【現地ルポ】本田圭佑、衝撃のAリーグ・ラスト・マッチ

本田圭佑、衝撃のAリーグ・ラスト・マッチ

今季のAリーグ王者を決するプレー・オフ「フィナンシャル・シリーズ」(以下、FS)。その準決勝第2戦、シドニーFC対メルボルン・ビクトリー(以下、メルボルンV)が5月12日、シドニー南西のジュビリー・スタジアムで行われた。両軍にとってAリーグ制覇に王手を掛けるための大一番は、「まさか」の結果となった。衝撃的な展開となった試合で奮闘した本田圭佑を追った(本文中敬称略)。(取材・文=山内亮治、写真=高坂信也)

両軍とも予想し得なかった結果

AリーグFS準決勝第2戦、シドニーFC対メルボルンV。会場のジュビリー・スタジアムの空に試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた時、本田圭佑は大きく肩を落とした。ファイナル・スコアは6-1。メルボルンV、また本田自身のキャリアにとっても惨劇として刻まれたと言って間違いない結果だろう。試合後に取材したシドニーFCの関係者でさえ、「全く予想していなかった」と語ったほどだ。

ちなみに同対戦カードは、昨年4月28日に準決勝、今回と同じくシドニーFCがメルボルンVをホームに迎えるというシチュエーションで実現している。その時は90分を戦っても2-2と決着が着かず、延長後半12分にメルボルンVのテリー・アントニスの劇的な決勝点で試合に終止符が打たれた。

両チームにとって既視感を覚えたはずの今年の試合、絶好のリベンジの機会を得たシドニーFCが燃えなかったはずはない。それでも……、である。シドニーFCのサポーターは今後いつまでも語り継ぎたい、一方のメルボルンVのサポーターにとっては失望の記憶として残り続けるであろうこの結果は、なぜ生まれてしまったのか――。

不吉なデータと隙を見せない試合巧者

注目の1戦で、スコアは前半早々に動いた。立ち上がりの3分、シドニーFCのMFブランドン・オニールの放ったコーナー・キックにGKローレンス・トーマスがキャッチ・ミスをしてしまい、シドニーFCが思わぬ形で先制に成功する(公式記録ではDFアーロン・カルバーのゴール)。ペナルティー・エリア(以下、PA)内での混戦でオフェンス側のファウルが疑われ、映像での確認も行われたが判定は覆らなかった。

両チームにとって負けたら終わりの戦いで、最も注目していたのは「先制点」をどちらが奪うかだった。それには、メルボルンVにとってのある興味深いデータが関係している。

今季のレギュラー・シーズンを3位で終えたメルボルンVだが、実は全27試合中、逆転勝ちを収めたのはたったの1試合。先制されてそのまま敗れた試合は6試合にも及ぶ(同点に追い付けたのは3試合)。つまり、メルボルンVはビハインドの状況に立たされた時、追加点を奪われないように相手の良さを消しつつ、同点、逆転を狙い辛抱強く戦うことを極端に不得手としているのだ。その悪癖はこの試合でも出てしまう。

スコアが動いてから、試合は激しい攻守の入れ替わりと共にアップテンポな展開で進んだ。両チームとも決定機を作れない中、本田は右サイドのタッチ・ライン際で起点となり、ボールを呼び込むとドリブルで積極的に攻撃を仕掛けた。普段、縦横無尽に動き回り、少ないボール・タッチでパスの供給側に回る本田には珍しいプレーだった。ただ、そうした本田のプレーも得点に結びつかず、前半が残り10分を切った辺りで流れはシドニーFCに傾いていく。

前半35分を過ぎた辺りから、メルボルンVは中盤の低い位置でプレーするシドニーFCの攻守の要、オニールとジョシュア・ブリランテへの対応を徐々におろそかにしてしまう。そうしてシドニーFCがボールを保持する時間が続いた43分、右サイドのDFライアン・グラントのクロスが最前線で待ち構えていたFWアレックス・ブロスクに渡ると、左足を振り抜き追加点。今季での現役引退を表明していたキャプテンのブロスクのゴールにチームメートは駆け寄り、スタジアムの熱量も一気に上がった。その後、メルボルンVは浮足立ってしまい、アディショナル・タイム(以下、AT)には不運なオウン・ゴールで更に1点を献上してしまう。

後半に入ってからもシドニーFCの勢いは止まらなかった。むしろそれ以上に、3点差が付いても守りに入らず、相手の奇跡の芽を完全に摘もうと隙を見せない試合巧者ぶりが光った。それを象徴したのが、18分と23分のFWアダム・ル・フォンドレの2ゴール。前者はPKから、後者は流れの中からの得点だったが、どちらも起点となったのはブロスクによるメルボルンVのパスの供給源からのボール奪取だった。相手の良さを消すという点では、メルボルンVと比べかなり対照的なプレーだ。

後半の終盤に入ってからもシドニーFCの選手の走力や攻守の強度は落ちず、43分にはMFミロス・ニンコビッチが右足の豪快なボレーでチーム6点目を挙げる。ゴール・ラッシュを許し完全にプライドをへし折られた形のメルボルンVだったが、ATに左サイドの本田からのクロスをFWオラ・トイボネンがヘッドで合わせた。何とか一矢報いたものの、追加点を奪うことができずにメルボルンVは悪夢のような試合を終えた。

本田は大きな身振りと共にボールを呼び込み積極的に攻撃を仕掛けた
本田は大きな身振りと共にボールを呼び込み積極的に攻撃を仕掛けた

後半戦のギャンブルの代償

試合後、記者会見上に現れたメルボルンVのケビン・マスカット監督は茫然自失という様子だった。現地記者からの「(この試合の結果は)メンタルによるものか」という問いに、「違う」と即座に否定しつつ、こう続けた。

「戦術、メンタル、フィジカル、それら全ての面で相手が自分たちを上回っていた」

上記コメントのうち、本田を含めたチームの戦術は確かに機能したとは言えないものだった。

後半10分のことだった、後のないメルボルンVはDFトーマス・デンを下げてFWケニー・アテューを投入、布陣を4-4-2から攻撃的な3-4-3に変更したのだ。このギャンブルのような布陣変更の影響を受けたのが本田だった。MFの「4」の並びで左サイドにポジションを変えたが、ピッチ中央のエリアを他の味方がカバーし始めたため、本田のプレー・エリアが左に限定されることに。これにより神出鬼没と言えるほどピッチ上のさまざまな場面に現れプレーに関与する本田の良さが失われ、結果的に試合から「消えてしまう」時間が長く続いた。28分にメルボルンVはDFを投入し再び4-4-2に布陣を戻すも、本田は一度失ったプレーのリズムを取り返すに至らず、チームもリズムを失った。

それでも、本田は気を吐いた。普段は飄々(ひょうひょう)とプレーしチャンス・メイクに回ることが多いが、この試合は後半だけでもPA内でシュートを放った他、2度クロスに飛び込むなどゴールへの積極的な姿勢を見せた。メルボルンVにとっては散々な試合だったが、本田のそうしたプレーには選手としての誇りを感じられ、胸を打たれた。

総じて出来の良いとは言えないプレーをしたメルボルンVの選手にあって、胸を打つプレーを披露してくれた本田。目に焼き付けられた本田のプレーを振り返る時、チームが彼を完全には生かせなかったことが、衝撃的な敗戦にあって悔やまれてならない。

遠いアウェー戦であったにもかかわらず、多くのメルボルンVサポーターが声援を送った
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シドニーFCの4点目となったPKの場面。メルボルンVの希望を完全に打ち砕いた
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今季で現役引退を表明した主将アレックス・ブロスクの気迫溢れるプレーは、試合の結果に大きな影響を与えた要因の1つだった
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試合後もチーム・バスの前に本田をひと目見ようと多くの日本人サポーターが待ち構えた
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