本田圭佑ダウン・アンダー戦記:第5回 追撃の本田

本田圭佑ダウン・アンダー戦記

第5回 追撃の本田

Photo: Anita Milas
Photo: Anita Milas

Aリーグのメルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)所属の本田圭佑が、1カ月以上に及んだ右ハムストリングのけがから回復しピッチに戻ってきた。レギュラー・シーズンもあと10試合となったタイミングで復帰したエースには、残り試合の全てで大車輪の活躍が求められる。帰ってきた千両役者のシーズン終盤に向けての活躍に迫る(文中敬称略)。文:植松久隆(本紙特約記者/ライター)

帰って来た千両役者

本田圭佑がついに戻ってきた。その復帰の舞台となったのは2月10日、ホームでのパース・グローリーとの首位決戦だった。首位を走るパースとの差を何としても縮めたい2位のビクトリーにとっては、その差を一気に縮められる絶好のチャンスである試合にエースの出場が間に合ったとあって、会場はいつも以上の盛り上がりを見せていた。

第8節のメルボルン・ダービーを欠場して以降、本田の出場は、期間にして約1カ月半、9試合ぶりということになる。レギュラー・シーズンが27試合しかないAリーグにあって、本田はここまで「8試合出場、9試合欠場、残り10試合」という状況にある。昨季逃したレギュラー・シーズンの優勝を目指すビクトリーには当然、ここから大事な終盤戦というタイミングで“千両役者”が戻ってきたことは大きなプラスとして作用する。

今回のけがは本田自身にとって未知の領域だっただけに、そのリハビリの過程は慎重なものだった。

今までに経験のないタイプの違和感がある以上、安易な復帰は更なる深刻なけがを引き起こしかねない。ミクロの世界で感じる違和感は本人にしか分り得ないものだけに、彼の専属トレーナーと二人三脚で万全かつできるだけ早い復帰に向けて最善を尽くしリハビリに励んできた。その結果、首位決戦には何とか復帰を間に合わせることができた。

そんなけがと闘うエース不在の間、フロントや首脳陣などは、少しでも早い復帰を望んだであろうし、実際にその働き掛けもあったように聞く。それも、彼らの立場からすれば、デビュー以来、第8節までで本田の“商品価値”は証明されており、今季のビクトリーで唯一無二の“客を呼べる”選手の早期復帰を望むのは当然だ。実際、そういった声は、クラブ・サイドやファンからも漏れ聞こえていた。例えば、第16節のリーグの覇権を争う昨季のレギュラー・シーズンの覇者シドニーFCとのホームでのナショナル・ダービー「ビッグ・ブルー」。豪州の建国を祝う「オーストラリア・デー」に組まれた大一番などは、千両役者の復帰にふさわしい舞台だった。

それでも、本田は万全な状態での復帰に向けて無理をしなかった。ナショナル・ダービーを回避した上、その次のアウェーでのセントラル・コースト戦も自重。けががある程度長引くことを覚悟した時点で、本田の目は、強敵パースとの首位決戦での満を持しての復帰というシナリオしか捉えていなかったように思われる。

本田復帰も遠のくパースの背中

実際、パース戦(2月10日)の試合を控えるチーム練習から本格的に復帰した本田だったが、そこに至るまでも、慎重に慎重を重ねて復帰への階段を1つひとつ上がっていった。

まずは、個別練習で念入りに体と会話をしながら、徐々に負荷を上げていく。全体練習で実戦に近い状態で体を動かし、入念なチェックを経て、まずはベンチ・スタートからということで復帰にGOサインが灯った。

昨年12月22日のメルボルン・ダービーの欠場から、約50日を経ての千両役者の復帰のその時は、後半17分にやって来た。相手に先制を許した直後に、監督から声が掛かった本田がピッチ・サイド横に姿を現すと、スタジアムのボルテージは一気に上がった。出場後すぐに相手に2点目を許す苦しい展開となってしまい、試合巧者のパースの前に及ばなかったものの、30分ほどの出場時間で十分に存在感を示すことができた。

続く、アウェーでのウェリントン戦では、今季2戦共にドローとどうしても勝てない相手に対し「二度あることは三度ある」とばかりに、チームはまたしてもドロー・ゲームを演じた。しかし、その試合で本田は後半10分に出場すると、21分にチームメイトが得たPKを沈めて今季6点目のゴールを挙げ、最大限の仕事をして見せた。

本田の不在の間のビクトリーに関しては、正直、「よく踏ん張れたな」というのが偽らざる感想だ。その間は、エースの本田だけではなく他にも守備の要と期待されているゲオルグ・ニーデマイヤーも離脱しており、他にも常に複数のけが人を抱える状況だった。

更には、噂になっていた貴重なセンターバックとしてチームに貢献していたDFニック・アンセルの韓国Kリーグ(全南/チョンナム)への移籍も決まるなど、正直、ケビン・マスカット監督の用兵は限定的なものとならざるを得なかった。そんな状況下であっても、9戦5勝1敗3分で乗り切ったのだから、上出来と手放しで喜びたいところだ。しかし、上には上がいた。今季のAリーグで隙のない戦いぶりで首位をひた走るパースだ。

本田不在と同じ期間のパースは、6勝1敗2分という戦いぶりだったので、差は縮まるどころが広がった。そして、本田が戻ってからも2戦を1敗1分と勝ちきれないビクトリーを尻目に、パースは直接対決を含む2戦を連勝して一気に差を広げたのだ。

誰よりも責任感、そして、「俺がやらねば」という意識が強い本田にしてみれば、自らの復帰が首位追撃のブーストにならなかったことに忸怩(じくじ)たる思いがあるのは当然だ。しかし、その2試合はいずれも途中交代での出場だっただけに、その責を彼に被せるのは酷というもの。

そして、迎えた2月23日の今季最後のメルボルン・ダービー。今季のダービーでは、1敗1分と未勝利のビクトリーだが、この日は勝てないまでも意地を見せた。試合開始15分でCBニーデマイヤーが与えたPKで先制される苦しい展開も、相手拙攻にも救われて追いついた(ニーデマイヤーはPKを与えた際、2枚目の警告を受け退場)。

その同点弾を演出したのが、この試合から先発復帰した本田だった。後半5分、本田からの長いスルーパスを受けたFWバルバローシスが角度のないところからねじ込んで同点。この日の本田は今季4つ目となるアシストを記録するなど、77分間、精力的に動き回った。

待ち受ける3月の過密日程

第20節の終了時点で、残りあと7試合といよいよシーズン佳境を迎えるAリーグ。レギュラー・シーズン優勝の「プレミアシップ」争いは、首位パースと追うシドニーFC、そして、ビクトリーの3チームに事実上絞られた。首位をひた走るパースを、それぞれ勝ち点8、9の差でシドニーFCとビクトリーが追う展開。ビクトリーは、パースとの直接対決を残していて、パースはシドニーFCとの対戦も残すなど、残りの対戦相手の関係を考慮するならば、現時点での勝ち点9という差は決して絶望的なものではない。

ただ、1つだけ大きな懸念材料があるとすれば、3月の過密スケジュールだ。昨季を4位で終えながらも下克上でファイナル・シリーズを制したビクトリーは、Aリーグの年間チャンピオンとしてアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)の出場権を得ており、3月からのグループ・リーグ(F組)を戦うことが決まっている。同組には、2月19日に行われたACL東地区プレー・オフを経て、サンフレッチェ広島が勝ち上がってきたことで、3月12日、本田の日本凱旋が実現する可能性が濃厚となっている。

しかし、ACLの試合が含まれるビクトリーのスケジュールはかなりタイトだ。3月2日のホームでのニューキャッスル戦後、中2日の5日、ホームでのACL初戦で韓国の大邱(テグ)FCを迎え撃つ。その後、12日に上記の日本遠征、そして中3日となる16日のホームでのブリスベン戦と続く。リーグ戦2試合が共にホームなのがせめてもの救いだが、日本遠征を含む4試合を実に15日間で消化する過密日程は、ビクトリーのパース追撃態勢の大きなネックとなりかねない。

果たして、本田はその全てに「無理のしどころ」と捉えて出場するのだろうか。それとも過密日程を嫌いどこかで休みを入れるのか。だが、本田は息を付けない。広島戦を終えると、監督・本田圭祐へと早変わり。ユニフォームをスーツに着替えてカンボジアに飛び、カンボジア代表チームに合流するのだ。過密日程が更に過密になるために、チームとしてはパースとの天王山を前に無理をして欲しくないと考えているに違いない。

いずれにしても、3月の戦いこそがパースに追いつけ追い越せのビクトリーにとっての正念場。首位パースはACLに出場しないのでリーグ戦に集中できる。ここで貴重な勝ち点を取りこぼすようなことがあれば一気に離されてしまいかねない。現況のビクトリーの戦力では、ターン・オーバーなぞ望むべくもない。レギュラーの多くは過酷な日程を消化することになる。そして、その過酷な“3月シリーズ”の最終戦として、30日に組まれているのがアウェーでのパースとの直接対決。この試合こそ、まさに天王山と呼ぶにふさわしい大一番となる。

復帰3戦の本田を見ていると、試合を経るごとに確実にギアが上がってきている。メルボルン・ダービーで左手に大きくテーピングが巻かれていたのに気付いた人も少なくないだろうが、それは、前週のウェリントン戦での接触時に痛めたものと思われる。ダービーでのプレーを見る限り、さほど影響はないようだ。

3、4月と続くACL絡みの過密スケジュールを経ながらリーグ戦の日程が深まっていくにつれて、試合の重要性は着実に上がっていく。日本有数の“持っている”男は、これまで大事な試合であればあるほど結果を形で示してきた。本人・クラブ共に欲してやまないタイトル奪取に向けての大事な追撃過程で、まさに「追撃の本田」の大暴れを期待して止まない。

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