小野伸二とWSWが紡ぐおとぎ話

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いよいよ最終章

小野伸二とWSWが紡ぐおとぎ話

 ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)が、昨年、あと1歩のところで取り逃した「ファイナル王者」の大目標達成まで確実に近づきつつある。小野伸二のWSWでの最後の活躍の様子を、5月4日のグランド・ファイナルの見どころとともにレポートする。 文・植松久隆(ライター/本紙特約記者) 写真=Richard Luan、本紙編集部

最大目標はファイナル制覇

4月26日、満員に膨れ上がったホームのピアテック・スタジアムにWSWの勝利を告げるホイッスルが響き渡った。その瞬間、小野伸二とWSWの幸福な関係は考えられ得る最高の結末まで、あと一歩のところまで近づいた。

昨季、クラブ創設初年度でレギュラーシーズンを制覇、グランド・ファイナル進出を果たした「快進撃の夢よ、ふたたび」と今季に臨んだWSWにとって、セントラル・コースト・マリナーズ(CCM)に苦杯を舐めて取り逃したファイナル王者の座を奪取することは、今季の最大目標。

「ファイナル制覇」というチーム一丸の高いモチベーションで臨んだ今季のレギュラー・シーズン、WSWの前に敢然と立ちはだかったのがブリスベン・ロア。第6節にWSWがロアと入れ替わって首位に立ったのもつかの間、直接対決の第7節でアウェーで1−3に完敗してひっくり返されてからは、ロアの後塵を拝し続けた。最終的には勝ち点10差を付けられ、WSWは2季連続のシーズン優勝を逃した。

一発勝負で、しかも相手が因縁のCCMというセミ・ファイナルに快勝、ファイナル制覇まで、あと一歩と迫っても小野に気負いはない。「(セミ・ファイナルの快勝で)自信を持って次の試合に臨める。ただ、グランド・ファイナルは特別なものなので、とにかく、もう1度気を引き締めて、雰囲気に飲み込まれないようにやっていきたい」と冷静に語る。

 

GFで王者ロアと対戦

 

そのグランド・ファイナル(5月4日)では、ロアと雌雄を決する。決戦の舞台は、ロアのチーム・カラーであるオレンジに染まるサンコープ・スタジアム。この試合に、WSWは悲願のファイナル制覇達成を懸ける。かたや、ロアは、前人未到のファイナル3度目の制覇を狙ってくるだけに、試合は息をも付けないような熱戦になること必至。

ホームの大観衆の後押しを受けるロアに対して、WSWも熱心なサポーターが大挙押し寄せることが予想され、5万3,000人の超満員に膨れ上がるスタジアムは熱く盛り上がり、揺れるだろう。

ここに来て、WSWの主力に故障者が出た。26日のセミ・ファイナルで相手選手と交錯、くるぶしを痛めて途中交代したマーク・ブリッジの状態が好ましくない。このままでは残念ながら、グランド・ファイナルの欠場の可能性が高い。左サイドのウイング・ポジション、小野に代わってトップ下のポジションにも入ることのあるブリッジの負傷は確かに痛い。しかし、今季の堅実な補強が実って、各ポジションには2人ずつクオリティーの高い選手をキープできているWSWだけに、ブリッジの穴もラビノット・ハリチが埋めて大きな問題とはならない。

 

右サイドの攻防がカギ?

試合巧者のセントラルコースト・マリナーズ相手のセミファイナルでも気迫あふれるプレーを見せた

一方のロアには現時点で出場を見合わせるような故障者は見当たらないが、WSWに比べて、レギュラーと控えの差があり、何かあった時の戦力ダウンの度合いはWSWよりも大きい。とはいえ、ロアのレギュラーの布陣は、独走でレギュラー・シーズンを制しただけに非常にバランスの良い顔ぶれで大きな穴が見当たらない。

あえて言うならば、左サイドの守備がロアの弱点。左サイドバックを務めるのは、ベテランのシェーン・ステファヌート。気持ちの入ったプレーをする経験豊富なDFだが、その年齢もあってスピード不足は否めない。そこを、快速ウィングのユシフ・ヘルシ、超攻撃的なサイドバックのジェローム・ポレンツからなるWSWの右サイドが積極的な仕掛けで突く。

センターバックのマット・スミスがステファヌートのケアに注力せざるを得なくなって発生した守備の綻びを小野が巧みなパスで崩すという右サイドでの攻防からのチャンスをいかにものにできるか、そこがWSWのロア攻略の大きなカギとなる。

堅守を誇るWSWの唯一の弱点も”右サイド”の守備。攻撃的な右サイドバックのポレンツが上がった背後を、WSWから見た右サイドが主戦場のロアのプレー・メーカー、トマス・ブロイッチは見逃さない。WSWにとっては、攻守にわたって右サイドでの攻防で主導権を握れるかどうかが、勝敗の帰趨を決すると言っても過言ではないだろう。

 

ファイナル制覇の悲願成るか

レギュラー・シーズン優勝(プレミアシップ)とファイナル・シリーズの2つのタイトルを争うAリーグ。現行のシステムにおいて、2つのタイトルを比較しての優位性は「ファイナル王者」にある。確かに、10チーム中6チームが参加できて、仮にレギュラーシーズン6位のチームでも一発勝負のファイナル・シリーズで3連勝すればファイナル王者になれる現行のシステムが完全なものとは思えないし、実際、批判も多い。

今年のファイナルでは、一発勝負のあやとも言うべき“下剋上”は起こらず、レギュラーシーズンの上位2チームの順当な対決となった。

そして、グランド・ファイナルのガチンコ勝負でWSWがロアを破れば、レギュラー・シーズンで縮められなかった差を飛び越して、WSWはファイナル王者に輝き、昨季以来の悲願を成就させる。

今季のレギュラー・シーズンの質の高い戦いぶりとホームで戦えるという有利な条件もあって、グランド・ファイナルの下馬評は「ロア有利」に若干傾いている。1つの指標としてのスポーツ・ベッティングのオッズを見てみると(4月29日現在・Tatts Bet参考)、ロア2.10倍、WSW3.30倍と、こちらもロア有利を後押しする。

それでは、WSWに勝ち目はないのかというとそうではない。少しデータをチェックしておこう。WSWがAリーグに参入以来2季通算のロアとの対戦成績を振り返ると、全7戦でWSWが4勝2分1敗と大幅に勝ち越している。さらには、今回の試合会場のサンコープ・スタジアムでは3戦2勝1敗の好成績を残している。

さらには、今まで過去8回行われたグランド・ファイナルで、レギュラー・シーズンの優勝チーム(今回の場合はロア)がグランド・ファイナルに進出、勝利したケースは4回、確率で言えば50%。昨年のグランド・ファイナルでWSWが涙を飲んだように一発勝負のグランド・ファイナルでは、残り50%の確率で、アンダー・ドッグに勝利の女神は微笑んできた。

過去8年に渡って、グランド・ファイナルはさまざまなドラマを演出してきた。今年の対戦、最後に笑い、高々と優勝リングを上げるのはどちらのチームだろうか。

 

ACLでJ王者・広島に挑戦

WSWの重要な得点源でもあるCKを小野と共に担当するアーロン・ムーイ

WSWが負ってきた“二兎”のうちの1つ、アジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)。WSWは、Aリーグのシーズンと併行して行われていたACLのグループ・リーグで川崎フロンターレなど並みいるアジアの強豪を抑えて首位通過、アジアのトップ16が揃う決勝トーナメント1回戦に進出した。その1回戦でWSWを待ち構えるのがサンフレッチェ広島。

トニー・ポポヴィッチ監督にとっては、かつて5季に渡って(97年-01年)所属した古巣でもある広島とは、ホーム&アウェー(5月7日、14日)で対戦することが既に決まっている。

現時点で小野がこれらの試合出場をコミットしているのか、クラブから正式発表はない。しかし、いくつかのリソースからの情報などを総合して、筆者はこの広島との2連戦まで小野はWSWの一員としてプレーするのではないかと予想する。

今回のACLの快挙で、WSWというクラブのアジアでのプレゼンスは大いに高まった。特に日本では、WSWは、これまでのAリーグを引っ張ってきたロアやCCMなどのチームとは比較にならない知名度を誇る。このような“小野効果”が最大限に表れるJリーグ王者との対戦に小野本人が不在ということは考えにくく、この広島との対戦こそ、今季終了後のJ2コンサドーレ札幌への移籍が決まっている小野のWSWでの最後の舞台にふさわしい。

 

小野伸二の存在感

小野の退団は、WSWにとって、ただの戦力ダウンには終わらない。WSWに関わるすべての人々は、小野が退団したその瞬間から、失ったものの大きさに気付かされることになる。


ファンに愛される小野。サインボードいわく、「小野伸二がいればメッシなんていらない」

WSWの選手やスタッフは、ACLでの川崎フロンターレ戦の日本遠征で、「アジアの雄・日本のレジェンド」たる小野の存在の大きさというものを身をもって知らされた。そして、それと同じことが、また広島戦の遠征でも起きる。

日本に行けば、「小野伸二」を知らない人はほとんどいない。小野目当てで訪れる取材陣の数、小野見たさでスタジアムを訪れたファンも多い。そして、対戦相手の選手もスタッフも小野に敬意を払って接する。

口には出さないまでも「こんな偉大な選手と一緒にやってきたんだ」というような思いを抱いた選手も多かったことは想像に難くない。

川崎戦の行われた等々力陸上競技場には、WSWの赤と黒のジャージを身にまとった日本人ファンの姿も多く見られた。彼らは、海を渡ってきた熱狂的なWSWサポーターと共に声を枯らして、WSWに声援を送り続けた。

その中には、札幌から駆け付けたのだろうか、WSWと同じ赤と黒を基調にしたユニフォーム(筆者注:WSWは横縞、札幌は縦縞)の札幌サポーターらしき姿も見えた。小野のいるチームを自らのチームと信じ応援する彼らを見て、WSWのサポーターたちは何を感じただろうか。また、静岡在住の熱心なファンが作成、海を渡ってWSWの本拠地ピアテック・スタジアムに貼られた小野の横断幕も、この試合に合わせて里帰りしたと聞く。

小野が動けば人が動く。それだけの存在感を持ち、ファンに愛される選手は、小野が抜けるWSWにはもちろんAリーグ全体にもそうはいない。2年間、大きな大きな存在感を発し続けてきた小野伸二が抜ける穴は、そう簡単には埋まるまい。

 

レジェンドの雄姿も残りわずか

 


小野が中心のWSWを見ることができるのもあと少し

そんな偉大なる小野伸二とWSWの濃密な時間も、残すところあとわずかになってしまった。

もし、このACLのラウンド16までの帯同が確定すれば、小野のWSWでの雄姿を見られるのは、あと3試合。そのうち、ここ豪州では、5月4日のグランド・ファイナル、小野のWSWでのキャリアのグランド・フィナーレとなる14日のホームでのACL広島戦の2試合を残すのみとなった。

「グランド・ファイナル制覇」と「ACL8強進出」いう大きな置き土産とともにクラブを去れば、小野は熱狂的なサポーターやファンにとって、いったいどういう存在まで登りつめるのだろう。

「神格化」と書くと仰々しいが、誰にも愛される小野の人間性とカリスマ性があれば、それに近い存在「レジェンド」として未来永劫、語り継がれるのは間違いない。

WSWのレジェンドとなった小野は、自ら愛して止まないクラブでのキャリアの最後の最後まで、フルスロットルでの働きを求められている。体力的に多少厳しくとも、小野本人は、必要とされている現況を意気に感じているはずだ。

おそらく、その最後の献身が見られるのは、5月14日のホームでの広島戦。その試合の結果はどうあれ、小野はやり遂げたという充実感に満ち溢れる表情で爽やかに豪州のピッチを去るだろう。

“Tensai”と崇められた小野伸二、その豪州での最後の雄姿を、しっかりとこの網膜に焼き付けたい。

 

Aリーグ レギューラー・シーズン最終順位表

順位 試合数 ポイント
1  ブリスベン・ロア 27 16 4 7 43 25 18 52
2  ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ 27 11 9 7 34 29 5 42
3  セントラル・コースト・マリナーズ 27 12 6 9 33 36 -3 42
4  メルボルン・ビクトリー 27 11 8 8 42 43 -1 41
5  シドニーFC 27 12 3 12 40 38 2 39
6  アデレード・ユナイテッド 27 10 8 9 45 36 9 38
7  ニューキャッスル・ジェッツ 27 10 6 11 34 34 0 36
8  パース・グローリー 27 7 7 13 28 37 -9 28
9  ウェリントン・フェニックス 27 7 7 13 36 51 -15 28
10  メルボルン・ハート 27 6 8 13 36 42 -6 26

ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ試合日程

 GF  5月4日(火)4PM  VS ブリスベン・ロア  サンコープ・スタジアム
 ACL  5月7日(金)7PM   VS サンフレッチェ広島(日本)  広島広域公園陸上競技場
 ACL  5月14日(金)6:30PM  VS サンフレッチェ広島(日本)  ピアテック・スタジアム

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