W杯予選日豪戦がやって来た! メルボルン決戦現地ルポ/KIRINスタジアム・ツアー

日豪戦がやって来た! メルボルン決戦現地ルポ

10月11日、日本全国、そして、オーストラリア中の在豪邦人の注目がメルボルンに集まった。アジア・サッカーのライバルとして多くの激戦を演じてきた日豪両国がW杯最終予選の真剣勝負で相まみえた。そんなメルボルン決戦ルポを、本紙サッカー記事や連載コラム「日豪サッカー新時代」でお馴染みの植松久隆が現地取材を交えてお届けする。取材・文・写真=植松久隆(ライター/本紙特約記者)

写真提供=Moto
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まず、日豪戦の結果だが、ご存知のように何とも日豪戦らしい1-1のドローに終わった。この記事を手にする読者は、もうこの試合に関する記事を各所で読んでいるに違いないから、当稿では試合内容には触れず現地の雰囲気や盛り上がりの様子にフォーカスしていく。

アジア・サッカー界の“異端”豪州が、アジアを揺るがす“黒船”としてアジア・サッカー連盟(AFC)に転籍してからはや10年。以来、日豪両国は「日豪戦」という、日韓戦のようにスポーツを超えた両国間の相克を含んでしまうコンテンツとは異なる“ヘルシー”なライバル関係を育んできた。

「日豪戦」、この言葉はひと頃に比べるとかなり人口に膾炙(かいしゃ)してきた。サッカーの世界では、豪州がAFCに転籍した後に使われ始めただろうか。手前味噌ながら、早いもので連載6年を超えた筆者の当紙での連載コラム「日豪サッカー新時代」、そして、その連載開始以前から執筆していた本紙サッカー記事でも「日豪戦」という言葉を使ってきたので、もしや、フットボール・メディアでの初出は筆者によるものかもしれない。

現行の18年ロシアW杯最終予選は、実に3度目となる“日豪同舟”。これを一番喜んだのは、筆者を含む在豪の日系社会だろう。我々にとっては、この日豪戦は最終予選の天王山というだけに留まらず、愛する祖国と自らが暮らす国の対戦となる。ましてや、日豪国際結婚の家庭では、その成員それぞれの生国同士の対戦に家庭内ライバル関係が一時的に現出する。日豪両国がガチンコでぶつかる日豪戦は、当地の日系社会に形容しがたい興奮を呼び起こす非常に大きな意味を持つコンテンツなのだ。

ここで、少し、日豪両国の“熱戦譜”を紐解こう。06年ドイツW杯の“カイザースラウテルンの惨劇”以降の両国の顔合わせは、いずれも両雄ががっちり4つに組んでの接戦ばかり。対戦成績は、今回の対戦も含めて8戦3勝1敗4分(07年アジアカップ準々決勝の日本PK勝ちは、ドローで集計)と、日本がわずかにリード。しかし、その結果をW杯最終予選に限定すると、豪州の4戦1勝3分とがらりと様相が変わり、これが豪州の日本に対する自信の根拠の1つともなっている。

試合前の下馬評で、今回ほど「豪州有利」と言われた日豪戦は記憶にない。日本は、想定外のホームでの敗戦でW杯最終予選をスタート。その後もらしくない戦いが続き、ヴァイド・ハリルホジッチ監督の解任すらささやかれる状況。

それに加えて、予期せぬ選手のけが(DF長友佑都)や、警告累積での離脱(DF酒井宏樹)などの問題が続発。日本のサイドバックの本職は、DF太田宏介とDF酒井高徳の2人のみ、更には、左足首痛で別調整が続くFW岡崎慎司が試合出場が微妙となるなど、まさに非常事態。大一番でベストのメンバーを組めない状況に見舞われた。なかなか上がってこないパフォーマンスに、日本代表の雰囲気は良くない。それに加え、豪州のここ数戦の試合内容が非常に良いこともあって、日豪両国のマスコミは、それぞれ「日本劣勢」「豪州有利」と論調を煽った。

とは言え、豪州にも問題がなかったわけではない。サッカルーズは、明らかに日程的な不利を背負わされていた。今回の試合は、メルボルン開催だから豪州のホーム・ゲームであることに違いはない。しかし、日程を見ると、10月シリーズの2連戦で豪州は「サウジアラビア/アウェー→日本/ホーム」。日本は「イラク/ホーム→豪州/アウェー」という日程。これを比較すると、アウェー酷暑のサウジアラビアからメルボルンへ飛ぶ「気候、距離、時差」と三重苦の豪州。気候差が中東程でもなく、時差も2時間の移動、しかも、アウェーで一番快適な豪州遠征の日本という対比で見ると条件的には、かなり豪州が厳しい。試合前々日会見でロビー・クルーズが「日程的な面では有利とは言えない」と恨み言を漏らしたのも、さもありなん。

現地で受けた“アウェーの洗礼”

決戦前々日。早朝に到着した空港でも、明らかに日本人サポーターと分かる旅行者の姿が多く見られた。しかし、それ以外には決戦間近を感じさせる事物には出くわさない。地元紙をめくっても、ただ今オフ真っ最中のオージー・フットボール(AFL)の扱いの方が数段大きい。日豪戦、さらには同じ週の土曜にはティム・ケーヒルの国内デビュー戦となるメルボルン・ダービーが控えるというのに、サッカーはベタ記事程度。これが、悲しいかな“AFL天国”メルボルンの現実だ。まったくAFLに興味のない筆者には、これは“アウェーの洗礼”にも等しい。

前々日練習の取材に訪れたレークサイド・スタジアム。ここでは、試合を控えての日豪両国の対照的な様子が見られた。先に練習を行った豪州は、ファンを入れての完全公開。練習後にはファン・サービスを長時間掛けて行うなど、かなりのリラックス・モード。

一方の日本は冒頭15分前のみをメディアに公開、その後は完全非公開。覗き見などが無いように、代表スタッフがスタジアム周囲を回る姿も見られるなどピリピリ・モードだった。冒頭で垣間見えた日本代表選手の表情も、決して快活なものではなかった。負ければ「監督解任」もちらつく中で、緊張が場を支配していた。この好対照を見せつけられて、「これで豪州有利は動かない」と思ったのだが……。

決戦前夜。国際試合の前日は、夕方の両国の前日会見と前日練習以外は特に動きは無い。日中を執筆に費やしてから、試合会場のドックランズ・スタジアムに向かう。それにしてもメルボルンは寒い。酷暑の中東からに移動でこの寒さ。豪州は疲労回復に合わせて気候馴化も求められるのは大きな負担だろうとは思ったが、結果的にそのコンディション面の可否が、試合結果に大きく影響するとまではこの時点では思いが及ばなかった。

試合前日を迎えたメルボルンでは、日本代表、サッカルーズのユニフォームを着て歩くサポーターが散見された。ローカル紙の紙面も前日になってようやく見開きでのあおり記事を載せた。この日のハイライトは、ハリルホジッチ監督の前日会見。質疑応答の最後で英語通訳が訳し終わらないうちに発言の主である監督が席を立ち、すたすたと退場してしまった。英語でしか情報が入らない当地メディアには英語での通訳は必要不可欠だ。その訳がまだ終わらないうちに席を立つのは、彼自身の余裕のなさを感じさせると同時に、少なからず非礼に映る褒められる行状ではなかった。そんなところにも、試合に向けての緊張の高まりを感じた。

「日豪戦」が持つポテンシャル

そして、迎えた試合当日。決戦間近の興奮と適度な緊張感でいても立ってもいられず、試合開始前の3時間半前にスタジアムに到着。別掲の「スタジアム・ツアー」の同行取材と、メディア・ルームでのひと仕事を終えて、スタジアムの外に出ると、開場時間を待ちきれない日豪両国のサポーターの姿があふれていた。開場すると、客の出足は好調でスタンドがすごい勢いで埋まっていく。いよいよだ、と一気にテンションが上がる。

毎回、日豪戦の行われるスタジアムでは日豪国際結婚のファミリーがそろって観戦する姿に自然と目が行く。筆者自身も同じ境遇だが、こういう仕事柄、自分の子どもたちとの日豪戦の生観戦は実現しないままだ。そんなこともあって、似たような家族を見掛けると無意識に自分の家族を投影してしまう。

自宅で観戦しているであろう息子のことを考えながら、試合前のスタジアム内を歩き回っていると、周囲から際立って映える美しい着物姿の女性を見付けた。手には、日豪両国のユニフォームをハーフ&ハーフにしたお手製のユニフォームを着た男の子を引いている。

「サッカーが大好きな子どもたちのために、絶対に家族全員で来たかったんです。着物は私のユニフォームです」と笑うのは、筆者と同じブリスベンから家族5人で遠征してきたヒンズ沙千子さん。ブリスベンで和服を広めるさまざまな活動を行うという彼女の着物姿、どうりで堂に入っているはずだ。

全豪に散らばる在豪邦人も、この試合のために大挙してメルボルンに押し寄せた。メイン・スタンドでは、シドニーを拠点に活躍する有名シェフの野田雷太さんの姿を見かけた。家族や友人と共に参戦したこの試合、WSW在籍時代に交流が深かった小野伸二選手モデルのユニフォームでばっちり決めて「今日は絶対勝ちますよ!」と意気軒高。とにかく、スタジアムのそこかしこから日本語が聞こえてくる一種の「非日常」は、まったくアウェーを感じさせない。

試合後、がらんどうのスタンドを見下ろしながら思ったのは、「日豪戦」というコンテンツが持つポテンシャル。いつの日か「日豪定期戦」が実現して、毎年のようにこの熱戦を体験できないだろうか――。熱戦の余韻を感じつつ、そんなことに思いを馳せながら日豪戦のメルボルンの夜は静かに更けていった。

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1-1の引き分けに終わった今大会。試合会場では、真剣なまなざしで戦う日豪双方の選手たちと、彼らを見守る熱いサポーターたちのドラマが繰り広げられた。(写真提供=Moto)



サッカー日本代表オフィシャル・パートナー
KIRINによるスタジアム・ツアーが開催

日豪戦の試合直前、サッカー日本代表オフィシャル・パートナーのKIRINが、厳しい競争倍率をかいくぐった当選者たちを対象にスタジアム・ツアーを行った。大舞台の裏側とは!?

大舞台にKIRINの広告板が栄える
大舞台にKIRINの広告板が栄える

10月11日午後5時。日豪戦キックオフの3時間以上も前とあって大一番を控えるドックランズ・スタジアムの周囲は人影もまばら。満員になると5万5,000人を飲み込むというスタジアムも、まだ静寂に包まれていた。

そんな中、巨大なスタジアムの一角「Gate3」だけは、青色のユニフォームに身を包んだ日本サポーターでにぎわっていた。今回、KIRINは試合直前にスタジアム・ツアーを開催。Gate3には、KIRINと日豪プレスの共同企画「日本代表応援チケット・読者プレゼント」の当選者2人と、KIRINが日本で行った日本代表ツアーが当たるキャンペーンで1,000倍以上の狭き門をくぐった20人が、ツアー開始を今か今かと待ち望んでいた。

1978年からサッカー日本代表を応援してきたKIRIN。一番搾り製法を使用し、クリアでピュアな味わいのビール「KIRIN恵み」や、すっきりと爽やかなサイダー「KIRIN薫り」(いずれもオーストラリア・ニュージーランド限定)など、同社の商品はオーストラリアで好調な売れ行きを誇っている。

いよいよツアー開始

AFCの担当者に先導され、地下通用口からスタジアムに足を踏み入れた時点で、参加者は興奮を隠しきれない様子。ここで一行に思いがけぬ朗報が届く。

「今回、特別に選手ロッカー・ルームの近くまで入れることになりました!」

予期せぬサプライズにどよめく参加者一同。一部エリアへの立入禁止が条件だったものの、普段は絶対に体験できない大一番の舞台裏、そしてその奥まで入れるのだ。

足を踏み入れたロッカー・ルーム・エリア。日本代表のスタッフが忙しそうに練習着の仕分けをしている。練習で使う公式球も床に並べられていた。試合前に選手たちが言葉を交わし、入念な準備をするエリアに自分たちがいることに参加者の目が輝く。雰囲気だけでも感じ取って帰ろうと、五感を駆使してその場での体験を記憶にとどめようとする姿がそこかしこで見られた。

記者会見場も見学した
記者会見場も見学した
選手になりきって記念撮影も
選手になりきって記念撮影も

ロッカーから伸びた長い廊下を歩く。「ここを、まさに試合前の選手がピッチに向かって歩くのです」と解説するガイドの声に、ユニフォーム姿の選手たちがまさに決戦の場へと赴かんと踏みしめる空間をイメージして眼をつぶった。

「これはすごい経験だ」

1人の参加者がつぶやくのが聞こえた。長い廊下を曲がると、視線の先にピッチが見える通路に立つ。試合映像で両軍の選手がお互いの健闘を誓い軽く声を交わし、エスコート・キッズの手を取るあの場所だ。

そこから更に歩を進めて出口を抜けた瞬間に目に飛び込んできたのは、緑鮮やかなピッチと四方にそびえるスタンド。選手と同じ視点で見る光景に参加者の興奮度は頂点に。

ピッチの周りを興奮気味に半周してから、ピッチ脇に配置されたKIRINの広告板をバックに記念撮影。その後、スタンドに上がって、メディア・ルームと記者会見場を見学した。試合前日と試合後会見に使われるひな壇に上がっての記念撮影も許され、参加者は日本代表監督気取りでポーズを取った。そんな姿を現地マスコミがカメラに収める姿も見られるなど、盛りだくさんのツアーとなった。

当選者からのコメント

KIRINと日豪プレスの共同企画「日本代表応援チケット・読者プレゼント」の当選者2人にツアー当日、話を聞いた。

重村佳江さん(メルボルン在住)は、当選を聞いて「ただただビックリ。当選したら真子さんと行くって決めてたので、すぐに連絡しました」と笑顔。竹盛真子さんは、長友佑都選手の大ファン。「大好きな長友さんを見られるないのは残念だけど(注:長友はけがで豪州遠征は不参加)、今日は楽しみます!」と笑顔。

2人とも「今日は勝ったらKIRIN『恵み』で乾杯です!」と試合前から喜びを隠しきれない様子だった。



日本勢が活躍するたび、会場は喚起に沸いた
日本勢が活躍するたび、会場は喚起に沸いた
日の丸のフェイス・ペイントを施した人たちの姿も
日の丸のフェイス・ペイントを施した人たちの姿も

メルボルンでサッカー日豪戦が行われた10月11日、シドニーのクロウズ・ネストのレストラン「Sapporo」でもスクリーンに熱い視線が注がれていた。

敵地の日豪戦を迎えるまでの日本の最終予選の成績は2勝1敗。6チームで構成されるグループの上位2位までに自動的にW杯の切符が与えられる中、同組4位につけていた。まさに日本にとって日豪戦は最終予選突破に向け、勝てば天国、負ければ地獄という状況だ。最終予選前半の大一番に、試合開始時刻には50人近くの人たちがSapporoに駆けつけた。

試合はいきなり動く。前半5分原口のゴールで日本が成功すると店内の日本サポーターは大盛り上がり。テラス席で沈黙するオージーたちとは対照的に楽観的な空気が店内に一気に充満した。

しかし後半に入りPKで同点を許した日本はその後、防戦一方展開に。店内のサポーターは固唾を呑んで見守る時間が続いたが、試合も終盤に入ると店内から日本コールが沸き起こり再び応援モードのスイッチが入る。相手の交代選手にはブーイングが起こり、日本人選手へのラフ・プレーには「イエローだろ!」と声が飛ぶ。途中投入の選手に勝ち越しゴールを託すサポーターの思いもかなわず、試合は結局1対1の同点で終了。

試合後、日豪戦にサポーターは何を思ったか。日本のユニホームを着て応援していたオージーのジミーさんは、「日本が勝つべき試合だった。守りに入ってしまいがっかりだよ」と不満げに語った。また、シドニー在住の美奈子さんは、「後半の失点がもったいなかった」と敵地での勝ち点3を逃した日本代表を嘆いた。

最悪の展開は免れたが、最高の展開も逃してしまった。そんな不満くすぶるサポーターたちの想いと共に日豪戦は幕を閉じた。ただ不満であると同時に、この日Sapporoで声援を送った日本サポーターにとって、日豪戦は遠く離れた同じ国の代表を近くに感じることができた至福の時でもあったはずだ。だからこそ、そんな想いが90分の中で喜怒哀楽、様々な感情となって1つの空間に表れたのではないだろうか。勝ちでもなく負けでもない、引き分けの試合結果だったからこそ見えた感情が確かにそこにはあった。(文・写真=山内亮治)

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