Commonwealth Games 2018 スポーツ王国オーストラリアの底力

女子ウェイトリフティング58㎏で優勝が確定した時のティア=クレア・トゥーミィの感動的な瞬間(Photo by Moto)
女子ウェイトリフティング58㎏で優勝が確定した時のティア=クレア・トゥーミィの感動的な瞬間(Photo by Moto)

世界71の英連邦諸国・地域から精鋭アスリートが集い熱戦が繰り広げられた4年に一度のスポーツの祭典「コモンウェルス・ゲーム2018」が4月15日、幕を閉じた。12年ぶりに開催国となったオーストラリアは合計198個のメダルを獲得、同国が英連邦随一のスポーツ王国であることを大いに示す結果となった。そんな中、ホスト国以外にもパラ・スポーツを含めさまざまな国のアスリートたちが躍動。ミニ五輪とも呼べる同大会は2年後に東京オリンピック・パラリンピックを控える日本人に何を語るのか――。コモンウェルス・ゲーム2018を振り返る。(取材・文=Moto)

開催地が一体となり成し遂げた成功

終盤は巨大な白鯨と花火に魅せられた開会式(Photo by Jeffrey Lee / Unitedimages)
終盤は巨大な白鯨と花火に魅せられた開会式(Photo by Jeffrey Lee / Unitedimages)

ゴールドコーストで4月4日から15日まで開催された第21回コモンウェルス・ゲーム。同大会は、1932年に大英帝国競技連盟として発足、カナダのハミルトンで第1回目が開催され、その後は第2次世界大戦中だった1942年と戦後の46年を除き4年ごとに開催。「コモンウェルス(the Commonwealth)」とはイギリス連邦のことであり、大英帝国とその植民地であった独立国家からなる国家連合である。

現名誉総裁はエリザベス女王。4月4日、カラーラ・スタジアムでチャールズ皇太子の開会宣言でスタートした今大会にはイギリス、カナダを筆頭に大英帝国競技連盟の下部組織であるコモンウェルス諸国、その他の地域と71の国・地域が参加。2016年にモルディブは脱退表明をしたが、14年のコモンウェルス・ゲームに政治的理由で参加できなかったガンビアがうれしいことに今年は参加可能となった。オーストラリアでの開催は1938年シドニー、62年パース、82年ブリスベン、2006年メルボルンに続き最多の5回目。

開会式典にはチャールズ皇太子がカミラ夫人と共に出席、マルコム・ターンブル首相も肩を並べた。

またデルタ・グッドレムなどオーストラリアを代表するアーティストたちがパフォーマンスを繰り広げ、会場を一層興奮で沸かせた。個性的なデザインで施されたスタジアムの床面が光り輝き、ゴールドコーストの海と歴史をテーマにしたアート・ダンスや、盛大な花火が3万5,000人の参加者を瞬時に輝かせるなど、芸術的な開会式によってコモンウェルス・ゲーム2018は幕を開けた。

そもそもどのような種目が行われた大会なのか。

競技種目は、陸上、バドミントン、バスケットボール、ビーチ・バレーボール、ボクシング、サイクリング(マウンテン・バイク、路上、トラック)、体操、ホッケー、ローン・ボウルズ、ネットボール、ラグビー・セブンズ(7人制ラグビー)、射的、スカッシュ、水泳、卓球、トライアスロン、ウェイトリフティング、レスリング。以上18種類のスポーツ。

加えて、陸上、ローン・ボウルズ、パワーリフティング、ウェイトリフティング、サイクリング、卓球、トライアスロンの7種類のパラ・スポーツによって大会全体の競技種目が構成されている。

またゴールドコースト州政府は音楽、芸術のコラボや伝統文化を表現する「Festival 2018」を大会と同時期にビーチなどで催し、地元住民及び観光客が更に満足できるように全力を尽くした。サーファーズ・パラダイスのビーチ沿いに設置されたパフォーマンス用のステージには毎夜大勢の人びとで溢れ、さまざまなアート・イベントに心酔した。ブロードビーチで開かれた「MALLAKHAMBINDIA」はレスリング、体操、アクロバティック、ヨガをコラボさせ、木を使った独特のパフォーマンス。訪れた人びとの大歓声がビーチに響いた。

今回のコモンウェルス・ゲームの集客数は約150万人。大成功と言って良い数字だろう。ボランティアの数は1万5,000人。それぞれのスポーツ開催地で毎日朝から夜遅くまで汗を流すシニア世代のボランティアの姿からは選手同様、意気込みを感じられた。

今大会のオーストラリアの結果は合計198個のメダルを獲得。2位のカナダと62個という大きな差を開き堂々1位で幕を閉じた。うち金メダルは80個。2014年のスコットランド・グラスゴーで開かれた大会では惜しくもイギリスに次ぎ2位であったが、開催地ゴールドコーストでは経済的効果をも含め盛り上がりが頂点に達し閉会となった。

ここからは2020年東京オリンピック・パラリンピックを視野に入れ、将来有望な印象深い注目選手とオーストラリアのチームに焦点を当て紹介しよう。2年後には彼らの活躍をぜひ応援して欲しい。

2020東京の星たち

ウェイトリフティング

ティア=クレア・トゥーミィ(Tia-Clair Toomey)
出身:オーストラリア
結果:Woman’s 58kg(Total 201kg)・第1位(金メダル)
女子ウェイトリフティング58㎏で優勝が確定した時のティア=クレア・トゥーミィの感動的な瞬間(Photo by Moto)
女子ウェイトリフティング58㎏で優勝が確定した時のティア=クレア・トゥーミィの感動的な瞬間(Photo by Moto)

ティアが登場すると会場内に大歓声が響き渡った。彼女の持つパワーはその美貌と鍛え抜かれた体から一気に溢れ出てその場にいる人全てを感動させる。1秒たりとも揺るぎのない表情は応援者を安心させる材料でもある。着々と重さを上げていき進められる最終段階。ティアが114kgに挑戦。会場の興奮は止まらない。これをクリアすれば優勝。ティアにとっては、コモンウェルス・ゲームの1週間前に交通事故で他界した17歳の従兄弟ジェイド・ディクソンへの思いが、深い悲しみと共に勝利への強い意志に変化したとも言える。華麗なる成功の瞬間にどよめきと喜びの歓声が止まらなかった。

元々オーストラリアではクロスフィットの女王と言われているティア。2017年、クロスフィット・ゲームで優勝している彼女は自身でジムの運営もしている。クロスフィット・ゲームとは、2007年から毎年行われている世界最高の身体能力を競う大会である。さまざまな実用的な動作を速く、また高度な技術で行い、総合的な能力を競い合うものである。アメリカのカリフォルニアで発祥したクロスフィットには重量挙げ、腹筋、背筋、腕立て伏せ、懸垂、吊り輪など偏りのないバランスの良い筋肉を駆使できる強靭者が挑戦している。日本でおなじみの「SASUKE」の室内版と言うと分かりやすいかもしれない。

今後のクロスフィット・ゲームでの活躍も見逃せないが、東京五輪でのティアの凛とした華麗なリフティング・スタイルと結果を楽しみにしよう。

体操

マリオス・ジョルジオウ(Marios Georgiou)
出身:キプロス
結果:個人総合・第3位(銅メダル)
体操個人総合銅メダリスト、マリオス・ジョルジオウの華麗な鉄棒演技(Photo by Moto)
体操個人総合銅メダリスト、マリオス・ジョルジオウの華麗な鉄棒演技(Photo by Moto)

マリオスが会場に登場すると、途端に黄色い声援が聞こえてきた。女性ファンの多いマリオスとは一体、どのような選手なのか?

その一際目立つ髪型や容姿、自信と誇りを持った姿勢や1つひとつの行動はまるで芸能人を間近で見ているような錯覚を起こす。恐らく、それがカリスマ性というものであろう。

彼の母国キプロス共和国は地中海東部にあるキプロス島の南部を占めており、首都ニコシアの一部や、島の北部はトルコ領。ビーチが有名である。

そのような島国からマリオスが誕生。リオ大会が彼の五輪デビューだった。結果はメダル獲得には至らなかったものの、今回のコモンウェルス・ゲームでは個人総合で銅メダル。平行棒では1位を獲得した。

また、彼の持つ独特のファッション・センスや腕に刻まれた入れ墨は日本人にとっては体操選手のイメージを一新させるものではあるが、一見するとなぜか遠くないものを感じるのは彼の母親がフィリピン人であることも一因かもしれない。地元メディアでも注目度の高いスポーツ選手なので、彼の一喜一憂する姿がニュースをにぎわせることもあるとのこと。気性が激しいのが欠点だとも言われているが、マリオスの技は群を抜いて魅力的で、観ている人の心を動かす。その失敗さえなければ、そのけがさえなければ、と観客を冷や冷やさせる目の離せない選手であることは間違いない。

キプロス全国民に期待されているマリオスの才能は東京五輪でも更に大きく開花するのではないだろうか。少し年齢を重ねて程よく落ち着いた風格のある選手になっていることが想像できる。

オーストラリアのチーム結束力

水泳

4×100m自由形リレーで3分30秒05と世界記録を更新したオーストラリアの女子チーム。左からブロンテ・キャンベル、ケイト・キャンベル、シェイナ・ジャック、エマ・マッキーオン(Photo by Moto)
4×100m自由形リレーで3分30秒05と世界記録を更新したオーストラリアの女子チーム。左からブロンテ・キャンベル、ケイト・キャンベル、シェイナ・ジャック、エマ・マッキーオン(Photo by Moto)

やはり「水泳大国オーストラリア」と納得させられる結果に終わった今大会。男子、女子共々、個人とリレーで合計73個のメダルを獲得。チームワークだけの勝利ではなく、それぞれの選手の才能、個性も輝いている。

NSW州ウーロンゴン出身の女子、エマ・マッキーオンはオーストラリアの新聞ではおなじみの水泳選手。父と兄弟も水泳選手である。2016年リオ五輪では4個のメダルを獲得。今大会でも個人種目・リレーの両方で金メダリストとして母国のメダル獲得に貢献している。

また「美人スイマー」とインターネットで検索すると登場するマデリン・グローヴスは、100mバタフライで銀メダリストとなった。プール以外で見せる彼女の姿は、競技中の力強さからは想像できないものがある。そこが人気の理由かもしれない。

トライアスロン

金メダル獲得に貢献したトライアスロン男女混合リレー・チームの1人、ジリアン・バックホウス(Photo by Moto)
金メダル獲得に貢献したトライアスロン男女混合リレー・チームの1人、ジリアン・バックホウス(Photo by Moto)
カナダに惜しくも2-0で敗れたものの銀メダルを獲得したタリク・クランシー(左)とマリア・アルタチョ・デル・ソラール(右)(Photo by Moto)
カナダに惜しくも2-0で敗れたものの銀メダルを獲得したタリク・クランシー(左)とマリア・アルタチョ・デル・ソラール(右)(Photo by Moto)
ラグビー・セブンズのスター、フィジー生まれのエリア・グリーンがトライするとサポーターは大歓喜(Photo by Jeffrey Lee / Unitedimages)
ラグビー・セブンズのスター、フィジー生まれのエリア・グリーンがトライするとサポーターは大歓喜(Photo by Jeffrey Lee / Unitedimages)

男女混合リレーではイギリスと52秒の差で優勝。バトンタッチに迫力があり、特にサイクリングでは全選手が猛烈なスピードで走る姿が際立っていた。特に女子選手のジリアン・バックホウスは178㎝という高身長からかダイナミックであり、また俊敏でもある。

日本のトライアスロン選手がオーストラリアでの試合や練習に頻繁に参加する理由の1つには、気候や環境が年間を通して選手に最適であることが挙げられる。その点からも、オーストラリアのトライアスロン選手達はますます実力を上げていくであろうと予想される。

ビーチ・バレーボール

クリス・マクヒューとダミエン・シューマンの男子ペアは金メダル。特に期待されていた女子チームのタリク・クランシーとマリアフェ・アルタチョ・デル・ソラールのペアはカナダに敗れ惜しくも銀メダルとなった。オーストラリア・オリンピック委員会がこの2人をペアにしたのは2017年。トライアルで日本にも遠征試合を果たしている。このペアリングは20年東京五輪に向けての作戦、また勝利への準備だと推測される。

ラグビー・セブンズ

2016年リオ五輪から正式種目に追加された7人制ラグビー。この大会で、女子ではオーストラリアが金メダルを獲得し、初代女王の座に輝いた。オーストラリアではそもそもラグビー・リーグやラグビー・ユニオンが人気のスポーツではあるが、パワー全開でスピードと活気溢れる女子選手たちが五輪の舞台で優勝を飾った直後は、国内メディアの興奮がしばらくは収まらなかった。

しかし、今大会ではライバル国ニュージーランドに悔しくも敗れ銀メダル。20年東京五輪に向けて相当巧みな戦略を企てるであろうラグビー・セブンズ委員会。このチームの今後にも目が離せない。

パラ・アスリートの輝き

パラ水泳

エレノア・ロビンソン(Eleanor Robinson)
出身:イングランド
結果:S7・50mバタフライ・第1位(金メダル)
金メダルと大会マスコットのボロビを両手に明るい笑顔をプレゼントしてくれたパラ水泳のエレノア・ロビンソン(Photo byMoto)
金メダルと大会マスコットのボロビを両手に明るい笑顔をプレゼントしてくれたパラ水泳のエレノア・ロビンソン(Photo byMoto)
ゴール直後、エレノア・ロビンソンは電子掲示板を見つめながら感動の涙を流した(Photo by Moto)
ゴール直後、エレノア・ロビンソンは電子掲示板を見つめながら感動の涙を流した(Photo by Moto)

13歳の時にS6・100mバタフライで世界新記録を更新したエレノア。2016年世界水泳ヨーロッパ大会で4個のメダル、16年リオ・パラリンピックではS6・50mバタフライで金メダル、100mフリー・スタイルで銅メダルを獲得した。

まだあどけなさが残る美少女、16歳のエレノア。1位でタッチした直後、結果を電子掲示板で確かめながらしばらく目を潤ませ、手で顔を押さえながら涙と震えを抑えているかのように見えた。体の芯から込み上げてくるような深い喜びが彼女のその表情から観戦者にも伝わっていたはずである。

01年、イギリスのノーサンプトンで生まれたたエレノアは12年にペルテス病(PerthesHip disease)と診断された。4歳で水泳を始めた彼女にとって、それは衝撃的な結果であり喪失感が水泳に対する意欲さえも奪ってしまった。結果、半年間は水泳を完全休止していた。13年にトレーニングを復帰した彼女を待っていたのは次々とメダルを獲得できる才能とチャンス。その恵まれたキャリアにもかかわらず、彼女は謙虚でもあり真摯に競技に向き合っている。そのことは1位と分かった直後の体を震わせながら感涙する姿が物語っている。その一方、メダル・セレモニーで見せた屈託のない明るい笑顔は印象的であり、16年にイギリスの好感度の高いスポーツ選手に与えられる「BBC Young Sports Personality of the year」を受賞するなど、イギリスでは非常に人気のあるパラ水泳選手だというのが納得できた。

今はまだ幼さが残っている可愛らしい表情だが、2年後の東京パラリンピックでは更に実力のある選手になっているであろう。それと同時に大人の顔に成長しているのではないだろうかとも期待できる。

車いすトライアスロン

ジョゼフ・タウンセンド(Joseph Townsend)
出身:イングランド
結果:Men’s PTWC Final第1位(金メダル)
男子車いすトライアスロンで見事な優勝を飾ったジョゼフ・タウンゼントのゴール・シーン(Photo by Moto)
男子車いすトライアスロンで見事な優勝を飾ったジョゼフ・タウンゼントのゴール・シーン(Photo by Moto)
ジョゼフ・タウンゼントの力強いサイクリング姿(Photo by Moto)
ジョゼフ・タウンゼントの力強いサイクリング姿(Photo by Moto)

通称「ジョー」がスタート地点に現れる時、その肉体の美しさに誰もが魅了される。筋肉のバランスが完璧である上半身と堂々とした振る舞い。右腕には幾何学模様の入れ墨。まさか両脚がないとは、最初は気が付かない程、車いすを動かすのも速い。2008年、海軍隊の一員として参加していた戦場アフガニスタンでの爆発で両脚を失ったジョー。その悲しみは本人でないと計り知れないであろう。しかし、その逆境にも負けず、今こうして金メダルを獲得できるパラ・トライアスロンの選手として多くの人びとに感動と勇気を与えている。

彼は両脚を失っても決して諦めることはなかった。50回以上にも及ぶ手術の末、リハビリに懸命に励み、たった7カ月足らずでトライアスロン・デビューを飾る。また12年ロンドンで開催されたパラリンピックでは開会式での聖火リレー・ランナーの1人として空からワイヤーで舞い降りてくるというパフォーマンスで会場を盛り上げた。そして彼はこう語る。

「私は今、国のためにスポーツ場で戦っている。戦場ではなくて」

その愛国精神こそが彼を不死身のトライアスロン選手に駆り立てているのであろう。

17年5月に横浜で行われた世界トライアスロン大会では4位であったものの、同年エドモントンで開かれた世界大会では2位の成績を残している。そしてコモンウェルス・ゲーム2018では見事、金メダルを獲得した。東京パラリンピックでは彼の勇姿をぜひ見届けて欲しい。

コモンウェルスゲームを終えて

それぞれの参加国、また各々の種目に歴史や選手たちのストーリーが交錯するミニ五輪とも言えるコモンウェルス・ゲームでは、選手、観戦者、メディア関係者、ボランティア・スタッフ、委員会、協力政府関係者、関わる全ての人たちが作り上げる1つの映画のような一体感を感じられた。焦点の当て方をほんの少し変えるだけで2020年の東京オリンピック・パラリンピックへの関心も変化するのではないだろか。夢を諦めるな、前へ進め、ゴールに向かえと、そこに言葉がなくても伝わってくるアスリートからのメッセージを我々1人ひとりが感動と共にしっかり受け止め次へと進められること、それが4年ごとに開催されるこの大会の真髄なのかと初めて参加してみて確信できた。

20年の夏は、コモンウェルス・ゲームのお陰でスポーツ大会への認識と見方が変わり、今までとは違う角度からオリンピック・パラリンピックを楽しめるであろうことを期待して。

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