12年目のAリーグ きらりと光る「日系」の存在感


Aリーグの12年目のシーズンが終わった。豪州フットボールの英雄ティム・ケーヒル凱がいせん旋で幕を開けた今季のAリーグは、シドニーFCの圧倒的強さに終始したシーズンでもあった。その中でもウェスタン・シドニー・ワンダラーズ所属の楠神順平、ブリスベン・ロアのカレッティ丈と日系の存在感も光った。12年目のAリーグを本紙連載でもおなじみの植松久隆が振り返る。取材・文:植松久隆(ライター/本紙特約記者)写真:Nino Lo Guidice

圧倒的な強さでシドニーFCが戴冠

今季のAリーグ全日程が終了した。アデレード・ユナイテッド、ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)、ブリスベン・ロアの3チームが参戦したアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)は、豪州勢過去最低の不甲斐ない成績での敗退が物議を醸した。日本の天皇杯に当たるFFA杯は現在進行形だが、Aリーグ勢が参戦するラウンド32(8月)までは少し間が空く。この時期は、ほとんどの選手が束の間のオフを満喫、フロントは来季の構想を練ってチーム強化にアクティブに動く時期だ。

このオフを最も充実感と達成感を持ってエンジョイしているのは、グラアム・アーノルド監督に率いられ、完全無欠のリーグ優勝とファイナル制覇の2冠を達成したシドニーFCの選手たちだろう。今季のAリーグを総括するのに、このチームのことに触れないわけにはいかない。

今季のシドニーFCは本当に凄まじかった。レギュラー・シーズン27試合を20勝6分1敗。勝ち点は積みに積んだりの66。この成績は、これまでのブリスベンの勝ち点65(2012/13)を塗り替えての新記録。しかも、ブリスベンの記録は30試合でのもので、今季のシドニーは3試合少ない試合数でその記録をあっさり破った。その勝ちっぷりたるや、もう驚くべきレベルだ。結果的に、2位メルボルンVに勝ち点差17を付けて一度も首位を譲ることなく悠々と逃げ切ってみせた。

鉄壁のシドニーFC守備陣

積極的な補強でDFアレックス・ウィルキンソン、DFマイケル・ズーロ、MFジョッシュ・ブリランテなど新たに5人の豪州代表経験者を獲得。各ポジションに代表経験者や代表クラスをずらりとそろえたチームに穴らしい穴は無かった。新加入の外国人も期待以上の活躍を見せたことで、攻守共に他の追随を許さない出来を保った。そんなチームをうまく舵取りしたアーノルド監督の手腕は、もはや疑いようがない。既に18年ロシアW杯で退任の意思を明かしているアンジ・ポスタコグルー豪州代表監督の後任に推す声が上がるのも当然だ。

シドニーFCは圧倒的な強さで今季のリーグ・タイトルを獲得した
シドニーFCは圧倒的な強さで今季のリーグ・タイトルを獲得した

特筆すべきは、圧倒的な結果を残した今季のシドニーFC守備陣だ。27試合での失点数は、たったの12。2点以上失点した試合は1試合(第14節対CCM)のみで、13試合とほぼ2試合に1試合は完封勝ちという成績には驚きしかない。開幕当初のセンター・バックは、ベテランのウィルキンソンと、27歳の中堅マシュー・ジャーマンのペア。しかし、第13節を終えた時点でジャーマンが韓国の水原三星に電撃移籍。堅守を支えたセンター・バックにぽっかりと穴が開いたが、その穴もオランダから来たジョルディ・ボゥイスがしっかり埋めた。守護神のベテランGKダニー・ヴコヴィッチも家族の健康面での理由でシドニーに移籍してきて1年目で、キャリア・ハイと言って差し支えないパフォーマンスを見せて、遅咲きの代表入りをもつかんだ。シドニーFCの誇る鉄壁の守備陣は、シーズンを通して全くほころびを見せることのない安定感で他を圧倒して見せたのだった。

楠神順平、1年目の献身

そんな完全無欠なシドニーFCに唯一土を付けたのが、同じシドニーを本拠地にするWSW。そのチームでシーズンを通じての活躍を見せたのが、楠神順平。切れ味の鋭いドリブルで、3トップの右ウィンガーのポジションにおいてトニー・ポポヴィッチ監督の厚い信頼を勝ち得て、チーム最多タイの試合出場で大きく貢献した。

序盤の出遅れが響いたWSWは、何とかシーズンを6位で終えて上位6チームで戦われるファイナル・シリーズに滑り込んだ。そのファイナル初戦のブリスベン戦では、120分の死闘の末、試合を決めるPKを外した楠神は天を仰ぐことになったが、楠神はそれで終わりはしなかった。残ったACL予選グループ2戦で、日本凱旋のアウェー・浦和戦での技ありゴールを含む2ゴール2アシストを記録。しっかり有終の美を飾って、楠神は豪州挑戦1年目のシーズンを終えた。

ポポビッチ監督は、毎年オフ恒例の大幅選手入れ替えで、来季のファイナル制覇の悲願達成に向けて既に動き出している。今季の攻撃の要だったミッチ・ニコルズの退団もあり、2年目の楠神の存在感がクラブ内で上がるのは間違い無い。あの小野伸二ですら成し遂げられなかったファイナル制覇へ、来季に向けてのモチベーションは高い。この短いオフで来るべき来季の英気を養う楠神の今後の大暴れに今から期待したい。

カレッティ丈、日系の星

来季への期待と言えばもう1人、日系コミュニティーとして注目したい選手がいる。日本人の母親を持つカレッティ丈、18歳。ブリスベン・ロアに所属するMFは、来年のU-23世界選手権に向けて本格的に始動したばかりの豪州代表にも飛び級で選出された有望株。今季は、クラブの主将で豪州代表マット・マッカイの故障離脱やACLとの過密日程もあり、公式戦15試合で出番を得た。

今季をステップにしたカレッティ丈の更なる飛躍が期待される
今季をステップにしたカレッティ丈の更なる飛躍が期待される

Aリーグのレギュラー・シーズンの佳境でも先発出場を任されるなど、計10試合に出場して本格的ブレークを果たしたカレッティは、公称162センチと抜きん出てAリーグ一番の低身長。それでも、セントラルMFというポジション上、体格に勝る相手との肉弾戦は避けられない。我らが“リトル・ジョーイ”は、その身のこなしの軽やかさと素早い判断力に基づく正確なパスさばきで存在感を発揮する。そんな彼のコンスタントなパフォーマンスは、ジョン・アロイジ監督を始めとした首脳陣の評価も高く、早々に来季以降の契約オファーを勝ち取った。

同タイプの選手であるマッカイとのポジション争いは決して楽ではないが、今季で得た大きな自信を糧にして来季の更なる飛躍が期待出来そうだ。元々、ジョーイズ(U-17代表)でも主将を任されるなど、豪州の未来を担う素材として注目されてきた彼の本格的なブレークは、日系コミュニティーにとってもうれしいニュース。本紙でも引き続き彼の動向をつぶさに追っていきたいと思う。

今年のAリーグは「場外」もなかなかにぎやかだった。将来的なリーグ拡張(エクスパンション)へのいろいろな地域からの参戦、Aリーグの下に2部を作る動き、などなど。FFAがエクスパンションの過程を少し遅らせるとほのめかした矢先に、さまざまな動きが活発化したのは何とも興味深いが、FFAもこの動きにはなかなか抗(あらが)えまい。早晩、エクスパンションは実現する。そうなれば、より多くの選手にAリーグの舞台に立てるチャンスが訪れる。その動きの中で、更に日本人選手そして日系選手の存在感が高まれば、それに増す喜びは無い。だからこそ、本紙関連記事でAリーグとローカル・フットボール・シーンにおいて活躍する日本人及び日系フットボーラーをどんどん取り上げていくことの意味があるというものだ。

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