日豪サッカー新時代(QLD)第74回「志」

日豪サッカー新時代

第74回 志
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

試合後に労いにきたティム・キャンベル監督と。今季から就任した監督は渡邉を不動のCBとして起用し続けた(筆者撮影)
試合後に労いにきたティム・キャンベル監督と。今季から就任した監督は渡邉を不動のCBとして起用し続けた(筆者撮影)

試合終了の笛が鳴り響いた瞬間、渡邉志門は頭を抱え天を仰ぎ、どかっとピッチに座り込んだ。スタンドから見る限り、「泣いているのか」と思うくらいの落胆ぶりだった。

シーズン開始前は、優勝候補と扱われなかったダークホースのFNQヒートが、州王者を決めるグランド・ファイナル(以下GF)まで勝ち上がった。そして、試合終了まで残り5分で1点リード、栄冠は目前だった。それが、残り5分での立て続けの失点で、2-3とまさかの逆転負け。ほぼ掴みかけていた「州王者」のタイトルが、するりと指の間を滑り落ちたのだから、激しい落胆ぶりも、さもありなん。

しかし、存外に、引き上げてきた渡邉は悔しさと達成感の相まったさばさばとした表情を見せた。話しながら、自分の中で敗戦の現実を整理しようとしていたのか、筆者の問いへの答えは、いつも以上に冗長。試合に先立ち、フェイスブックで「僕らはまだ何も成し遂げていない。この試合は、どちらが今季一番優れているかを決める大事な試合。シーズン優勝を逃した僕らは、この試合をなんとしても取りたい。(原文英語)」と、決意のほどを語っていた渡邉だけに悔しくないはずはない。

結果にこだわって臨んだ今季。前半は首位快走も、選手層の厚くないチームは後半で息切れして、結局、シーズンを3位で終えた。上位4チームで戦われるファイナルでは、本来であればアウェーのセミファイナルが相手チームのグラウンド事情で急遽“棚ボタ”のホーム開催となっての快勝。駒を進めたGFは、建前上はホームだが、ブリスベン開催で実際上は完全なアウェーとなるなど、条件面でも恵まれなかった。それでも、試合後の本人は「まだまだです」と、自らの力不足を何度も口にした。

ケアンズを本拠地とする今季のヒートの成果は、結果的に無冠に終わったが、決して色褪せるものではない。チーム名の「FNQ」は、Far North Queensland、QLD州の“極北”を意味する。アウェーの全試合で本州縦断と大差ない距離(約1,500キロ)の過酷な移動を課される地理的ハンデを考えれば、彼らの大健闘には他にない重みが加わる。そして、その躍進の最大の功労者は、時には鼻骨を折りながらも休まずピッチに立ち続けた守備の要・渡邉志門、その人だ。

志ある門には福来る――最後は強い志で十分な成果を成し遂げた渡邉は、気持ちの良い笑顔で引き上げていった。


【うえまつの独り言】
アジア最終予選が始まった。日本はまさかの黒星スタート。タイ戦は勝利も内容は? 一方、豪州は初戦で若手が躍動してケーヒル抜きで快勝。2戦目は途中出場のケーヒルがきっちりと仕事をして酷暑のアウェーで貴重な勝ち点3。このままだと、メルボルンでの日豪戦、大変な試合になるかもとの予感。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る