日豪サッカー新時代(QLD)第85回「異色」

日豪サッカー新時代

第85回 異色
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

持ち前の運動量とキーパー仕込みの正確なフィードでチームに貢献する(写真提供:Brisbane City FC)
持ち前の運動量とキーパー仕込みの正確なフィードでチームに貢献する(写真提供:Brisbane City FC)

QLD州1部(豪2部相当)のNPL最終盤、上位4チーム進出のファイナル圏争いが熱い。4位から6位までのチームがデッドヒートの4位争いを繰り広げ、残り2戦でライバルを蹴落としての滑り込みを狙うのが、現在6位のブリスベン・シティー。その古豪で、豪州サッカー界のレジェンド、ジョン・コスミナ監督の信頼を得て活躍を見せるのが、左SBが主戦場のDF筧基樹(25)だ。

実は、この選手のことはずっと書きたいと思って、なかなか実現しないままだったが、ようやく登場を願えた。彼を語る時に忘れてはならないのが、そのキャリアの特異性。小学5年生から大学4年生まで自身の地元・愛知県でGK一筋でプレーしてきたが、そのサッカー歴は決して輝かしいものではない。そんな無名選手が、大学卒業から3年を経た今、豪州の地で存在感を高めつつある。しかも、DFとして。

キャリアの一大転機は、大学4年生の時に突然襲ってきた。交通事故で痛めた首の後遺症でGKの生命線である握力が半減。戻らない握力のために定位置を失い、失意のままに大学を卒業。スパイクを脱ぐことは何とか思いとどまり、DFに転向して愛知県内の地域リーグのクラブでのプレーを決めた。脱いだのはスパイクではなく、キーパー・グローブだった。それまで最後方から見ていたのとは違う景色の中で、自慢の身体能力が充分に通用することを知った。いつしか「このままで終われるか」との思いが湧き出てきた。筧の異色のキャリアが、ここから海外へと転がり出す。大学まで目立った実績がない、22歳でのGKからの転向選手の「海外挑戦」――それは、海外行きをサポートする側からも「君のキャリアでは無理」と再考を促されるところから始まった。しかし、「失うものは何もない」と本人は全く意に介さなかった。舞い降りたブリスベンの地での努力が実り、3部相当のクラブとの契約。更には、名伯楽コスミナのお眼鏡にもかなっての州1部への移籍の機会をも手繰り寄せ、現在に至っている。

DFとしては、まだまだ3年目の“駆け出し”だからと自らの成長のためには年下の日本人選手に頭を下げて教えを乞うことも厭わない。そんな男にはまだ選手としての伸びしろが残されている。「サッカーで満足したことが今まで一度もない」という向上心溢れる異色の選手の挑戦は終わらない。


【うえまつの独り言】
マチルダスがやった。日豪米伯の4カ国が一堂に会した対抗戦で並みいる強豪を撃破して優勝する快挙。豪州の女子サッカーが世界上位の実力を結果で示した。昨季のWリーグの近賀ゆかり、なでしこリーグのベガルタ仙台所属の豪州代表2選手など、女子サッカーでの日豪の絡みが増えてきたのは良い傾向だ。

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