サッカーACL シドニーFC VS鹿島アントラーズ試合プレビュー特別対談

サッカー アジア・チャンピオンズ・リーグ

シドニーFC VS 鹿島アントラーズ
試合プレビュー特別対談

アジアにおけるサッカー・クラブ王者を決める大会「アジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)」。頂点を目指し各クラブによる熱戦が繰り広げられている同大会では、現在決勝トーナメントに向けた予選リーグが行われ、グループ・リーグH組の第3節(3月7日)では、昨シーズンのAリーグ王者シドニーFCが国内最多タイトル数を誇るJリーグ屈指の名門・鹿島アントラーズと対戦する。同試合の見どころや両チームの特徴などを、かつて鹿島アントラーズに在籍し現在NSW NPL1のウーロンゴン・ウルブスFCでプレーする田代有三選手とシドニーFCのアカデミーGKコーチ・伊藤瑞希氏による特別対談で伺った。(聞き手・構成=山内亮治)

両チームを物語るもの

――鹿島アントラーズ、シドニーFCそれぞれの特徴を簡単に話すとどのようなものになりますか。

田代有三選手(以下、田代):鹿島はとにかく「勝負強い」のひと言ですね。自分が在籍していた時もそうでしたが、負け試合の展開を勝ち試合に持っていける強さがあり、拮抗した展開でも最後に勝ち切るという試合運びができるチームです。そのため、決勝戦という大きな舞台で負けた記憶はほとんどありませんね。

 こうした勝負強さの秘訣は、普段のトレーニングに向かう姿勢からあり、大学生相手の練習試合などでも一切の手加減がなく負けた記憶がないですね。チーム内の紅白戦でも控え組みのモチベーションが高いので、公式戦と同じくらい激しい試合になります。この姿勢は今もチームに残っているでしょう。

今季から鹿島に復帰した内田篤人選手。チーム初のACL優勝を目指す(ⓒKASHIMA ANTLERS)
今季から鹿島に復帰した内田篤人選手。チーム初のACL優勝を目指す(ⓒKASHIMA ANTLERS)

伊藤瑞希氏(以下、伊藤):シドニーFCは2004年にクラブが設立され、Aリーグ開幕初年度の05/06シーズンからリーグに参入しました。Jリーグでもプレー経験があるピエール・リトバルスキー氏が監督になり、三浦知良選手やイングランドの名門、マンチェスター・ユナイテッドでもプレーしたドワイト・ヨーク選手が在籍し、初年度にチームは優勝しました。そこから5年に一度くらいの頻度で優勝を飾っています。

 常に優勝争いに絡むチームではないかもしれませんが、シドニーFCは「常に前進する」という意識を持っているクラブで、特に昨シーズンに関しては、その意識が大きな結果として表れました。リーグ戦では、Aリーグ史上初めてシーズンを通して一度も首位の座を明け渡すことなく優勝。シーズン歴代最高勝利数(20)、最高得失点数(+43)、勝ち点数リーグ歴代最高(66)、失点数は歴代最小(12)で無失点試合数が歴代最高(16)、「完全優勝」と言える結果でした。また、オペラ・ハウスがチーム・エンブレムに描かれていることや、市内中心部から近い場所に本拠地を構えることからシドニーのアイコン的存在としてあり続けているクラブでもあるかと思います。

――両チームの戦術的な特徴、決まったスタイルはありますか。

田代:戦術、スタイルの部分において鹿島の勝負強さの理由は、相手にボールを持たせる時は持たせる、保持する時は保持するといった、状況に合わせて戦い方を選手1人ひとりが判断し実行に移せるところにあります。試合状況に合わせて無理はせず、一方で隙を見逃してはいけない場面ではチーム全体で勝負を掛けるという意識が、ベテランの小笠原満男選手を中心に、チーム全員の中に染みこんでいます。

鹿島では「勝ちに徹する」メンタリティーがクラブ全体で受け継がれている

 私が在籍していた時は、中盤の守備的な位置にいる小笠原選手に加え、GKの曽ヶ端準選手が自分を含めた前線の選手に「ボールを奪いに行け」「無理にボールには行かず、他の選手が奪ったらディフェンス裏のスペースに走れ」と状況を見極めて指示を出してくれていました。後方の選手が全体を見ながら、戦い方を考えるということが試合中に行われていましたね。現在では、かつて鹿島のDFとして活躍していた大岩剛監督が現役時代に経験したことを選手目線に立ち戦術としてチームに落とし込んでいるので、ピッチ内での選手同士のコミュニケーションに加え、外からの指示もチームの強みとなっています。

 攻守の切り替えの速さといった武器もありますが、チームとして意思統一をし、勝負所を見極めてメリハリを付けて戦うということが鹿島はどの試合でもできているため、攻守両面で高いクオリティーが発揮されています。

伊藤:シドニーFCは戦術、スタイルの面で、現代サッカーのスタイルの変化による影響を受けている状況です。現在、Aリーグの多くのチームで、自分たちでボールを保持しゲームの主導権を握ろうとする傾向が顕著です。

 昨シーズンのシドニーFCの得点シーンとして多かったのは、相手のゴール近くでボールを奪い時間を掛けずにシュートまで持っていく「ショート・カウンター」というパターンでした。しかし、今シーズンはエイドリアン・ミエルゼヘフスキ選手が加入し、エース番号の10番を背負うミロス・ニンコビッチ選手と中盤のポジションでボールをキープし、試合の展開を変えられる選手が2人そろっているため試合内容が変わりました。昨シーズンよりも、圧倒的にボールを保持し試合を進める時間と回数が増え、「ポゼッション・スタイル」がより強く打ち出されるようになりました。

――結果を出し続ける両チームにおいて受け継がれている伝統、メンタリティーのようなものはありますか。

田代:選手1人ひとりに「鹿島のユニフォームを着て負けることは許されない」という強いプライドがあります。たとえ練習試合であっても、恥ずかしい結果は残せないという姿勢が入団と同時に植え付けられる感じですね。他のJリーグ・クラブでもプレーしましたが、練習試合などでこのメンタリティーを感じることがありました。他のクラブでは、大学生との練習試合で負けてしまうことが何度かあったのですが、その度に鹿島アントラーズというチームの偉大さを感じました。

 この「勝ちに徹する」というメンタリティーは、先輩からだけでなく、監督・コーチ、そしてスタッフ、クラブ全体から受け継がれるものなんです。

シドニーFCは「常に前進する」という意識の下、クラブの伝統を再構築している段階

伊藤:鹿島と比較すると、シドニーFCは現在、クラブの伝統を再構築している段階と言えるかもしれません。監督交代を機に、これまでクラブのサッカー・スタイルが何度も変化をしてきました。

 現在のグラハム・アーノルド監督の就任以降は、結果が伴ってきたこともあり、15/16シーズンにアカデミーが創設されるなどユースからトップ・チームまで一貫したビジョンを持ったチーム強化が行われています。そういう意味で、シドニーFCはチームのスタイルを再構築している状況です。具体的に言えば、攻撃ではGKやDFの後方からしっかりとゲームを組み立て、守備ではボールを失った後はできる限り早く奪い返し攻撃に転じるということになります。

「キー・プレーヤー」と「要注意人物」

――3月7日の試合で鍵を握る選手を挙げるとしたら誰になるでしょうか。

田代:やはり、ドイツからJリーグに復帰した内田篤人選手ですね。個人的にも仲が良く、鹿島復帰前も話をしました。本人は「キャリアの最後は鹿島で優勝したい」と言っていて、鹿島はACLの優勝経験がないので、そういう意味でもACLにかける思いは強いはずです。本人は日本代表への復帰とW杯出場を目指しているでしょうから、そういうことも含め注目しています。

伊藤:シドニーFCの注目選手には、多くの有名選手がいる中でも、個人的に注目している3人を挙げたいと思います。

 まず、Aリーグ・シーズン最多ゴールの記録を更新中のブラジル出身のボボ選手。彼は、足が特別に速いわけでも得点パターンが多彩なわけでもないですが、ペナルティー・エリア内での勝負強さ、決定力の高さが特徴です。次に、中盤のキー・プレイヤーの1人である、元ポーランド代表のエイドリアン選手。「ファンタジスタ」と呼ばれる創造性溢れるプレーが特徴でオーストラリアのサッカーでは珍しい存在です。ボールを持つと観ている側が意表を突かれる意外性のあるプレーをするので、試合中は彼にボールが渡ることを思わず期待してしまいます。最後は、CBのアレックス・ウィルキンソン選手。元豪州代表で30歳を超えベテランの域にいるので経験も豊富です。スピードの不足はあるかもしれませんが、的確なポジション取りで弱点をカバーします。クレバーさが強みの守備の要です。

――それぞれのチームに「要注意人物」を挙げるとしたら誰になりますか。

創造性溢れるプレーで攻撃のリズムを作り、中盤の鍵を握るエイドリアン選手(中央)(Photo: Jaime Castaneda)
創造性溢れるプレーで攻撃のリズムを作り、中盤の鍵を握るエイドリアン選手(中央)(Photo: Jaime Castaneda)

田代:ブラジル人FWのペドロ・ジュニオール選手ですね。ヴィッセル神戸在籍時に一緒にプレーしましたが、彼はとにかく足の速い選手です。ドリブルもスプリントも両方にスピードがあります。GKと1対1になる場面など、相手GKが届くと思うタイミングより先にボールに触り無人のゴールに流し込むといったシーンがよくあります。トラップが流れてボールが自分から離れても、彼が先にボールに触れるだけのスピードがあるのでボールを奪うことも簡単ではありません。スコアレスの拮抗した試合で途中出場するような展開になれば、シドニーFCにとっては要注意になるでしょう。

伊藤:やはり攻撃の選手で、FWのボボ選手を挙げたいところですが、彼にとってのパスの供給源となるエイドリアン選手こそ要注意と言えるかもしれません。彼のように前線にボールを運び、パスを供給する選手がいなければストライカーも実力を発揮できません。既に言った通り、エイドリアン選手は独特なサッカー・センスで意外性のあるプレーをします。味方のFWにはパスの受け甲斐がある頼もしい存在だと思いますが、鹿島にとってはトラブル・メーカーであって欲しいですね。

マッチ・プレビュー

――試合の展開はどう予想しますか。

田代:もし、シドニーFCがボールを回す自分たちのチーム・スタイルに固執するようであれば、鹿島が試合のペースを握るかもしれません。シドニーFCがボールを自分たちで保持しようとすれば、Aリーグでもなかなか経験のないような素早いプレッシングで対抗するはずです。そうした前線からの速いプレス、そして守から攻への切り替えのスピードは日本人選手の優れた部分なんです。そのような良さが出る場面が多くなるとシドニーFCの苦戦は必然的なものになります。

 一方で、シドニーFCの中盤のキー・プレーヤーにボールがうまく供給され、彼らが相手ゴールに向かってプレーできる場面が多くなるようであれば、鹿島にとっては危険な展開になるでしょう。また、1対1で選手同士がマッチ・アップする、フィジカルの強さが求められる局面が多くなるようであれば、そこはシドニーFCの方に分があるので鹿島は苦しくなります。鹿島はそうならないように、攻守両面でフィジカルの勝負に持ち込ませないような、組織としてのプレーを増やす工夫が求めれれるようになるでしょう。

伊藤:田代さんが指摘したように、どちらがボールを保持しようとするかで試合展開は大きく違ったものになりそうです。中盤の要であるニンコビッチ選手とエイドリアン選手にボールが渡る場面が多くなればシドニーFCにとって攻撃のリズムが生まれ試合のペースを握ることができると思います。どちらがボールを保持するにせよ、シドニーFCは攻撃面でこの両選手をいかにうまくプレーさせるかが1つのキー・ポイントですね。

 もう1つ、左サイドのDFのマイケル・ズッロ選手も試合展開を左右する1人になるかもしれません。同選手は、170cmと小柄ですがスピードに乗った攻撃参加が魅力のプレーヤーで、鹿島の右サイドに内田選手が出場するのであればマッチ・アップすることになり、攻撃に特徴のある2人のDFのサイド・ラインでの攻防も試合全体を通した時に大きなポイントになるかもしれませんね。

――注目の選手たちがどう活躍するか、そして両チームの持ち味が試合で実際にどう出るか非常に楽しみです。本日はありがとうございました。

(2月8日、シドニー・アリアンツ・スタジアムで)

AFCチャンピオンズ・リーグ 第3節:シドニーFC対鹿島アントラーズ
■開催日時:3月7日(水)7:30PMキック・オフ
■会場:シドニー・フットボール・スタジアム(Driver Ave., Moore Park, Sydney NSW)
■Web: premier.ticketek.com.au/shows/show.aspx?sh=SACL218
■備考:アウェー(鹿島)側チケット割引キャンペーンあり。詳細は5ページまで


田代有三(たしろゆうぞう)
プロフィル◎1982年生まれ、福岡県出身。福岡大学卒業後、2005年にJリーグ・鹿島アントラーズに加入。10年にモンテディオ山形に移籍しリーグ戦で10得点を挙げると、翌年に鹿島に復帰。その後、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪を経て、17年からNSW NPL1のウーロンゴン・ウルブスFCでプレー。日本代表では3試合に出場

伊藤瑞希(いとうみずき)
プロフィル◎1988年生まれ、埼玉県出身。日本大学卒業後、コーチングとスポーツ科学を深めるため筑波大学大学院に進学。在学中に2年間休学、アルビレックス新潟シンガポールでトップ・チームのコーチを務める。大学院修了後、2016年にワーキング・ホリデー制度を利用し渡豪、7カ月のインターンシップを経て現職に至る

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