第68回 NAT 未帰還

日豪サッカー新時代

第68回 未帰還
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

絶対的なエースも早36歳。彼への“依存症”脱却が豪州にとっての急務だ(FFA提供)
絶対的なエースも早36歳。彼への“依存症”脱却が豪州にとっての急務だ(FFA提供)

またしても、英雄は戻らなかった。サッカルーズのエース、ティム・ケーヒルが、移籍絡みでまたもや騒ぎを起こした。

2月16日、彼の突然の上海申花退団が伝えられた。本人も驚くクラブの突然の変心。昨季、公式戦34試合12得点5アシストという数字を残したエースFWの急な退団は、開幕直前でグレゴリオ・マンサーノ新監督の構想外となったケーヒルを、ビザ枠を空けるための人員整理の対象としたことにある。

ケーヒルは、熱狂的な上海サポーターの心をつかんでいた。その急な退団は、そんな熱いサポーターたちに衝撃を与えた。それも当然だ。欧州各国、豪州の移籍ウィンドーも締まる中、移籍先は事実上、日中韓の3カ国に絞られていた。その中でも財政面に強い中国の他クラブへの移籍の可能性が規定コース。そして、実際、杭州緑城と5カ月契約を結んだケーヒルは今後は上海申花に立ち向かうことになるからだ。

豪州復帰の可能性は、ゲスト・プレーヤー制度(筆者注:サラリー・キャップ制の枠外で最大14週プレーすることが認められる短期契約)での移籍のみ。しかし、彼自身がその制度に懐疑的であれば実現するはずがない。彼は、このゲスト・プレーヤー制に「さまざまな不利益を生じさせる。きちんとした計画や意図を持たずにゲスト・プレーヤーとして帰国しても混乱を引き起こすだけ」とかなり否定的。

更に今回は、豪州サッカー連盟(FFA)CEOのデイビッド・ギャロップと、ひと悶着あった。ギャロップが「FFAは、ティムと代理人に上海退団のニュースを聞いてすぐにコンタクトした。いくつかの(Aリーグ)クラブや私個人としてもただちに連絡したが、すぐに彼らの要求にはとても応えられないと知った。Aリーグは彼にとってオプションになり得ない」と発言。それに、ケーヒルもすかさず「FFAが私の“要求”を満たせないという(ギャロップの)発言は、事実ではない。そんなことは一言も言っていない。(上海申花との)契約が破棄されてから、FFAの誰とも契約のことで話をしていない」と反論。

真実はどこにあるかは抜きにして、この国のサッカー界の重要人物同士の言った言わないの応酬には何ともやるせない気持ちになる。今回の騒動で、“英雄”の雄姿を拝むのはもうしばらく先になるだろうと思うに至った。英雄は還らず。ケーヒル、36歳。いったい、いつになれば彼の雄姿を彼の母国、Aリーグで見られるのだろうか。


【うえまつの独り言】
オージー選手は中国で大人気。時代を担うスピラノビッチ、セインスベリー、トロイジらが中国に渡った。そんな中、チャイナ・マネーに目もくれず、古巣に戻ってきたのが、トミー・オア。ロアの左サイドを駆け上がる快速ウィングをAリーグで見られるのはうれしい限りだ。

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