【特集】今年も魅せるか、小野伸二─Aリーグ2013

【特集】サッカーAリーグ2013

今年も魅せるか、小野伸二
──熱く、激しい開幕1カ月を振り返る

 今年も“熱い”季節がやって来た。10月11日に開幕したサッカーAリーグは、シーズン緒戦の3節を終えた。小野伸二とウエスタン・シドニ ー・ワンダラーズの2年目のシーズン滑り出しを中心に、9年目のAリーグの最初の1カ月を本紙特約記者・植松久隆が振り返る。 文=植松久隆(本紙特約記者/スポーツ・ライター)  写真=Richard Luan

豪州の夏、サッカーの夏

今季で9年目を迎えたAリーグは、10月に最初の3節を消化。ここまでの観客動員も絶好調で、大きな盛り上がりを見せている。

ここ豪州では、「Summer of Cricket」と言われるように、いまだに夏はクリケット・シーズンというイメージが強い。しかし、Aリーグは、ほかの球技との競合を嫌って、春夏制(筆者注:今季は10月〜翌年4月、年によって多少期間は前後する)でレギュラー・シーズンを消化し始めて今年で9年目。その間に、年々、豪州国内でのサッカーへの関心が高まってきていることを考えれば、いずれ豪州の夏は、「Summer of Football」として広く認識される時代が来るのかもしれない。


10月8日のローンチ・イベントでは各チームのマーキー・プレーヤーが一堂に会した

10月27日現在、第3節まで消化した時点で、事前予想で優勝候補に挙げられたチームは、総じて無難な滑り出しを見せている。昨年に続いてのシーズン優勝、そしてさらにその先を狙う小野伸二のウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)は、1勝2分けとまずは無難なスタートで2位に付ける。現時点で首位には、中盤の積極的な補強で開幕前の下馬評も高かったブリスベン・ロア。思い切った補強戦略で覇権奪回を目指す2年目のアンジ・ポスタコグルー体制が予期せぬ形で終わりを告げたメルボルン・ビクトリー(メルボルンV)も、首位に勝ち点差1の4位と踏ん張りを見せる。これに加えて、顔ぶれが大きく変わっても、例年通りに優勝争いに絡んでくるリーグ随一の安定勢力セントラルコースト・マリナーズ(CCM)、デル・ピエロを主将に据えシドニーのプライドを懸けて今季に臨むシドニーFCなど、それこそ参戦10クラブのすべてに優勝争いの可能性がある“戦国Aリーグ”が、今、まさに戦われているのだ。

アンジがサッカルーズを変える

メルボルンV監督をシーズン途中で退任し、サッカルーズの監督に就任したアンジ・ポスタコグルー

メルボルンV監督だったアンジ・ポスタコグルーのサッカルーズ(豪州代表)監督就任が決まった。そのメルボルンVは、シーズン緒戦の2節をドローと勝ちきれなかったが、ポスタコグルー下での最後の試合となったブリスベンとの対戦では意地を見せた。前豪州代表で長い欧州でのプレーから今季Aリーグに復帰したジェームス・トロイジの美技で先制したメルボルンVが、虎の子の1点を守り、名将に勝利のはなむけを贈った。

ブリスベンがポスタコグルー監督自身の古巣でもあり、それぞれのチームに彼の薫陶を受けた選手が多くプレーする両チームの対戦は、この試合を最後にサッカルーズの建て直しに専念する彼の“壮行試合”にふさわしく、緊張感あふれるものとなり、両チームによる高いレベルでのクリーンな戦いに90分が非常に短く感じられた。


今シーズン初のシドニー・ダービーに沸く両チーム・サポーター


開幕以来、数試合を観戦して感じるのは、Aリーグのプレー・クオリティーの向上。何か具体的な数値を掲示して証明できるわけではないが、長年Aリーグを見てきた実感として、ボールを止める、展開するといった細かいところに、数年前との違いがしっかりと表れてきているように思う。今までだったら、追いつかなかったようなワイドな展開でもそこに走っている選手がいるし、DFもそういうプレーの選択があり得ることを想定して守っている。これは成長であり、リーグのレベル向上と言って差し支えはあるまい。

そんなAリーグの成長を肌身で感じてきたサッカルーズのポスタコグルー新監督には、残された限られた時間の中でも、ためらわずに積極的にAリーグの有望株を試してもらいたい。この国のサッカーは「欧州には及ばない」と卑下するほどに低いレベルでは決してない。特に、直近で彼が指導したメルボルンVには、将来性豊かな若手が多い。ポスタコグルーが、彼らのような若手を積極的に代表に吸い上げることで、サッカルーズの長年の懸案事項である「世代交代」は加速度的に解決へと導かれることだろう。

“ダービー・マッチ”のあるべき姿

開幕戦のセントラル・コースト戦では後半からの途中出場となった小野

ブリスベン対メルボルンVの清々しい戦いにうならされた翌日、シドニー・ダービーを観た。ダービー・マッチの場内の盛り上がり、これは間違いなく既にリーグ随一、いや国内のどのプロ・スポーツの試合でも真似できないような独特の雰囲気を醸し出している。その雰囲気は、選手たちを熱くする。しかし、熱くて、なおクリーンなゲームこそ美しい。残念ながら、アリアンツ・スタジアムのピッチ上には違う質の熱さが存在していて、無用なファールの乱発にはせっかくのダービー・マッチの価値を貶めてしまう危険性すらはらんでいた。

動きにキレのあった小野を中心に攻めたWSWが素晴らしかったのかというとそうとも言いきれない。小野自身も試合後に「(勝利という)結果は良かったが、自分の中では納得いく試合ではなかった」と語ったように、WSWの選手に大事なところでのミスも目立った。決めるところを決めていれば、試合は決して2−0というスコアでは終わっていなかったはずだ。

確かに言えるのは、デルピエロを欠いたシドニーFCが、すべてにおいてひどかったということ。試合後のフランク・ファリーナ監督は、自らのチームを「あまりに軽率なミスが多すぎる」と表したように、攻撃でも枠内に入るシュートをなかなか打てないようでは勝ちようがないというものだ。

このように、シドニーFCに厳しく当たるのにはわけがある。真の“ダービー・マッチ”には、2つのクラブの高いレベルでの実力均衡とライバル意識が不可欠。

したがって、“シドニー・ダービー”が豪州を代表するダービーとして今後もその価値を高めていくには、シドニーFCがWSWにとっての手ごわいが“敵役”であってもらわなければならない。WSWとシドニーFCの健全で熱いライバル関係の成熟を待ちたい。

やっぱり小野、千両役者の仕事ぶり

ダービー戦は、思いもかけずラフ・ゲームとなった

今季初得点を上げた小野伸二、かなり喜んだ様子で思わず舌をぺろりと出すシーンも見られた。試合後には、ポポヴィッチ監督も「シンジはファンタスティック。プレ・シーズンでも良かったが、シーズンに入ってどんどん良くなってきている」と手放しで絶賛。「であれば、何で開幕からフルで使わないんだよ」というファンの嘆き節も聞こえてきそうだが、用兵は常に監督の専権事項であり、ポポヴィッチには彼なりの考えがあってのこと、多くは追及しまい。しかし、この試合での小野のでき、そして攻守に労を惜しまない姿に、ポポヴィッチ監督そしてWSWのファンは、チームが今後も勝ち続けるには何が必要かをしっかり見極めたことだろう。

2年目でマークが厳しくなった中でも、きっちりと結果を出す—それがマーキー・プレーヤー(文字通り“千両役者”の訳語になる)である小野に課せられた使命。34歳を迎えても、なお、飽くなき向上心で衰えを知らない日本が誇るTensaiを間近に見られる機会があることを、シドニーの人々は感謝しなければなるまい。熱い熱いAリーグの舞台の真ん中で、燃えさかる小野伸二、そのサッカーへの情熱に触れに、スタジアムに足を運んでも決して後悔はないはずだ。そう断言しておく。

 

順位表

順位 試合数 ポイント
1  ブリスベン・ロア 3 2 0 1 6 2 4 6
2  ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ 3 1 2 0 4 2 2 5
3  セントラル・コースト・マリナーズアデレード・ユナイテッド 3 1 2 0 4 3 1 5
4  メルボルン・ビクトリー 3 1 2 0 3 2 1 5
5  アデレード・ユナイテッド 3 1 1 1 5 4 1 4
6  パース・グローリー 3 1 1 1 2 3 -1 4
7  シドニーFC 3 1 0 2 2 6 -4 3
8  メルボルン・ハート 3 0 2 1 2 3 -1 2
9  ウェリントン・フェニックス 3 0 2 1 2 3 -1 2
10  ニューキャッスル・ジェッツ 3 0 2 1 0 2 -2 2

ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ試合日程

 4節  11月1日(金)7:30PM  VS アデレード・ユナイテッド  パラマッタ・スタジアム
 5節  11月8日(金)7:30PM  VS メルボルン・ハート  AAMIパーク
 6節  11月16日(土)7:30PM  VS メルボルン・ビクトリー  パラマッタ・スタジアム
 7節  11月22日(金)7: 00PM  VS ブリスベン・ロア  サンコープ・スタジアム
 8節  12月1日(日)5: 00PM  VS ウェリントン・フェニックス  ウエストパック・スタジアム

日豪プレスではウェブ版で定期的に最新記事をアップしています。トップページのウェブ特集内「小野伸二、活躍の軌跡」よりぜひご覧ください!
■Nichigo Pressウェブ版 Web: nichigopress.jp

 

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る