第35回 QLD 埼玉の熱い夜 ― サッカーW杯最終予選

第35回 日豪サッカー新時代 超拡大版


埼玉の熱い夜
サッカーW杯最終予選
日本 VS オーストラリア

日豪サッカー新時代


 

 

 

 

 

文:植松久隆/写真:山田武
text by Taka Uematsu photo by Takeshi Yamada

豪州のAFC転籍以来、中立地で行われるもの以外は、でき得る限りすべての日豪戦をライブ観戦することを己に課してきた筆者は、今回も当然ながら埼玉に飛んだ。

6月4日、昨年6月のブリスベンに続きW杯最終予選での日豪戦が行われる埼玉スタジアム2002には、6万2,172人の大観衆が詰めかけた。この試合は、日本にとって「5大会連続のW杯出場」が「3大会連続で世界最速」で決まる大事な試合。豪州にとっても、アウェイでの最大の難敵である日本との対戦は、W杯出場瀬戸際で粘れるかという「負けてはならない」試合。


日本の若き至宝・香川真司、この日は本田との連携で再三ゴールに迫った


本田圭佑(左)、遠藤保仁(右)、代えの利かない2人が日本の中盤をコントロールした


内田篤人(右)は、失点のシーンではカバーが間に合わなかったが、攻撃参加で見せ場を作った


サッカルーズ、若手の期待の星ロビー・クルーズ。この日と次のヨルダン戦で次代を 担う才能を見せつけた


本田圭佑。エースの貫録、そのひと言に尽きる

試合当日、豪州サッカーをよく知るスポーツ・ライターということで、とある民放局のテレビ取材を受けることになっていた筆者は、試合開始2時間前にスタジアムに足を運んだ。最寄駅の埼玉美園駅からスタジアムへの道程は、青をまとった日本代表サポーターで埋め尽くされ、見渡す限りの青、蒼、藍。数は少なくても、グリーン&ゴールドは青によく映えるので、豪州サポーターを視認するのはたやすいはずだが、目を凝らしても豪州の「グリーン&ゴールド」が見当たらない。ようやく見つけたオージー・サポーターに声を掛けると、既にかなりの“ガソリン”を消化しているらしく、陽気な声で気勢を上げるばかり。その4人組は言うまでもなく、数では絶対的に劣るもインパクトでは負けていないのがオージー・サポーター。場外での前哨戦は、豪州善戦といったところだろうか。

テレビの取材を終え、スタジアムの門をくぐる。地下のプレス・ルームに荷物を置き、エレベーターでプレス席に上がった。プレス席に腰を下ろすと、視界には180度クリアにピッチとその周辺が見渡せる。その目前の光景に「あっ」と声なき声が口を突く。サッカー専用スタジアムである埼玉スタジアム2002が6万人を超える人々で立錐の余地もない。どんな大事な試合でも代表の観客動員が乏しい豪州感覚からすると、そんな当たり前の光景にも素直に感動。隣の豪州最大の日刊紙の記者も「すごいな…」と呟きながら、スタジアムの光景をファインダーに収めていた。

豪州にとってはアウェイでの日豪戦。実は、オジェック監督の「解任」含みの展開でもあった。ある豪州メディアの記者が声を潜めて語るには「今晩の(試合の)内容いかんでは(監督の)首が飛ぶ。後任(と目される候補者)にもそれは伝わっているはずさ」。筆者には及ぶべきもない独自の人脈を持つ記者から出た言葉だけに、それなりの信憑性はある。他方、オージーのこの手の情報は差し引いて聞いた方がいいところもあるので、試合前には「そんなこともあるかもな」くらいの気持ちで留めた。この話が事実であろうがなかろうが、オジェック監督がかなりギリギリのところまで追いつめられていることは間違いない。にもかかわらず、さすがに海千山千のオジェック監督は、そんなプレッシャーを微塵も感じさせずに、前日会見の時点では相変わらずのリラックス・モード。

会見で、豪州のキャプテンのルーカス・ニールは「ここ10年、日本には90分の対決では負けていない」と発言。日本との肉を絶ち骨を斬る公式戦での対戦に絶対的な自信を覗かせた。日豪戦と言えば、忘れてはならないティム・ケーヒル。常に、豪州代表の攻撃陣で一番危険なプレーヤーであり続ける彼だが、こと、日本戦に限ればその危険度も3倍増。当の本人は「(日本相手でも)与えられた仕事をやるだけだ」とクールだが、ベテランGKのマーク・シュウォーツァーは「日本にとって一番厄介なのは、ティミー(ケーヒルの愛称)だろ。彼はいつも決定的な仕事で日本を窮地に追い込んできた」とケーヒルの活躍を予想していた。かくいう筆者も、先のテレビ取材では「豪州で警戒すべき選手は?」との問いに、月並みな答えだとは思ったが「やはりケーヒルですね」と答えた。どうやら、“ケーヒル恐怖症”は、日本人の身に染みてしまっているようだ。

そうして迎えた日豪戦は、両国の意地と意地とが激しくぶつかり合う好ゲームとなった。その試合内容は、今回から地上波SBSでの中継も始まり、それをご覧になった方も多いと思うので、ここでつまびらかにはしない。結果は、日豪両国の間に立つ身にしてみれば、「どちらも傷つくことのない」1−1のドロー。終了間際の劇的なPKで追いつきホームでW杯出場を決められたという意味では、日本にとっては十分に満足のいく結果だったろう。オジェックも気合のこもった内容でのドローに満足顔、首が飛ばなかった安堵感ももちろんあるだろうが。

試合後のミックス・ゾーン。ニールに日豪戦の度に聞く「日豪のライバル関係について感じるものは?」の問いをぶつけたところ、「お互いが力を認め合い、対決の度にスタイルは違ってもベストをぶつけ合ってともに高めていく素晴らしいライバル関係だね」と語ってくれた。そんな両国の最高峰での対決の舞台に常に身を置くことを“ライフ・ワーク”として、日豪のサッカー関係の向上を見守っていこうとの思いを新たにさせられた埼玉の熱い暑い夏の夜は、静かに暮れていった。

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