第27回 NAT 邂逅(かいこう)

 

第27回 邂逅(かいこう)

文・植松久隆 Text: Taka Uematsu


3戦勝ちなしに冴えない表情のWSWポポビッチ監督(筆者撮影)

今回はウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)のトニー・ポポビッチ監督を取り上げたい。

ポポビッチは現役時代は豪州代表の屈強なDFとして鳴らし、Jリーグのサンフレッチェ広島に5シーズン(1997〜2001)にわたり、在籍した名うての知日派。

小野が浦和レッズに入団、プロになったのが98年。00年に浦和がまさかの2部落ちの憂き目に遭ったものの、少なくとも3シーズンは浦和と広島はともにJ1に所属、小野とポポビッチはJリーグのピッチで幾度か相対している。小野は、当時の印象を本紙取材に「自分のことに精一杯だったので、あんまり印象にない」と率直に語る。小野にとってはともかく、ポポビッチは“天才”と呼ばれた若き日の小野に強い印象を抱いたに違いない。そのことが10数年の年月を経て、自ら率いるWSWにチームの攻撃の柱として小野を呼び寄せた伏線になったことは想像に難くない。

先日の初めての“シドニー・ダービー”。観衆の注目はデル・ピエロや小野に集まるが、90年代後半のJリーグをつぶさに見てきた身には、両軍のベンチに座る人々の後姿に感慨を持った。当日、ダービーを戦う両チーム監督席には、ポポビッチとシドニーFC監督のイアン・クルークの姿があった(さらに言えば、クルークの隣にはスティーブ・コリカが控える)。ここまで読んで、「ほほー」と思う人がいれば、相当なJリーグ・オタクか筋金入りの広島サポーターに違いない。

ポポビッチとクルークは、97-98年シーズン、広島にチームメイトとして所属、異国の地でともに戦った“戦友”。ともに現役引退後はコーチングのキャリアに進み、WSW誕生前のシドニーFCではアシスタント・コーチを交互に務めるなど公私ともども非常に近しい。その2人が初めてのシドニー・ダービーで監督としてあいまみえる——何とも興味深い情景。

そのことを試合後、勝利で機嫌の良さそうなクルークにぶつけてみた。「14年の年月を経て、こんな形で2人がピッチで相対するなんて面白いね。いや、本当に興味深いね」と感慨深げに語り、弟同然というポポビッチとの新たなライバル関係を噛みしめているようだ。ポポビッチにもその胸中を聞きたかったが、残念ながら“敗軍の将”にその質問をぶつける機会には恵まれなかった。

年を重ねるごとに、Aリーグにいろいろな“物語”が生まれてきている。そういう物語の一片を可能な限り、切り取っていきたい。


【うえまつの独り言】
11月14日に若手の積極的登用が実を結び、敵地で韓国を撃破したサッカルーズ。同22日、東アジア選手権予選に臨む国内組中心の代表を発表。若手の底上げの良い機会を最大限に生かしてもらいたいものだ。

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