第63回 NAT 身上

 

第63回 身上

文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

中継映像に映し出された衝突の瞬間。スパイクが顔面に直撃しているのが分かる
中継映像に映し出された衝突の瞬間。スパイクが顔面に直撃しているのが分かる

今回は日豪いずれでもなく、ニュージーランド代表のエース・ストライカーのシェーン・スメルツについて書く。Aリーグ史上2位となる通算86得点を誇る、現在34歳のスメルツは、紛れもないAリーグ屈指のストライカーだ。

昨季は、得点王に輝いた助っ人のマーク・ヤンコに先発を奪われ、交代出場が主だったスメルツ。それでも腐らず、限られたプレー時間内で8得点としっかり仕事をしてみせた。ヤンコの退団でレギュラーを奪回した今季は、並々ならぬ気持ちで臨んでいることは想像に難くない。

元来、激しいプレーが身上のスメルツ。そのスタイルが仇となって相手選手を傷つけてしまうという事故が発生したのは、第2節の対ニューキャッスル・ジェッツ戦。この日も、いつも通りの気迫のこもったプレーでゴールを狙うスメルツは、後半75分、ゴール前に出されたスルーパスに鋭く反応。ストライカーの本能の赴くままにキックの態勢に入る。しかし、運悪く、彼のスパイクがとらえたのは、ボールではなく飛び出してきたGKマーク・ビリゲッティの顔面だった。ビリゲッティは3本の前歯を失い、唇の周りに30針縫うことになるほどの大きな裂傷を負って退場を余儀なくされた。このスメルツのプレーには、FOXスポーツの人気コメンテーター、元代表GKのマーク・ボスニッチを筆頭にメディア、ファンから多くの批判が集まった。

これが“初犯”であれば、さほどの批難は集まらなかったろう。しかし、スメルツには“前科”がある。10年、奇しくも同じジェッツ戦で、当時のGKニール・ヤングと激しく交錯。ヤングは鼻骨骨折の重傷で、その後のシーズンを棒に振るだけでなく、治療薬の副作用などもあって一時は選手生命をも危ぶまれる事態に陥った。その後、選手として復帰するも出場機会を得られないまま、ヤングは2013年に現役を退いた。

そんな背景もあって、ボスニッチは「またか」と激しくスメルツを批難した。そのボスニッチの主張の可否をここで問うつもりはない。ただ1つ、言いたいのは、今回の一件があったからといって、スメルツが自らの身上である激しいプレーを躊躇するようなことがあってはならないということ。Aリーグ有数の点取り屋が激しくプレーできず萎縮する姿など、誰も見たくない。

次戦のAリーグで最も熱いシドニー・ダービーという大舞台、そしてその先のシーズンと激しいプレーが身上のスメルツらしいプレーが見られるよう願いたい。


【うえまつの独り言】
Aリーグが開幕した。第2節を消化して、オフにクラブ存続の危機までささやかれたブリスベン・ロアが首位に立つ。ジョン・アロイジ新監督の下、2連勝のスタートを切ったロア。この好調で、ピッチ内外のゴタゴタも収拾に向かえば、それこそ、まさに「雨降って地固まる」となるが……。

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