日本初勝利を挙げW杯へ、日豪戦の新たな歴史を開く熱闘・日豪戦現地ルポ

日本初勝利を挙げW杯へ、日豪戦の新たな歴史を開く熱闘・日豪戦現地ルポ(Photo: AFP)
(Photo: AFP)

8月31日、埼玉スタジアムで行われたW杯アジア最終予選の大一番の「日豪戦」。試合は豪州の良いところを出させなかった日本が2-0の快勝。日本がホームで歓喜のW杯出場を決めた。結局、B組3位でプレー・オフに回った豪州は、シリアと対戦。その後、11月の北中米カリブ海予選の4位チームとのプレー・オフを戦うと茨の道が待つ。歓喜と落胆、日豪両国の明暗を分けた1戦を、豊富な現地情報と共に振り返る。取材・文・写真:植松久隆(ライター/本誌特約記者)

今回のW杯アジア最終予選でも同組となった日本と豪州。これで、豪州がアジア・サッカー連盟(AFC)に転籍してから、実に3大会連続の同組だから、これはもはや偶然と言うよりは奇縁と言っても良い。

2006年のドイツW杯以降、いわゆる「日豪戦」を第三国で行われる試合以外は、全て現地取材することを自らに課してきた。「日本人としてオージーの家族と豪州永住」という属性からすれば、日豪の真剣勝負を取材・観戦できることは、日豪両国が共にW杯本選に進出できるとの条件付きではあれど、基本的にはうれしいこと。幸い南アフリカ(10年)、ブラジル(14年)両大会には、日豪が共に手を携えて本選に臨むことができたが、三度目の今回はどうも雲行きが怪しくなってしまった。

今回の8月31日の埼玉決戦は、ドイツW杯での“カイザースラウテルンの惨劇”以来の日豪戦の歴史の中でも、紛れもなく一番のガチンコ勝負での対戦となった。直前のUAE対サウジアラビア戦でサウジアラビアが負けたことで、日本の「勝ちがマスト」の状況こそなくなったが、それでも「ホームで決めたい」日本と「引き分けでも何とか」という豪州がぶつかる試合に向けての緊張感は保たれた。

その緊張感が醸し出された理由の1つには、「負ければハリル解任」といったような、まるで日本の勝利を願わないような報道に代表される「ハリル不信」が囁かれる状況もあっただろう。日本到着前後に、そのような報道を見聞きして、少なからず違和感を覚えていた。たとえ心のどこかで解任を願っていても、眼前に迫った最大の強敵との天王山を前に「勝ってW杯に行こう!」と思って欲しい。同業の某氏の「ここは引き分けでいい。そうすれば、豪州は喜ぶし、日本もホームで勝てずに大ナタも……」というセリフには驚かされた。

最後まで困難極めた豪州スタメン予想

今回の取材は豪州メディアとして取材パスを手に入れ、日本のメディアからの仕事も豪州代表サイドの情報を発信することにあったので、滞在中の取材対象はもっぱらサッカルーズだった。試合3日前から取材活動を開始。初日の夕刻は、東京・北区の味の素フィールド西が丘で行われた練習の取材に駆け付け、選手全員の様子をチェック。程よい気合乗りを見せるも、まだ全体的には余裕が感じられた。主力選手の中には日本に到着したばかりの選手がいるなどコンディション面が読み切れないことで、この時点での布陣の予想は難しかった。

試合前々日は、都内の某高級ホテルでのサッカルーズのメディア対応に顔を出し、代表の広報や同業者とコミュニケーションを取って情報収集。囲み取材に応じた主力選手にも緊張感はまだ見えない。その日の午後は、前々日練習を取材。公開練習では選手数をカウント、誰がいないかをチェックするのが重要なタスクだが、何度確認してもいるべき顔がいない。エースFWのトミ・ユリッチだ。すぐに広報に事情聴取。曰く「既に来日も、前夜の到着が遅く、練習会場まで来てストレッチだけのメニューをするに及ばない。ホテルに残りプールに入っている。けがはない」とのこと。とりあえず、そのことをすぐに付き合いのある日本メディアに報告。この日の練習、冒頭15分公開のはずがいつになっても追い出されない。結局、終わってみれば全公開。「今さら何も隠すことはないよ」――これは、豪州の自信か、慢心か。

そして迎えた決戦前夜。この日は、夕方から試合会場となる埼玉スタジアムでのサッカルーズの前日公式練習と記者会見を取材に向かう。最寄りの浦和美園駅を降りての長い歩道のフェンスには、日本代表の公式スポンサーの応援広告が貼りだされていた。その中の1つのコピーに目が留まった。「過去の最終予選でオーストラリアに勝利したことはない。」と大書されている。駅から同行の豪人記者に伝えると、興味深げにそのバナーをカメラに収めていた。恐らくは「こういう負のデータもあるが、そんなジンクスに打ち勝ってでも日本代表頑張れ」という意味合いなのだろうが、豪人記者にしてみれば「それって、こんなに大々的に知らせる意味があるの?」と理解不能の様子。

スタジアム到着後、久しぶりに会う同業者の方々と挨拶がてらの情報交換。そして、時ならぬ雨でいったん開始時間が延びた公式練習をスタンド最上部の記者席から目を凝らしながら見守った。ここでも選手の数と出欠を確認すると、この日もユリッチの姿がない。同僚の豪人記者に聞けば「直前のクラブの公式戦で軽微な打ち身があるらしい」とのこと。昨日の広報の情報はブラフだったわけだが、これで先発予想は更に難しくなった。他の記者数人と先発予想を見せ合うもなかなか一致しない。日本の記者からも尋ねられたが、「ユリッチの取捨が難しい。でも、他にワン・トップをきちんと張れる選手がいないので出てくると思う」と答えるのが精いっぱい。日本代表の練習と会見も見たかったのだが、メディア・ルームの混雑と原稿が残っていることもあり断念、宿舎へ向かった。

エースFWユリッチ(中央左)のコンディション不良だけでなく、司令塔ムーイ(中央右)の不在も大一番に響いた
エースFWユリッチ(中央左)のコンディション不良だけでなく、司令塔ムーイ(中央右)の不在も大一番に響いた

そして、迎えた決戦当日。日本にW杯を決めて欲しい日本人としての自分、長年追ってきたサッカルーズにらしさを出して欲しいと願う親心にも似た感覚、そんないろいろな気持ちがないまぜになってか、朝から妙に落ち着かない。直前記事を何とか書きあげて、午後4時半過ぎに予定より少し遅れて、腹ごしらえをしてからスタジアムに急いだ。

スタジアム周辺は前日の決戦前夜の静寂とは別世界。その雰囲気は、大一番の前の緊張というよりは年齢的に若く女性ファンが多いせいもあってか、どこか華やいだ感じ。青一色の中でグリーン&ゴールドはよく目立つ。群衆から頭1つ抜けて、路上の露店でビールを買って気勢を上げるオージー男性の一集団があった。聞けば、メンバーの1人の「バックス・パーティー」で、仲の良いサッカー好きの友人たちで大挙押し寄せたとのこと。

スタジアムに到着後、荷物を置いた瞬間に頭がボーっとして軽い眩暈(めまい)に襲われた。どうやら、立て込んだ原稿と自らの興奮と周りの熱気に焚きつけられて、ガス欠を起こしてしまったようだ。何とかラップトップに向かおうとするも、集中できずにしばらく座って体を休めていた。そうすると同業者の1人に「ムーイ、どうしちゃったんですかね」と聞かれ、答えに窮してしまった。「え、ムーイ、どうかしましたか?」と聞くと怪訝な顔の同業者。ボーっとしている間に既に先発11人が発表され、そこにはユリッチの名だけでなく司令塔の欠くべかざるアーロン・ムーイの名もないではないか。青天の霹靂!慌てて確認に走ると「朝に体調不良を訴え、大事を取っての欠場。会場入りもしていない」とのこと。これでようやく目が覚めた。スタジアム最上階に近いメディア席に上がり、大きく深呼吸を数回。やっと脳みそに空気が回って、臨戦態勢は整った。

宿敵に完敗し茫然自失のアンジ・ポスタコグルー監督
宿敵に完敗し茫然自失のアンジ・ポスタコグルー監督

次のカタール大会の最終予選はともかく、それ以降は出場国数が激増するW杯。「もしや、今回ほどガチンコ勝負の日豪戦は二度と見られないかも」との思いから、いつになく真剣に見守った90分だったが、既にひと月以上が過ぎ、試合の分析記事は出そろっているだろうから、試合評は割愛しよう。試合後のピッチ上には、“カイザースラウテルンの惨劇”の頸木(くびき)を取り払い、快勝に笑顔を弾ませてW杯決定の歓喜に浸る日本。一方、二度までもW杯決定の歓喜の瞬間を見せつけられる完敗で、茫然自失のサッカルーズの対照的な姿。試合後の会見でのアンジ・ポスタコグルー監督は、今までに見たことがないほど憔悴しきっていた。

日豪両国でのW杯出場へ

この勝利、先述のバナーにもあったように日本にとってはW杯最終予選での日豪戦の初勝利。これで最終予選での対戦通算成績は6戦1勝4分1敗と完全に五分の星となった。試合後、ミックス・ゾーンで豪州の選手のコメントを拾おうと待ち構えていると、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督の会見で起こった拍手が漏れ聞こえてきた。素直に日本の勝利はうれしいし、ハリルホジッチ監督にも称賛の拍手を送りたい。でも何だろう、この複雑な感情は……。今さらながら、日豪両国のサッカーでのライバル関係を追ってきた自分が、無意識ながらニュートラルの立ち位置にいたことを知らされた。結局、最終戦での「他力本願」も叶わず豪州のW杯の道程は一気に厳しいものとなった。豪州が2つの厳しいプレー・オフを勝ち上がって、日本と共に手を携えてのロシア行きを決めた時に、改めて日豪両国のW杯出場の祝杯を上げることにしよう。

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