【2016年全豪オープン総括と展望】現場から見た選手たちの明と暗

2016年全豪オープン総括と展望 現場から見た選手たちの明と暗

2016年グランドスラム(GS)の第1戦、全豪オープンは、メルボルン市内のメルボルン・パークで1月18日から31日まで行われた。男子は、大方の予想通りノバク・ジョコビッチが圧勝して2連覇を飾り、女子は新星アンジェリーク・ケルバーがセリーナ・ウィリアムズを決勝で撃破して初優勝した。期待の錦織圭は、ジョコビッチには完敗したが、好調さを世界にアピールした。今年の全豪オープンを振り返ってみよう。

圧倒的な強さを見せた王者ジョコビッチ


優勝候補筆頭で歴史上最強のチャンピオンと呼ばれるノバク・ジョコビッチ(セルビア、28歳、世界ランク1位)が順当に勝ち上がり2年連続6回目の優勝を飾り、オーストラリアのロイ・エマーソン(1960年代)に並ぶ史上1位となった。(世界ランクは2016年2月8日付)

ジョコビッチは1回戦から3回戦までをすべて3-0のストレート勝ち、4回戦のジル・シモン戦(フランス、31歳、15位)では今大会唯一のフルセットまでもつれたが勝利。5回戦の錦織圭(26歳、8位)戦は3-0、準決勝のロジャー・フェデラー(スイス、34歳、3位)を3-1、決勝のアンディー・マレー(英国、28歳、2位)は3-0のストレート勝ちと危なげなく優勝を飾った。全豪を通じて失ったセット数はわずか3セットと完勝といって良いほどの強さであった。

ジル・シモン戦で辛勝した後、次の錦織戦について聞かれると「僕も錦織もスポンサーはユニクロ。日本からのプレッシャーがキツイよ」と冗談で応える余裕を見せた。準決勝のフェデラーは昨年、ドバイ大会決勝、シンシナティ大会決勝でジョコビッチを2度破った唯一の選手であり、GS優勝を目指して十分なジョコビッチ対策を練り必勝を期して挑んできた。第3セットを奪って逆転勝利するかと観客は大いに沸いたが、第4セットで力尽きた。マレーは全豪で5回目の決勝戦挑戦となった。ジョコビッチとは全豪4回目の対戦であり、ジョコビッチ撃破の強い覚悟で戦いを挑んだが、やはりジョコビッチの厚い壁のもとに敗れ去った。全豪オープン5度の準優勝は立派な成績であるが、歴史に名を残すのはただ1人。試合後、「ジョコビッチはマレーを偉大なプレーヤーで優勝カップを手にするチャンスはまた来る」と慰めたが、マレーは悲劇のヒーローとなりつつある。

ジョコビッチは昨年、全豪、ウィンブルドン(全英)、全米と優勝し、全仏でも2位。つまりGSでは1敗しただけと限りなく年間GS達成に近い。世界の注目は、1969年のロッド・レーバー(豪州、2度達成)以来、47年ぶりの年間GSが達成できるかどうかに集まる。達成すればオープン化以降で最高の男子選手として歴史に名を残すことになる。今年の全豪を見る限り、ジョコビッチが年間GSを達成する確率は高いと思われる。


錦織、4強入り狙うも王者に完敗

期待の星、錦織圭は昨年のうっ憤を晴らすような快進撃であった。1回戦、2回戦は3-0で危なげなく勝利。3回戦のギエルモ・ガルシア=ロペス(スペイン32歳、27位)には第2セットを簡単に失い、もつれるかと思われたが、第3セットからギアを上げて勝利。4回戦のジョー=ウィルフリード・ツォンガは、錦織の好敵手で難敵と思われ、現地メルボルンでも好マッチとして注目が集まったが、終わってみれば錦織3-0の快勝であった。現在の錦織の復調ぶりを示した。200キロを超える高速サーブのツォンガだが、錦織は余裕をもってリターンし、第1セット第3ゲームでブレークに成功。ストローク戦でコーナーを突くなどで圧倒し、ベスト8に駒を進めた。ツォンガに3-0で勝って好調な錦織に対して、ジョコビッチは4回戦でフルセットまで戦い疲労が残る点が、錦織の唯一の優位点であった。

錦織は総合力ではジョコビッチに勝てないことは十分に承知の上で、早いタイミングで勝負に出たが、裏目となった。第1セット第6ゲームで40-0から錦織のミスが続いて先にブレークを許し、そのまま第1セットを失った。第2セットも最初からブレークを許し、更に第5ゲームもブレークされ第2セットも失った。第3セットは第2ゲームで先に錦織がブレーク。更に第4ゲームもブレークするがいずれもブレーク・バックされ第7ゲームをブレークされ、ついに3セットとも失って敗退した。

錦織にとってジル・シモンの戦法は今後のジョコビッチ対策に大いに参考になる。シモンは31歳でパワーも強くなく下り坂の選手。ところがジョコビッチは非常に苦戦した。この試合で名手ジョコビッチはアンフォースト・エラー(凡ミス)をなんと100本も打った。錦織戦では27本、フェデラー戦では20本、マレー戦でも41本である。シモンはコーナーを丁寧に突いてジョコビッチがいらいらするほどしつこいプレーに徹した。強いサーブやストローク戦だけでは現在のジョコビッチに勝てないことはフェデラーやマレー、錦織が証明している。錦織は26歳と体力的にはピークの年代に入った。全豪の好調をベースにして残る3GSで初優勝を勝ち取ることは十分に可能である。

14年全豪覇者スタン・ワウリンカ(スイス、30歳、4位)は4回戦でミロス・ラオニッチ(カナダ、25歳、12位)にフルセットの末に競り負ける波乱があった。ラオニッチは、ベスト8でガエル・モンフィス(フランス、29歳、18位)に勝って準決勝まで駒を進めたが、フルセットでマレーに敗退した。

昨年精彩を欠いたラファエル・ナダル(スペイン、29歳、5位)は、同じスペインのフェルナンド・ベルダスコに1回戦で敗退。人気も高くGS大会を彩る4強の1人だけに落日の悲哀がただよった。16年はナダルにとって試練の年になる。

女子、独のケルバーが初優勝

5度目の準優勝を果たしたアンディー・マレー
5度目の準優勝を果たしたアンディー・マレー

グラフ以来の快挙、ドイツ女子ケルバーが優勝

グラフ以来の快挙、ドイツ女子ケルバーが優勝

決勝で惨敗したセリーナ・ウィリアムズ

決勝で惨敗したセリーナ・ウィリアムズ

急成長で3回戦へ進出した大坂なおみ

急成長で3回戦へ進出した大坂なおみ

女子は毎年のことだが荒れた展開が多い。今年も第2シードのシモーナ・ハレプ(シモーナ・ハレプ(ルーマニア、24歳)が1回戦で無名の中国の張帥(中国、27歳)に敗れるという大波乱があった。張帥は当時世界ランク139位で予選3回戦を勝ち抜いて本戦へ出場。ハレプ戦勝利は張帥にとってGS初勝利であり大金星を勝ち取った。翌日、現地の新聞ではこの快挙を大きく報道した。張帥はベスト8まで勝ち進み、全豪後に世界ランクを65位まで上げて中国トップ選手となった。14年に全豪を制した李娜(中国)に似てフィジカルに優れ強打の好選手である。第3シードのガルビン・ムグルサ(スペイン)、第6シードのペトラ・クヴィトバ(チェコ)、第9シードのカロリーナ・プリスコバ(チェコ)も3回戦で敗れ去った。第8シードでGS優勝7回を誇るヴィーナス・ウィリアムズも1回戦でヨハンナ・コンタ(英国、24歳、28位)に敗退した。コンタはシドニー生まれのオージーで12年まで豪州国籍でプレーしていたが、12年に英国国籍を取得している。コンタは準決勝まで駒を進めたがケルバーに敗退した。

決勝は連覇を狙うセリーナ・ウィリアムズ(米国、34歳、1位)とアンジェリーク・ケルバー(ドイツ、28歳、7位)の対戦となった。ウィリアムズは昨年、全米は準決勝で敗れたが、全豪、全仏、全英とGS3連勝した絶対的な存在であるだけに、下馬評ではウィリアムズが圧倒的に有利。しかしケルバーが2-1でウィリアムズを下し、勝賞金340万豪ドル(約3億円)を獲得した。ケルバーは我慢強く粘り強いテニスでウィリアムズの強打を防いで、逆にウィリアムズのミスを呼び込む戦いで勝利を呼び込んだ。

ケルバーはGS初優勝でドイツ勢の全豪優勝は1994年のシュテフィ・グラフ以来22年ぶり。試合後の取材ではなぜ負けたのかに質問が集中したが、ウィリアムズは「私はロボットではない。勝てない時もある」と憤然としていた。
 人気ではナンバー1のマリア・シャラポワ(ロシア、28歳、4位)は、ベスト8で天敵であるウィリアムズと対戦し、18連敗を喫した。

日本女子、新星・大坂なおみが健闘

日本人男子勢ではダニエル太郎(22歳、ニューヨーク出身、94位)、西岡良仁(20歳、130位)が本戦から出場。予選を勝ち上がった杉田祐一(27歳、114位)と伊藤竜馬(27歳、118位)4選手が出場したが、全員1回戦敗退となった。

女子選手の注目は大坂なおみ(18歳、127位)だ。GSに初出場ながら予選3戦を勝ち進んで本戦へ進出。1回戦でドナ・ベキッチ(クロアチア)を6-3、6-2で制すと、2回戦では第18シードのエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)に6-4、6-4で快勝し3回戦へ進出。予選からの5試合、すべて2- 0のストレート勝ちである。

3回戦では12年、13年と全豪を連覇した優勝候補の1人、ビクトリア・アザレンカに敗れたものの世界を驚かせた。持ち味は200キロを超える豪快なサーブと優れた身体能力から来る強烈なストロークだ。大阪で生まれ、父はハイチ系米国人でアメリカに住み、日米の二重国籍。筆者も海外メディアや全豪事務局から大坂なおみの日本での評判を聞かれるほど注目された。記者会見では「日本語はほとんどダメ」として、英語のみでの記者会見も日本人選手としては異例であった。豪快だが成功率が極端に低いサーブが決まりだせば、世界のトップを目指せる逸材である。

奈良くるみ(24歳、89位)も1回戦を突破したが2回戦で敗退。14年からほとんど1回戦は勝利するが、なかなか2回戦の壁を敗れていない。実力的には十分なだけに4回戦以上を目指して欲しい。土井美咲(61位、24歳)、日比野菜緒(21歳、56位)は1回戦で敗退。惜しかったのは土井だ。優勝したケルバーから先に1ゲームを先取。第2セットもタイブレークまで持ち込み、大金星まであと一歩であった。今大会でケルバーが落としたセットは、土井戦とセリーナとの決勝戦の2セットだけ。土井に取っては今後につながる自信となった。

地元オーストラリア人選手も活躍

男子選手では、バーナード・トミック(23歳、18位)、ニック・キリオス(20歳、30位)、サム・グロス(28歳、60位)、タナシ・コキナキス(19歳、80位)、ジョン・ミルマン(26歳、92位)など9人が本戦出場した。大会を通じて一番注目を集めたのは今大会で引退を表明している元世界1位レイトン・ヒューイット(34歳、303位)であった。主催者推薦枠で出場したヒューイットは2回戦まで進んだ。

かつてテニス王国であった豪州の最後の大スターであるヒューイットは全米(01年)と全英(02年)で優勝し、全豪でも準優勝(05年)の成績を残した。郷土の英雄が戦う最後の雄姿に観客や豪州全国のファンは限りない拍手を贈った。ヒューイットの後継者と目されるトミックは4回戦まで進んだ。昨年から安定して上位に食い込むようになったトミックは、今年は1ランク上のベスト8への進出が課題だ。オージー期待の若手キリオスは、3回戦で第6シードのトマス・ベルディヒ(チェコ、30歳、8位)に敗れた。

女子選手では11年全米で優勝したサマンサ・ストーサー(31歳、27位)を含め9選手が本戦に出場したが、8人が1回戦敗退した。ただ1人、4回戦まで進出したのはダリア・ガブリロワ(21歳、33位)だ。ガブリロワは昨年12月に豪州の市民権を取ったばかりで、昨年まではロシア国籍でツアーに参加していた。数年前、オージーでテニス選手のボーイフレンドと暮らすためにメルボルンに住み始めた。寿司が大好きというガブリロワの華麗なプレーに豪州中が熱中した。移民の国、豪州は新しく市民になった選手も温かく迎え入れる。有力な若手選手がいない中で、若い移民のガブリロワの活躍に期待が集まっている。

車いす部門、国枝がまさかの初戦敗退

男子シングルスで全豪4連覇がかかった国枝慎吾(31歳、車いす1位)は、ゴードン・リード(24歳、英国)に1回戦で敗退。リードは4大大会で初優勝した。ダブルスではリード(英国)と組んだが決勝で敗退して準優勝したが、13年全米以来の無冠となった。

女子シングルスでは全豪初優勝を期待された上地結衣だったが、準決勝で敗退した。ダブルスではオランダのマジョレイン・バイスと組んで6-2、6-2のストレートで優勝し、全豪3連覇を飾った。

観客数は過去最大数を記録

毎年進化を続ける全豪オープンだが、今年の観客数は72万人と過去最大を記録。優勝賞金は男女とも340万豪ドルと過去最高。全豪会場のメルボルン・パークには、ロッド・レーバー・アリーナ(15,000人)とマーガレット・コート・アリーナ(7,500人)とハイセンス・アリーナ(10,500人)と3つの開閉式屋根付き全天候型コートがある。天候に左右されずにトップ選手がプレーできる点で全豪は世界の最先端を走っている。今年はジョコビッチの年間GS達成が期待されるが、テニス・ファンには楽しい1年が始まった。


文・写真=イタさん(板屋雅博)
日豪プレスのジャーナリスト、フォトグラファー、駐日代表
東京の神田神保町で叶屋不動産(http://kano-ya.biz/)を経営

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