WSW試練の10番勝負

WSW、試練の10番勝負

二兎を追うWSWを待つ結末は?

 小野伸二のウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)は、2月26日の蔚山現代戦でアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)のキャンペーンを開始。3月は、佳境を迎えるAリーグと併せての過密日程を戦うWSWの戦いを、本紙特約記者の植松久隆が占う。 文=植松久隆(本紙特約記者/スポーツ・ライター)  写真=Richard Luan

WSWが直面する過酷な日程

第20節が終了時点(2月23日)で、首位のブリスベン・ロアと、それを追うWSWの勝ち点差が4とぐっと縮まった。WSWが、ACLに関連する変則日程で試合がなく中休みとなった第19節、首位のロアがニューキャッスルに不覚を取った。ロアが、勝ち点を2桁の10まで広げるチャンスを逃したことで、WSWは大きく引き離される危機を何とか回避できた。そして、WSWは、23日の中休み明けの初戦、第20節のアウェーでのパース戦に快勝。同節、ロアが最下位のメルボルン・ハート相手にまさかの連敗を喫したことで、両チームによる首位争いは予断を許さない状況になった。

しかし、WSWの置かれた状況は決して楽観できるものではない。15日の中休みがあったとは言え、再開後の日程はACLが始まる関係で一気に詰まってくる。設立2年目でアジアの舞台に初めて挑むWSWにしてみれば、週2日ペースでの試合消化はいまだかつて経験がない。カップ戦などが多く組まれる欧州の主要リーグを経験している小野やヘルシなどの選手は、今まで経験済みのことで対応にも問題はないだろうが、国内のみでプレーしてきた選手にしてみれば試合に臨むコンディショニングからして、未知の世界であり、最初は相当戸惑うはずだ。

ACL、Aリーグの二兎を追うと…

 


小野からのフリーキックは、WSWの得意な得源となる

そんな過酷な日程を見越して、ポポヴィッチ監督はAリーグでは今まで少なかった選手のローテーション起用にこだわってきた。しかし、現実としてはローテーションの影響で試合の出来に振れ幅ができているのも否定できない。結果を求めて、選手をうまく回しつつ安定的に成績を収めて行くという姿勢が要求されるのは、ポポヴィッチ監督にとっても決して楽なタスクではないだろう。少し意地悪に聞こえるかもしれないが、初めての「ACL」と「Aリーグ」の二兎を生真面目に追っていると、大事な物をすべて取り逃がすということになりかねない。

小野伸二というアジアのレジェンドを擁してのACL初参戦も確かに大きな意味合いを持つ。しかし、小野とWSWの“おとぎ話”の最終章は、昨季取り逃した大きな“忘れ物”を取りにいくことに成功してこそ、大団円を迎えるのだと思う。その意味で、どこかで良い意味での“割り切り”が必要になってくるのだろうが、そのあたりを冷静な判断力が持ち味のポポヴィッチ監督がどう考えていくのかに注目したい。日程を消化していく中での監督の狙いの移ろいは、今後の試合の選手起用である程度見えてくるだろうから、今後も試合ごとの「ポポビッチ用兵」を注視していく必要がある。

初めてのACL、完敗スタート

 


声援を送るワンダラーズ・サポーター


代表に選出されたスピラノヴィッチ

その意味で大いに注目して見たのが、26日、WSWにとってACLの初戦となる蔚山現代戦。22日のパース戦に小野とGKコヴィッチが帯同せず、ブリッジも登録メンバーから外れた。それを見て、蔚山戦にはベスト・メンバーをぶつけてくると予想ができたが、実際、26日の試合には現時点でのほぼベストと言える顔ぶれが先発にそろった。センターFWにはユリッチではなく、サンタラブが入り、現時点での序列ではサンタラブが上であることが明らかになった。

試合は、開始早々、小野のパスからサンタラブが起用に応えての先制点を挙げる。その後は、蔚山が敵地とは思わせない落ち着きでゲームを支配、WSWのDF陣のイージー・ミスにも助けられて3点をねじ込む。WSW初、アジアの舞台への挑戦は、蔚山に1-3の完敗での滑り出しとなった。小野も積極的なプレーを見せ、相手との接触プレーで警告を受けるシーンもあったが、気迫のこもったプレーでピッチを縦横に駆け回った。

アジアのレベルを肌で感じる完敗を「アジア最高のレベルでの試合で、3つのミスで3失点。(このレベルでは)簡単なミスがすぐに失点に繋がるということを身をもって知らされた」と冷静に振り返るポポヴィッチ監督。次戦以降に守備の立て直しが急務なのは明らかで、監督が次の試合ではどのような策を講じてくるのかを楽しみにしたい。

26日、ACLの試合と同じ日の午前中、エクアドルとの親善試合(3月5日・ロンドン)に臨むサッカルーズのメンバーが発表され、WSWからはDFスピラノヴィッチが選出された。したがって、スピラノヴィッチは2日のジェッツ戦の欠場が決まっている。戦力的にはダウンだが、WSWは守備の新たな戦力を試す絶好の機会とポジティブに捉えよう。

来月5日、ロアとの“天王山”再び

日本人サポーターの姿も

ここで、あらためて別掲の日程表と併せてWSWの過酷な日程をおさらいしておこう。既に書いたように、22日、アウェーのパース戦に快勝したWSWは、そこから中3日でACL__初戦のホームでの蔚山現代戦を戦った。その後は、再び中3日でニューキャッスル戦(ホーム・3月2日)と週2試合ペースの日程が、Aリーグのレギュラー・シーズン、そして、その後に控える大事なファイナル・シリーズの直前まで切れ目なく続く。ざっと、日程を紙に書き起こしてみたが、22日(第20節)から3月いっぱいまでの38日間で、アウェーの貴州人和戦も含む10試合を、実に3.8日に1試合というハイ・ペースで消化する。この「試練の10番勝負」のできが、WSWの今季の成績に直結してくる。

しかも、過酷な日程はこれでは終わらない。3月29日の第25節には難敵セントラルコースト・マリナーズ(CCM)と顔を合わせた後、WSWは日本遠征に向かう。4月1日、アウェーで川崎フロンターレに挑んでからトンボ帰りで帰国し、週末に待ち構えるのは、5日のリーグ優勝争いの最大の天王山となるロアとの首位攻防戦(第26節)。もちろん、それまでにリーグ優勝が決まってしまっている可能性もないわけではないが、リーグの盛り上がりの意味でもそこまでもつれるという前提で話を進めたい。

“おとぎ話”のフィナーレは…

ここで忘れてはいけないのが、同じくACLの日程の影響をもろに受けるメルボルンVやCCMと違って、ロアは今季ACLに出場しないという事実。WSWが過密日程にきゅうきゅうとしているところに、シーズン優勝争いの首位を走る最大のライバルは淡々と週1日のリーグ戦を消化、この大事な試合に照準を絞って万全の状態で臨んでくる。1カ月以上の過酷な日程を経て臨むWSWとの置かれた状況の差異がどのように出るか、これが今季のAリーグの天下分け目の決戦の行方を決めると言っても過言ではない。

過酷な日程についてだけ喧しく言いたてているようだが、このような日程をこなしていくことは、WSWがリーグを代表する真の強豪へと成長するための“イニシエーション”となる。ロア、CCMもそして最大のライバル・シドニーFCも、このような苦しい日程を経験して、リーグの強豪と言われる存在へと成長してきた。小野は、残り少ないWSWとの時間の中で、自らの経験に基づいて、WSWというクラブが真のビック・クラブに成長できるように、さまざまな働きかけをしていくのだろう。今年、34歳を迎えたベテランの小野が率先垂範してみせることで、WSWが過酷な日程を経るごとに成長を見せる。そんな過程を目にしながら、小野が「ここでやってきて良かった」と思えるならば、この2年の小野とWSWの“おとぎ話”が最高のフィナーレを迎える可能性は大いに高まる。

 

順位表

順位 試合数 ポイント
1  ブリスベン・ロア 20 12 2 6 33 18 15 38
2  ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ 20 9 7 4 25 19 6 34
3  メルボルン・ビクトリー 20 8 6 6 30 32 -2 30
4  シドニーFC 20 9 1 10 27 28 -1 28
5  アデレード・ユナイテッド 20 7 6 7 33 28 5 27
6  セントラル・コースト・マリナーズ 20 7 6 7 20 26 6 27
7  ウェリントン・フェニックス 20 7 5 8 30 29 1 26
8  ニューキャッスル・ジェッツ 20 6 5 9 20 27 -7 23
9  パース・グローリー 20 5 6 9 19 24 -5 21
10  メルボルン・ハート 20 5 6 9 24 30 -6 21

ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ試合日程

 21節  3月2日(日)5PM  VSニューキャッスル・ジェッツ ピアテック・スタジアム
 22節  3月8日(土)7:45PM  VS シドニーFC アリアンツ・スタジアム
 ACL  3月12日(土)8: 00PM  VS 貴州仁和(中国) 貴陽オリンピックセンター・スタジアム
 23節  3月15日(土)5:30PM  VS アデレード・ユナイテッド ピアテック・スタジアム
 ACL  3月19日(水)7:30PM  VS 川崎フロンターレ(日本) ピアテック・スタジアム
 24節  3月23日(日)5:00PM  VS パース・グローリー ピアテック・スタジアム
 25節  3月29日(土)5:30PM  VS セントラルコースト・マリナーズ セントラル・コースト・スタジアム

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■Nichigo Pressウェブ版 Web: nichigopress.jp

 

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