に勤しむことになるのだろう。

雌伏の時を経てようやくつかんだ先発での出場機会。多くの日本人が見守るサンウルブズ戦での負傷で、SR挑戦が強制終了になるという「暗転」を誰が予想しただろうか。“チャレンジャー”と自らを語ってきた五郎丸の次なるミッションは、この大けがからの「完全復帰」。それを成し遂げて、再び五郎丸に笑顔が戻るのを今は待つしかない。

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