小野移籍に揺れたWSW

【特集】】サッカーAリーグ2014
あきらめないWSW
有終のファイナル制覇とACL初参戦へ

 小野伸二のウエスタンシドニー・ワンダラーズ(WSW)は、年末から年始にかけて、小野の“移籍”に揺れたが、1月16日のWSWの今季終了後の移籍の正式発表でようやく落ち着いた。2月の首位奪回への反転攻勢と、アジアの舞台への初めての挑戦に挑む小野とWSWに本紙特約記者の植松久隆が迫る。文・植松久隆(文=植松久隆(ライター/本紙特約記者) 写真=Richard Luan

小野の移籍に揺れた1ヵ月

1月16日、小野伸二の移籍が正式に発表された。このひと月あまり、この件に関しては、はっきりしないもやもやが続いたが、これでようやく前を向ける。

しかしながら、ここ豪州に根を張って、当地の邦人コミュニティーのための紙面作りに貢献してきた身としては、小野が当地を去ることになったのには非常に残念な思いだ。この1年半の期間で「小野伸二」という存在が、当地の邦人コミュニティーにもたらしたものの大きさは測り知れない。WSWが小野に対して、もう少し早い段階で予備交渉的なものでも契約の話をしていれば、小野の気持ちが一気に札幌に傾くのを防げたかもしれない。


シーズンも後半に入り、ますます上り調子の小野伸二

他方、小野伸二という類まれなる才能のきらめきをこの1年半見守ってきて、今のコンディションで日本に戻れば、どんな輝きを見せるんだろうという期待感もずっと持っていた。それが実現する。しかも、最近低迷する最北のクラブをJ1に復帰させるという千両役者の次なる“おとぎ話”の舞台としてはうってつけの機会が与えられた。求められる場でこそ力を最大限に発揮する小野だから、新たな“約束の地”たる札幌でも、天才のきらめきを見せてくれるに違いない。

いずれにしても、小野伸二の新天地での活躍を期待してやまないのは当然として、筆者も日豪プレスも今季の最後の試合まで、全力で小野とWSWを追い続ける姿勢に変わりはない。そのことは明確にしておこう。

 

波に乗れなかった1月

ここからは、いつも通りにこの1月のWSWの戦いぶりを振り返る。

1月26日、オーストラリア・デー。全豪が建国を祝う国民の祝日に、WSWは、ホームのピアテック・スタジアムにパース・グローリーを迎え撃った。その試合の終了のホイッスルを聞いた選手たちの表情は、一様に明るかった。3−1と完勝で内容も良かったが、何よりもアウェーでの今季初めてとなる連敗から抜け出したことによる安心感が大きかったのであろう。

この勝利で、試合前には暫定3位に落ちていた順位を“定位置”の2位に戻した。首位をひた走るブリスベン・ロアとの勝ち点差は5(1月26日現在)。依然、試合消化数が、ロアとひたひたと歩み寄ってくるセントラル・コースト・マリナーズ(CCM)より1試合多いという状態は変わらない(筆者注:WSWは既に変則日程で第19節を消化しており、消化試合数は17試合となっている。1月26日終了時点)。要は、ライバルが1つ少ない試合を消化した時には、ロアにはさらに引き離され、CCMには再度抜かれる可能性があるということで、残り10試合での1試合1試合が持つ意味は非常に大きくなってくる。

26日の試合を含む年末年始から1月いっぱいまでのWSWの戦績は、6試合で2勝1分3敗というもの。2度の3失点での完敗を喫するなど、6試合で9失点という成績で、もはや堅守のイメージは完全に消え去った。わずか21失点とリーグ1の堅守を誇った昨季は、3失点を喫した試合は1試合もなかった。今季の失点数はレギュラー・シーズンの残りが10試合となった第16節終了時で、既に16となっており、このペースでいけば昨季の総失点数21を上回るのは間違いない。

 

ローテーションは、両刃の剣?

パース戦で連敗から脱し、安心した表情のWSWの選手たち

2月以降も決して日程的には楽ではない。2月26日には、クラブにとって初めてとなるアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)のキャンペーンが始まる。最初の試合は、ホームに蔚山現代(韓国)を迎え撃つが、この試合が平日の水曜日に組まれていることで、日程が再び詰まってくる。22日には、国内では一番移動に負担がかかるパースでのアウェーを戦い、中3日で蔚山現代戦。そして、再び中3日でホームにニューキャッスル・ジェッツを迎える。実に9日間で3試合という過密日程が待ち構えている。

 

その過密日程を見越して、ポポヴィッチ監督は選手のローテーション起用を実施してきたが、正直、それが“両刃の剣”となっている気がする。というのも、例えば26日のパース戦(第16節)のように選手起用がはまった時と、その前節のように全く機能しなかった時の落差があまりに大きい。確かに、相手チームにしてみれば、誰が出てくるかどうか分からずに対策を立てづらい側面もある。選手にしてみれば、いつチャンスが来るか分からないので常に適度な緊張感を保てるというメリットもある。他方、頻繁に変わる顔ぶれでコンビネーションの成熟が追いつかないという負の側面は、チームの成績に直結するリスクを常にはらんでいる。

26日の試合は、前節から先発メンバーが5人変わり、普段はセンター・バックでプレーするスピラノヴィッチがボランチで先発した。この試合では、スピラノヴィッチをいつもより1つ前のポジションで起用したことが功を奏して、中盤のパスの流れが非常にスムーズとなり、攻撃の連動性も非常に良かった。この試合は、ローテーションが大いに「吉」と出たケース。

逆に、第15節のアウェーでのアデレード・ユナイテッド戦は、ローテーション起用のマイナス面がもろに出てしまった「凶」のケース。この試合のWSWは、ポレンツ、ポリャック、ラロッカとレギュラー・クラスの故障もあり、16歳の選手を2人含むなど実験的な顔ぶれの先発となった。守備の要の位置のセンター・バックのコンビもビューチャンプとへフナンという初めてのコンビで終始安定しなかった。攻守ともに安定を欠いたこの日のWSWは、良いところなくアデレードに破れ、アウェーでの痛い連敗を喫した。

 

天王山は7日のロア戦

デル・ピエロとのレジェンド対決もレギュラー・シーズンではいよいよあと1回(写真は1月11日のシドニー・ダービー)

初めてのACL参戦による日程の過密化、これを乗り越えていかなければ、クラブとしての進歩はない。その対策としてのローテーション起用を行っているのは、戦略的には間違いないだろう。と同時に、リーグ戦でも負けられない戦いは続く。しかも、下から追いかけてくるCCMはACLに参戦しているから条件はさはど変わらないが、昨年の成績が今ひとつに終わった首位のロアはACLに出場しない。追う側であるWSWが、日程的な不利をもろにかぶって、ロアは週に1試合のリーグ戦に集中できるのである。この日程的な違いは大きい、いや、致命的といってもいいかもしれない。

その意味でも、年末年始に続く過密日程に戻る前の2月7日に行われるホームでのブリスベン・ロアとの直接対決は非常に重要な試合となる。この1戦が、文字通りの“天王山”となることは間違いない。しつこいようだが、試合消化数が少ない現状では、この試合で負けるようなことがあれば勝ち点差は今のロアの調子を考えた時には逆転するには絶望的なレベルまで開いてしまう。それは、今季の最大の目標「ファイナル王者」への最短切符となるレギュラー・シーズン王者となるチャンスを逃すことを意味する。したがって、この試合までに主力のケガが癒え、それまでの試合に無用なカード(今季はこれが非常に多い)をもらわずに、ベストの布陣でこの1戦に備える必要がある。

 

Tensaiのきらめきを見逃すな

最後に再び、小野伸二。退団が決まっても、クラブ、そしてポポヴィッチ監督、チーム・メイトの小野への信頼は変わらない。Aリーグの残り試合、初めてアジアの強豪とあいまみえるACLと小野の存在が何にも増して重要になってくる。小野も、残りの期間も変わらず必要としてもらえることを意気に感じて、残り試合のすべてに、存在感が際立った16節のパース戦のようなファンをうならせるプレーで結果を残そうと張り切って試合に臨んでくるだろう。小野のWSWでのプレーのカウント・ダウンは始まっているが、Tensaiのきらめきを目の当たりにできる機会はまだ多く残っている。

まずは、首位攻防戦となる先に触れた7日のホームでのロア戦。この試合はレベルの高い激戦となること必至。ぜひ、ホームのピアテック・スタジアムに足を運んで、まだまだタイトルをあきらめないWSWと小野伸二の奮闘を目撃していただきたい。

 

順位表

順位  チーム名 試合数 ポイント
1  ブリスベン・ロア 16 11 1 4 30 14 16 34
2  ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ 17 8 5 4 20 16 4 29
3  セントラル・コースト・マリナーズ 16 7 6 3 17 15 2 27
4  メルボルン・ビクトリー 17 6 5 6 22 27 -5 23
5  シドニーFC 16 7 1 8 22 22 0 22
6  アデレード・ユナイテッド 16 5 6 5 24 22 2 21
7  パース・グローリー 16 5 5 6 16 17 -1 20
8  ニューキャッスル・ジェッツ 16 5 4 7 15 20 -5 19
9  ウェリントン・フェニックス 16 4 5 7 21 20 1 17
10  メルボルン・ハート 16 1 6 9 14 28 -14 9

ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ試合日程 ※19節は日程繰上げで既に終了

17節  2月1日(土)7:45PM  VS ニューキャッスル・ジェッツ  ハンター・スタジアム
18節  2月7日(金)7:30PM  VS ブリスベン・ロア  ピアテック・スタジアム
20節  2月22日(土)7:30PM  VS パース・グローリー  NIBスタジアム
21節  3月2日(日)5:00PM  VS ニューキャッスル・ジェッツ  ピアテック・スタジアム

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■Nichigo Pressウェブ版 Web: nichigopress.jp

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