日豪サッカー新時代(NAT)第100回拡大版「“日豪蹴球最前線を歩む男” 今矢直城と語らう」

祝・連載100回記念 拡大版特別企画

“日豪蹴球最前線を歩む男” 今矢直城と語らう
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

記者会見に横浜FMアンジ・ポスタコグルー監督(左)の通訳として同席する今矢直城氏(写真提供=横浜F・マリノス)
記者会見に横浜FMアンジ・ポスタコグルー監督(左)の通訳として同席する今矢直城氏(写真提供=横浜F・マリノス)

 足掛け8年4カ月積み重ねてきた連載「日豪サッカー新時代」がついに100回の大台に達した。シドニーを中心に配布される本紙全国版とクイーンズランド州内のQLD版とでは、毎月違う内容で執筆しているため、その実、連載は累計200回を数えるのだが、我ながらよく続けたものだ。

 記念すべき100回目には「日豪両国のフットボール関係」をよく知る人と対談したいという希望がかねてからあった。そこで、現役選手以外で改めてじっくり話をしたいと思ったのが、今回の対談のゲスト、今矢直城(38)。

 10歳からシドニーで育ち、Aリーグ初の日本人選手としてプレー、豪州以外でもドイツ、スイスなどでプレーして、現役引退後に日本に帰国してから指導者の道を歩み、現在は横浜F・マリノス(以下、横浜FM)の監督通訳を務めている。

 11月16日、東京・品川で1時間半以上にわたり今矢氏にインタビューを行った。その摘録を、100回記念の特別企画としてお楽しみ頂きたい。

日本帰国後の8年

植松久隆(以下、植松):本日はお忙しいところありがとうございます。まだ(マリノスの)残留が確定していないタイミングでお時間頂いて……。

今矢直城(以下、今矢):こちらこそ、連載100回という記念に選んで頂き光栄です。アンジ(・ポスタコグルー現横浜FM監督)と仕事していると、なかなかフルでオフがないのですが、今日から2日間が完全オフなので、大丈夫です(笑)。残留に関しては9分9厘決まったと思っていますので。

植松:やっぱり、日豪フットボール関係を共に語るとなると、今矢さんしかいないと思い、無理を承知でお願いしました。今季、混戦となっているJリーグで初めて監督通訳をされ、すごい経験をしていますね。

今矢:オファーが来た時のことを振り返ると、自分は通訳である以前に指導者だと思っていたので、オファーを受けるか正直迷いました。しかし、アンジみたいに勝つことを分かっているすばらしい監督の仕事ぶりに間近で接することができるのは自分のキャリアにとって大きな勉強になると考えて、思い切って引き受けました。

植松:今は監督通訳という立場ですが、ピッチに立っている時に頭の中では「自分だったら」みたいなシミュレーションをすることはあるんですか。

今矢:もちろん。いずれは監督業に戻りたいと考えていることもあって、そういうことは自然としますね。試合中だけでなく、練習メニューなどを含め「どうして、こういうやり方なのかな」とか、どうしても考えてしまいます。“職業病”みたいなものです(笑)。

植松:本連載が100回に到達するまで8年とちょっとなんですが、8年前となると、丁度、日本に戻ったくらいのタイミングですか。

今矢:そうですね。社会人リーグの早稲田ユナイテッドの監督になった1年目かな。帰ってきて1年目はコーチングと自分のスクール(T.O.C)の立ち上げをやり、自分の会社(Naocastle)を設立したのもそのころです。

植松:長い海外生活の後、子どものころ以来の日本での暮らしを新しく始め、カルチャー・ショックなどいろいろと大変ではありませんでしたか。

今矢:カルチャー・ショックは、あまりなかったですね。10歳に離れてから18年ぶりの日本でしたから、むしろ新しい生活に期待していた部分が大きかったので。しかし、最初は日本の社会の構造や常識など、本当に何も理解できていなかったですよ(笑)。

植松:例えばどんなことですか。

日豪両国のフットボールの関係において、育成面での貢献を模索する今矢氏(右)。今後、同氏はどのような活躍を見せるのか(写真=筆者撮影)
日豪両国のフットボールの関係において、育成面での貢献を模索する今矢氏(右)。今後、同氏はどのような活躍を見せるのか(写真=筆者撮影)

今矢:目上の人との話し方、名刺の渡し方とか。そういうマナーを何も知らなかった。しかも、一番嫌われるやり方かもしれませんが、最初のころは「そんなの分からなくても良い。俺には俺のやり方が……」みたいな考えがあって(笑)。でも、意図してそうやっていたわけではなく、ただ純粋に知らなかっただけなんです。電話を相手が切ったのを見計らって切るとか、そういうことも。だから、すごく損をしていたと思います。今思えば、「おいおい、そりゃまずいだろう」って感じですから(苦笑)。

植松:今のご自身は全然違いますよね。

今矢:そうですね。自分で日本のやり方のすばらしさに気付けましたから。名刺の渡し方1つにも意味が込められている日本のマナーの良さを知って「日本人はそこまで考えて行動しているんだ。自分もきちんとやらなきゃ」と思えたからこそ、今があります。

最前線を歩む男が向かう先

植松:ご自身は、育成世代のスクールと選手のマネジメント業をする会社の経営者であり、監督、現在は通訳と幾つもの顔をお持ちです。どこかで「日本のモウリーニョを目指す」と宣言されていたと思うのですが、やはり指導者、しかもクラブの監督としてキャリアを積むことを一番に考えていますか(注:世界有数の監督ジョゼ・モウリーニョ氏=現マンチェスター・ユナイテッド監督は、監督業の前に通訳としてのキャリアを持つ)。

今矢:それは今矢直城という個人か、あとは自分の会社かで、別々に考えないといけないと思うんです。個人としては監督業で勝負したく、会社としては「英語」というきっかけを与えて、世界にはいろいろなオプションがあるんだということを日本の若い選手たちに知ってもらいたいというコンセプトは変わりません。

植松:今矢さん自身も、監督として世界中にオプションがありますよね。

今矢:でも、自分はまだ日本のB級ライセンスなので、まずトップ・レベルの監督をするのには、A級、そしてS級と取得していかなきゃいけない。その先に、英語ができるので海外での監督業ということも視野には入れてはいますが、やはり日本に基盤があるので、まずは日本でしっかりと実績を残していきたいですね。

植松:日豪フットボール関係と言えば、今、一番ホットなトピックはやはり本田圭佑。そのメルボルン・ビクトリー入りが決まった時はどう感じたんですか。

今矢:それほど驚かなかったですね。マリノスのボスはビクトリーの前監督だし、そういう話があるというのは耳に入っていたから。報道が出始めた時は、アメリカかオーストラリアで新天地を探していたみたいなので、どうせならAリーグが注目が集まるようにオーストラリアに来て欲しいと思っていました。だから、1年後、チャンスがあればなぜオーストラリアを選んだのかってことは聞いてみたいかな。

植松:今の活躍は予想されてましたか。

今矢:そもそも、活躍できるかどうかなんて考えもしませんでした。現役バリバリで来るんだから、普通にやれるし、活躍するに決まっているから(笑)。

植松:ご自身が日本人初のAリーグ選手としてプレーされて、監督業もされている。その立場から、今の本田選手の「二刀流」についてはどんな感じで見ていますか。

今矢:うらやましいですね。彼と同じことを、もし自分自身がやるチャンスがあれば、ぜひやりたい。彼の場合、ライセンスの有無はともかく、監督をすることによって得られる経験に重きを置いているんだと思います。ここで、この手を打つとか、この練習がどうつながるかとか、そういう1つひとつが自分の首を賭けてのリアルな実戦ですから。

植松:「本田圭佑」らしいチャレンジだなと。

今矢:さすがにね、21歳くらいの若い選手が同じことやれば「まだ早い」となるところを、まさに選手のキャリアの集大成のこのタイミングでの今回の(二足のわらじという)アプローチは、自分のブランド価値を最大限に生かすという意味で、極めてクレバーだと思います。

 僕が子どもたちによく言うのは、「二兎追うもの一兎も得ずって言うけど、じゃ十兎追ったらどうなるのか」ということ。本当に優秀な人間だったら10匹中5匹獲っちゃうかもしれないでしょ。だから、本田選手が二兎以上を追えるキャパシティーとそれをやれるという自信があるのであれば、とてもすばらしいチャンレンジですから、どんどん頑張って欲しい。

植松:Aリーグのボルト騒動は、日本からどう見ていましたか。

今矢:クラブのマネジメント側の「こういうチームを作りたい」というプランに、ボルトが入っていたのであれば「有り」なのかもしれないですね。商業的な理由だけならば、僕が監督だったら獲りたくはないです。本当にどういうクラブにしたいのかっていうコンセプトによりますけど、僕は育成を大事にしたいから。

 正直、あんまり深く考えてはいなかったけど、下部リーグにも、もっと他に良い選手、例えば、関谷祐(APIAライカート)とか、いるじゃんって思いましたよ。

植松:今後の日豪両国のフットボールでの関係性の中で、今矢さんはどういう関わり方をしていきたいと考えていますか。

今矢:まだ模索していますが、最初のころから考えはあまり変わっていませんね。抽象的ではありますけど、その考えは「日豪両国のフットボールを良くしたい」っていうこと。そのために、やっぱり育成の部分においてお互いが良い所を学び合うことができるような場面で、その芯となる部分を伝えることのできる役になれれば良いんですけど、そのために何をやれば良いか、今よりも何ができるかっていうのは、まだクエスチョン・マークですね。

 しかし、日豪のフットボール界をつなぐことには、ある種の責任感を持っているので、そういう大きな目的の中で果たして何ができるのかというのは、まだまだ考えていかなければいけないことです。

植松:今矢さんでないとできないことが必ずあるはずです。これからも、日豪両国のフットボール関係のためにお互い頑張っていきましょう。本日はありがとうございました。

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