第61回 QLD 伝承

 

第61回 伝承

文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

この日の出会いを記念して3人のコーチがそろって(左から平山、大槻、三上。写真提供:豪侍サッカーアカデミー)
この日の出会いを記念して3人のコーチがそろって(左から平山、大槻、三上。写真提供:豪侍サッカーアカデミー)

気温が25度近くまで上がる温暖なQLDの冬の典型的な1日となった8月9日。ブリスベン郊外のグラウンドに多くの日系サッカー少年少女とその保護者が集った。楽しそうにボールを追う子どもらを、そろいのトレーニング・シャツに身を包んだ3人の日本人コーチ(3人すべて現役サッカー選手)が見守った。

その1人は、既に当連載に数度登場している豪侍サッカーアカデミー主宰の三上隣一(34)。ブリスベンを拠点に活動する同アカデミーを運営しつつ、自身もブリスベン・プレミア・リーグ(BPL)でプレーする現役フットボーラーだ。

そして、この日の特別セッションを主に仕切ったのが、大槻邦雄(36)。日本の大学サッカーやユース・サッカーに造詣が深ければ、この名前を知る人も多いだろう。1990年代末期から2000年代の初めに、国士舘大学が大学サッカー界を席巻、それに留まらずJFLに大学チームとして初めて参戦した時の主力選手として名を馳せた彼は、現在、自らの出身クラブである名門・三菱養和ユースの育成組織の核を担っている。

そして、その大槻の存在を母校の伝説的OBとして知るのが、3人の中ではひと際若い平山裕二(23)。彼もまたBPLでプレーする日本人選手の1人で、豪侍ではコーチとして子どもたちと積極的に交わる。豪侍の主宰である三上とは、いわば師弟関係にある。そして、この日の平山は、母校の偉大な先輩を前にいつもよりも緊張感を見せていた。

では、大槻と三上の関係はといえば、もう20年来の長い付き合いになる。2人はともにユースの名門・三菱養和ユースの出身で、2学年違いの先輩後輩として若き日に切磋琢磨した間柄。ユース卒業後も交流は続き、三上が現在の活動を始めて以来、その交流は年を追うごとに活発化してきた。今回は、アジアのライバル豪州の育成の有り様に興味を持った大槻の来豪が実現。三上の主宰する豪侍とのコラボレーションと相成った。

大槻、三上、平山、3人のフットボーラーが、それぞれの既存の関係性の延長線上で交わったこの日。子どもたちや保護者は知る由もないが、事情を知る身にとっては、3人の邂逅はとても興味深い光景だった。サッカーでつながる人脈で伝承されていくサッカーへの強い思いは、当地の日系サッカー・コミュニティーをさらに強くする。この3人の絆は今後、何かを生み出すに違いない――。

そんな将来の可能性の萌芽を目撃できたことは嬉しい限りだ。(文中敬称略)


【うえまつの独り言】
Aリーグの開幕が着実に近付き、各チームの補強やトレーニングにも力が入ってきた。そして、W杯予選を戦うサッカルーズは、来月3日にパースでバングラディシュを迎え撃つ。英プレミア・リーグも始まり、サッカーの熱いシーズンが再びやってきた。

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