サッカーAリーグ・楠神順平選手インタビュー

ラスト・インタビュー

Aリーグ ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ
楠神順平

ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)で2季目を戦っていた楠神(くすかみ)順平(30)がシーズン半ばでチームを去り、母国日本のJ1清水エスパルスに移籍した。切れの良いドリブルと労を惜しまないプレー・スタイルでサポーターから愛された同選手の豪州での足跡を、今回の移籍話を交え、本紙連載コラム「日豪サッカー新時代」の植松久隆が振り返る(文中全て敬称略)。(取材・文・写真=植松久隆/本紙特約記者、写真=Nino Lo Guidice)

「シドニーはJumpeiを忘れない」

2018年が明けて間もない1月2日、ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)のプレス・リリースが短く、楠神順平の退団を伝えた。「合意の下での契約解除で、他のプレー機会を求めての退団」と間違った通算出場試合数とゴール数(筆者注:実際は公式戦44試合6ゴール)を訂正することなく載せる、あまりに淡々としたものだった。

正直なところ、その知らせを受け取って驚きはなかった。というのも、楠神にとっては2季目が1年目ほど上手く推移していないのは明らかで、新天地を求める気持ちが出てくるのも当然。またクラブ側、特にスペイン人指揮官のジョセップ・ゴンバウ監督にしてみれば、1月の移籍期間中に不振のチームのテコ入れのために思い切った選手の入れ替えを考えるのは明白。監督がより自分の望むスタイルに合う選手を海外から獲得するとなると、楠神の退団でビザ枠が空くメリットもあった。

今回は、そういった両者の思惑が一致しての「円満な契約解除」での退団。程なく日本のメディアでも関係者からの情報を基にした「J1清水、WSWの楠神獲得濃厚」という追っかけ記事が出たことも、水面下での交渉が着実に進んでいたことを示している。そのいきさつを、本人に自分の言葉で語ってもらった。

選手としての葛藤と迷いなき決断

「清水からオファーを頂いて『そっちで頑張りたい』という気持ちになり、(移籍志願に関して)クラブにもOKと言ってもらえ、結構スムーズに決まりました。(清水からのオファーは)すごく良いお話で強い熱意を感じたこともあって、もう一回日本でチャレンジしようと決めました」

今回の移籍については、やはり信頼していたトニー・ポポヴィッチ前監督のシーズン開幕直前の急な退任も影響があったことも否定しない。

「僕はやっぱり、ポポヴィッチに呼ばれてきた選手。監督交代とかいろいろあり(筆者注:ポポビッチ前監督の急な退団を受け、アシスタント・コーチのヘイデン・フォックス暫定監督を経て、11月に前豪州U-23代表監督でスペイン人のジョセップ・ゴンバウが監督に就任)、そういう中で自分としても違う挑戦がしたいという気持ちが出てきました」

実際、ゴンバウ監督の就任後もチーム状態はなかなか上向かず、ゴンバウの楠神の起用も安定しなかった。そこに常時試合出場を願う選手としての葛藤が生じる。そんなタイミングで「新しいシーズンの主力としてぜひ」という強い誘いが海を越えて母国からやってくれば、気持ちが揺れないわけはない。

Aリーグで一番熱心とも言われるWSWのサポーターには驚きで迎えられた今回の退団。直前の試合でのある出来事もあって、1つの「憶測」を呼んだ。前述のシンプルな公式リリースが転用された公式フェイスブックの投稿には、急な知らせに対しての驚きと主力を放出することへの怒り、去り行く日本人ウィンガーへの賛辞やはなむけの言葉などが多く書き込まれた。

その「憶測」とは何か。元日のホームでのメルボルン・シティー戦でのある出来事だ。先発を外れてベンチで戦況を見守っていた楠神だったが、開始10分で先発のスペイン人アルヴァロ・セフドの負傷を受けて、スクランブル出場でピッチに送り込まれる。そして、2-1とリードしての試合残り10分、スーパー・サブのベテランFWサンタラブ投入のタイミングで交代を告げられたのも楠神だった。試合を伝える実況も「ジュンペイ? サブにサブ?」と首を傾げた不可思議な交代。ピッチ上の楠神も意外そうな表情を浮かべ、浮かぬ顔付きでピッチを後にする。出迎えたゴンバウ監督との接触も最低限のものだったこともあって、翌日の退団発表を受けて一部のファンは「こんなことになるのは、昨日の交代時のボディー・ランゲージで分かっていた。何かが間違っていたんだ」「昨日の扱いは酷すぎた。選手があんな風に失礼に扱われるのを今まで見たことがない」という思いと共に想像をたくましくした。

実際は、既に進んでいた移籍話なのでこの出来事は彼の退団には何の関係もないことは言うまでもない。本人もそんな噂を笑い飛ばす。

「あれはよく分かりませんでしたね(笑)。とりあえず1人がけがをして、僕が入ってプレーも悪くなかったんですが、残り10分でチームが守備に入ったのか、交代って……。でも、それは(今回の移籍には)本当に全く関係ないんですよ(笑)」

今回の清水への移籍による日本復帰は、本人曰く「迷いなく決断できた。監督交代もあって『出るなら今かな』というタイミングでのポジティブな移籍。クラブのコーチや社長からも『今までありがとう』ときちんと送り出してもらえた」という前向きなもの。清水は、今季から英語話者であるヤン・ヨンセン新監督が率いる。同じ攻撃的なポジションには、今季で4季目となるオージーのミッチェル・デュークもいる。若手が多いチームに海外での経験で得たものを伝えるような機会も出てくる。楠神にはピッチ内外でのそういった「コミュニケーション力」も期待されている。

「(ピッチ上での)当たりの部分や、英語環境で戦ったコミュニケーションなど、本当に日本では得られない経験ができました。Aリーグから戻って日本で活躍できれば、Aリーグが良いリーグだったということを証明できますし、それが自分の役割だと思っています。こっちで得た経験や学んだことを若い選手に伝えていくのもそうですが、プレーで見せていくことも大事です。(清水も)そういう部分を期待して呼んでくれたはず。Aリーグですごく良い経験ができたので、それが(Jリーグ復帰に)どう生きてくるのかは、自分でも本当に楽しみなんです」

本人も、この1年半でグレードアップした“NEW楠神順平”をJリーグの舞台でアピールしてみせる気は満々だ。「テセさん(FW鄭大世)とか(GK西部)洋平さんとか川崎で一緒だった選手もいますし、野洲高校(滋賀県)の後輩も何人かいるので新しいクラブにもすぐに慣れると思います。どの試合も頑張りますが、古巣のフロンターレ、セレッソ、サガン戦はやっぱり張り切っちゃうかもしれないですね(笑)」

日本人コミュニティーへの感謝

来豪直後に空港で。ここからシドニーでの充実の1年半が始まった(筆者撮影)
来豪直後に空港で。ここからシドニーでの充実の1年半が始まった(筆者撮影)
Aリーグで最も印象に残ったことに、意外にも昨季ファイナルでのブリスベン・ロア戦で自らのPK失敗による敗退のシーンを上げた
Aリーグで最も印象に残ったことに、意外にも昨季ファイナルでのブリスベン・ロア戦で自らのPK失敗による敗退のシーンを上げた

WSWのサポーターにきちんとあいさつができなかったことが、とても心残りだったということで、WSWサポーター、その中でも特に日本人サポーターに向けたメッセージを預かってきた。

「日本人選手として入団して、本当に歓迎してもらえて、試合中や試合後もすごくポジティブな言葉をずっと掛けてきてくれたにもかかわらず、急なことできちんとしたお別れができず本当に申し訳なく思っています。皆さんのお陰で1年半楽しくプレーできたので、本当に感謝しています」

そして、日本人コミュニティーへの感謝の言葉をこう続けた。

「シドニーの日系コミュニティーの人たちには生活全般のことなど、たくさん助けて頂き、支えてもらいました。それがなかったら本当に何もできなかったと思いますし、心から感謝しています。シドニーでのこの1年半は自分の中でとても大きな経験になったので、サッカーをするかしないかは分かりませんが、また必ずシドニーに戻ってきたいと思っています。本当にありがとうございました」

楠神のWSWの先輩にあたるクラブのレジェンド・小野伸二は、清水の地から豪州に渡った。楠神は、豪州に渡った後に清水の地でJリーグに復帰する。そんな大先輩との見えない縁を本人も感じつつ、ピッチ上での再会を楽しみにしている。

「面白いですよね、縁を感じます。シーズンが明けてピッチ上で会うのが楽しみです」

最後に、4年前の小野伸二のラスト・インタビューの最後の質問と同じ「オーストラリア、恋しくなりますか?」と問いかけてみた。「この気候や奇麗な街並みだったり、オージーたちの雰囲気とか絶対に懐かしく思うはずです。お世話になった日本人の方に支えられたからこそ、ここでのすばらしい生活をエンジョイできたので、本当に感謝しています」

最後の最後まで感謝の言葉が口を衝いて出るあたりにこの1年半の充実ぶりが感じられた。シドニーの日系コミュニティーは楠神順平を決して忘れず、これからの更なる挑戦を応援していくに違いない。
Thank you and good luck, Jumpei!! You will be missed.

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る