日豪サッカー新時代(QLD)第76回「本物」

日豪サッカー新時代

第76回 本物
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

絶好のアピールの機会となるはずだった練習試合は、まさかの直前の豪雨で中止に(筆者撮影)
絶好のアピールの機会となるはずだった練習試合は、まさかの直前の豪雨で中止に(筆者撮影)

例年にも増して熱戦が繰り広げられるAリーグ。WSWの楠神順平がAリーグの“日本代表”として奮闘。ブリスベン・ロアでは、ジョー・カレッティとコナー・オトゥールという2人の若い日系選手が飛躍の機会を虎視眈々とうかがっている。

さらに、国内下部リーグでの「日本人選手」の存在感はひときわ大きい。昨季のQLD州1部(豪州2部相当)のNPLQでも多くの日本人選手がプレーした。その中でNPLQを沸かせた日本人選手は、グランド・ファイナルまで勝ち上がった渡邉志門(FNQヒート)と、QLD州随一の名門ブリスベン・ストライカーズで大活躍を見せた大森啓生(ひろき)が双璧。

来豪前、J3相模原で2季にわたりコンスタントに出場していた大森の経歴は、豪州下部リーグの日本人選手の中でもピカイチだ。来豪直後からその質の高いプレーで違いを見せてきた“Jリーガー”は、すぐに本職の左SBで名門のレギュラーの座をがっちり掴み、クラブのレギュラー・シーズン優勝とカップ戦のFFA杯での勝ち上がりにも大きく貢献した。

そんなクオリティーの高いプレーを地元のロアは見逃さなかった。手薄な左SBが補強ポイントだったこともあり、大森にロアの練習参加のチャンスが訪れる。通常の練習を経て、より実戦的な中で試したいとの首脳陣の考えを受け、セントラル・コースト・マリナーズとの練習試合でのテスト起用が決まった。そこでの活躍の次第では――紛れもなくAリーグが手に届くところまで来た瞬間だった。

しかし、好事魔多し。試合開始直前、会場周辺のごく限られたエリアに局地的な大雨が襲う。一瞬にしてグラウンドは水浸しになり、雨自体は上がったものの無理したくない両チームは、あっさりと中止を決定。大森の絶好のアピール・チャンスは、こうして文字通り、雨に流されてしまった。その後、ストライカーズでの日程優先で練習参加を切り上げざるを得なかった大森のAリーグ入りのチャンスは霧消した。

そんな蹉跌をも「運も実力のうち」と笑い飛ばす大森は、自らのキャリアの先をじっくりと見据え、浮かれない。とはいえ、現在進行形のAリーグで何が起こるか分からない。予期せぬ形でお呼びが掛かることだってあり得る。何が起きても対応できるよう準備を怠らない大森には、完全なオフは無い。全ての歯車が噛みあう時、2010年の森安洋文(シドニーFC)以来の国内昇格の日本人Aリーガー誕生も……。しばらくは、大森啓生から目が離せない。


【うえまつの独り言】
ベテランと若手がうまく融合したシドニーFCが5連勝。去年の低迷から、しっかりチームを立て直してきたグラアム・アーノルドの手腕は素晴らしい。一方、戦力的には充実していながら突き抜けられないビクトリー、シティーの両メルボルン勢、そして試合を重ねながら強くなるロア。今年は大混戦の予感。

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