本田圭佑・現地観戦ルポ エースの風格と失望

本田圭佑 エースの風格と失望 Photo: Moto

2019年4月6日、サッカー・Aリーグ第24節シドニーFC対メルボルン・ビクトリー(以下、メルボルンV)が、シドニー市内中心部から程近いシドニー・クリケット・グラウンドで行われた。全27試合によって行われるレギュラー・シーズン、両チームにとってその優勝を左右することになった重要な1戦を、メルボルンV・本田圭佑のプレーと共に現地観戦ルポで振り返る(本文中敬称略)。 (取材・文=山内亮治、写真=高坂信也)

絶対に負けてはいけない1戦

Aリーグ・レギュラー・シーズン第24節、シドニーFC対メルボルンV。本田圭佑がAリーグに参戦してから、2度目となるシドニーのピッチに立った。

今季3度目となる同対戦カードの会場、シドニー・クリケット・グラウンドに訪れた観客の数は1万4,155人。昨年11月末の同地での試合から5,000人近く観客動員数は減り、スタジアム周辺やスタンドで見掛ける日本人ファンはずっと少なくなった印象だった。本田のAリーグ参戦に対するご祝儀相場的な盛り上がりは過ぎてしまったわけだが、それとは対照的にこの1戦の両チームにとっての重要性は今季で最も重いと言えるものになっていた。

23節終了時点で両チームの置かれた状況はそれぞれ、シドニーFCが14勝6敗3分の勝ち点45で2位、メルボルンVが13勝5敗5分の勝ち点44で3位。両者の勝ち点差はわずか1だが、肝心なのが首位パース・グローリーとの勝ち点差。パースは同時点で15勝2敗5分の勝ち点50とシドニーFCとは5点、メルボルンVに至っては6点差と頭1つ以上抜け出た状態だ。パースの試合が翌日の開催だったため、この1戦で星を落としパースが勝つという状況になってしまえば、シドニーFCとメルボルンVの双方にとって残り3節となったレギュラー・シーズンの優勝争いに事実上引導を渡されることになる。なにせ、首位に立つ相手は23試合でたった2敗の好調ぶりを披露しているチームである。

キック・オフの約50分前になると両チームの選手が、ウォーミング・アップのためにピッチへ。取材時には何となく眺めてしまうウォーミング・アップもこの日だけは違った。両軍とも思わず目を奪われるほどの強度を持って試合への準備を進めていたのだ。「絶対に負けてはいけない」、ひりつくような緊張感がスタジアムに充満した午後7時50分、試合開始の笛は吹かれた。

両チームの試合への思惑と結果

本田は定位置である4-4-2システムの右MFで先発出場した。チームの後方と前方をつなぎ攻撃の組み立てを期待されての位置関係だが、本田がそのリズムを作り出すよりも早くシドニーFCが試合開始と共に攻勢に出る。

本田側のサイドでMFミロス・ニンコビッチとDFマイケル・ズッロが起点となり開始1分弱で2度のチャンスを演出。するとメルボルンVが完全に自陣に押し込まれた6分のこと、右サイドのスロー・インからFWアレックス・ブロスケを経由したボールがMFブランドン・オニールに渡ると、ペナルティー・エリア前で左足を一閃(いっせん)。鮮やかな弾道を描いたボールはゴール右上に突き刺さり、シドニーFCが先制した。

メルボルンVはその後も防戦一方となり、本田もニンコビッチとズッロへの守備の対応に追われてしまう。しかし、立ち上がりの時間とされる15分が過ぎた辺りで本田が相手のマークの目を盗むようにサイドからピッチ中央にポジションを変えた。そこでMFカール・バレリからのパスを受けると最前線で動き出したFWコスタ・バルバローシスに左足でスルー・パス。GKとの1対1をバルバローシスが冷静に決め、16分に試合を振り出しに戻す。

そこから試合が落ち着くと、本田は縦横無尽に動き回った。自らがおとりになるよう前線へスプリントをしたかと思えば、時に最後方まで下がりロング・レンジのパスをFWに供給。全体の陣形をコンパクトに保つシドニーFCの守備網に綻(ほころ)びを作り出そうとトライし続けたが、得点にはつながらず前半は1-1で終了。

後半は一転、両チームとも負けられない思いが先行してかゴールへのリスクを冒さず、膠着(こうちゃく)した展開に。一方で、ベンチ・ワークに少しずつ両チームのゲーム・プランへの考えが見え始める。後半19分と20分に2枚の攻撃的な選手の交代カードを切ったシドニーFCに対し、33分にMFテリー・アントニスが負傷するまで選手交代に踏み切らなかったメルボルンV。そして、メルボルンVの思惑を象徴的に表したのがアディショナル・タイム(以下、AT)に突入した時点での、FWバルバローシスとMFジョシュ・ホープの交代。FWを減らし中盤を厚くする采配は、「同点のまま試合を終わらせよ」というケビン・マスカット監督の意図を読み取れるものだった。

同点で試合終了かと思われたAT3分にドラマは起こった。途中出場したシドニーFCのMFシーム・デヨングがドリブルで右サイド敵陣深くに侵入しクロスを供給。中で受けたニンコビッチが右足でシュートを放つと、ボールは相手選手に当たりGKの逆を突くような形でゴール左に吸い込まれた。劇的な決勝弾にシドニーFCサポーターの歓喜が爆発した。

膠着した試合を打破しようと本田は仲間に盛んに指示を送った
膠着した試合を打破しようと本田は仲間に盛んに指示を送った

本田とチームが進む先

この日、本田はゴールという結果こそ残せなかったものの、試合全体を通したプレーはピッチに立つ22人の中でも別格と思えるものだった。相手の厳しいプレッシャーを受け厳しい体勢になっても、上半身の強さを生かしてボールをキープ、周囲の味方に確実につなげる。不用意にボールを失う場面は見られず、ほぼノー・ミスと言える出来だったからだ。

ただ、そうしたプレーの精度以上に本田圭佑という選手の凄みとして驚かされるのが、彼の状況判断能力である。

先述の前半に見せた相手を揺さぶる動きに加え、更に興味深かったのが後半の試合が膠着してからのプレー。メルボルンVは、ボールを奪うとゴールへ向かって縦方向に素早い攻撃を仕掛けるのだが、守りを固める相手に攻めあぐねてしまう。そこで本田はボールを受けると、左右どちらかのサイドに一度展開した。つまり、「攻め急ぎ過ぎるな」というメッセージと共にワン・クッションを置くのだ。これについて、マスカット監督は試合後の会見で「(本田は)常に良いポジションを取り、攻撃で大きな貢献をしてくれている」と評価した。

ただ、チームの攻撃において本田が都度ベストと思えるプレーを選択しリズムを生み出そうとする反面、味方が彼にボールを預けない場面ではチームは機能性を欠いた。それは、「本田依存」と言い切らないまでも、本田とチームが同じビジョンを描けなければわずかなところで全ての歯車がかみ合わないという課題を意味する。歯車がかみ合い切らなかったことに、敗戦という結果以上の失望はなかったか――。

この日も本田本人に疑問をぶつける機会は訪れなかったが、5月のファイナル・シリーズ(リーグ優勝決定のプレー・オフ)で次こそ明らかになる。本田とチームが同じビジョンを描けたかが。

マスカット監督(左)はピッチ上における本田の働きを高く評価する
マスカット監督(左)はピッチ上における本田の働きを高く評価する
試合終了間際の決勝弾にシドニーFCサポーターは大いに盛り上がった
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殊勲の決勝ゴールを決めたミロス・ニンコビッチ
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スティーブ・コリカ監督(シドニーFC)の攻めの采配は実を結んだ
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