13年目のサッカー・Aリーグ総括 ファイナルが見せた「明」と「暗」

13年目のサッカー・Aリーグ総括 ファイナルが見せた「明」と「暗」 ⓒUnitedimages
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2017/18シーズンのサッカー・Aリーグの全日程が終了した。13年目となる今季は、ひと言で言うならば「シドニーFCの強さが際立った1年」だったが、それ以外にも「ビデオ・アシスタンス・レフェリー(VAR)」の導入、若手有望株の台頭、そして、Aリーグのエクスパンション(拡張)関連など、話題豊富な年でもあった。そんな13年目のAリーグを本紙連載「日豪サッカー新時代」でおなじみの植松久隆が振り返る(本文中敬称略)。(文=植松久隆/本紙特約記者)

進撃のシドニーFC

今季もやっぱりシドニーFCだった。昨季、圧倒的な強さで2冠に輝き、さまざまな記録を塗り替えたチームの下馬評は、当然、高い。開幕前から、誰もがシドニーFC中心で動くシーズンを予想していた。実際、新シーズンに臨んだシドニーFCは変わらず穴がないどころか、新加入の元ポーランド代表MFエイドリアン・ミエジェウブスキーの加入などで、更にパワー・アップ。攻守にまったく付け入る隙のない、非常に完成されたチームとなっていた。

そんなシドニーFCは、自分たちのペースで試合を作りながら、着実に勝利を積み重ねた。終わってみれば、下馬評通りの危なげない横綱相撲で、2年連続のプレミアシップ制覇。リーグ戦27試合20勝4分3敗で勝ち点64、勝率は74パーセント。2位のニューキャッスル・ジェッツには14、3位のメルボルン・シティーとは実に21も勝ち点差を付けての圧勝だった。それでも、27戦で負けは1試合のみ、勝ち点66を積み上げた昨季には及ばないと厳しい声もあるが、それは酷というものだ。チームの総得点数64はリーグ新記録、過去最高となる27得点をたたき出し得点王に輝いたボボの活躍などを挙げるまでもなく、今季のシドニーFCは、かつてファイナル・シリーズ(以下、ファイナル)連覇(2011年、12年)を果たしたブリスベン・ロアのチームと比較して、「どちらが、Aリーグ最高のチームか」という議論が起こるくらい完成度の高いチームであることは間違いない。

ファイナルでのドラマ

メルボルンC戦のスーパー・ゴールでその名を世界に知らしめたライリー・マクギー(ⓒUnitedimages)
メルボルンC戦のスーパー・ゴールでその名を世界に知らしめたライリー・マクギー(ⓒUnitedimages)

そんなシドニーFCを率いたのは、ロシアW杯後にサッカルーズを率いることが既に決まっている国内随一の名将グラアム・アーノルド(54)。アーノルドは、昨季からの2季で実にレギュラー・シーズン計54試合40勝10分4敗という輝かしい成績を残した。そして、自身のシドニーFC監督としての花道を前述のブリスベン以来となるファイナル連覇の“完全優勝”で飾ろうとしたが、アーノルドの願いは叶わなかった。

レギュラー・シーズンで絶対的な強さを見せたシドニーFCは、ファイナルの魔物の前で涙を飲んだ。プレミア王者(レギュラー・シーズン優勝で与えられるタイトル)の特権として、ホーム開催のセミ・ファイナルから参戦したシドニーFCは、国内有数のビッグ・クラブ同士で「ナショナル・ダービー」の覇権を争う不倶戴天(ふぐたいてん)の敵メルボルン・ビクトリーを迎え撃った。そのセミ・ファイナルで、シドニーFCはレギュラー・シーズンでは実に23も勝ち点差を付けたメルボルンVに、まさかの苦杯を舐めたのだ。

延長120分を戦い、3-2という試合の決勝点を叩き込んだのは、皮肉にも元シドニーFCでアーノルドに見い出されたテリー・アントニウス。ちなみにこの試合の5得点は、全てメルボルンVの選手によるもので、シドニーの2点も、いずれもオウン・ゴール。しかも、その1点が試合終了直前ロス・タイムでの前述のアントニウスによる古巣への絶妙な“アシスト”というおまけ付き。土壇場で同点となった試合の決着をもたらす値千金の決勝点もまたアントニウスと、ドラマチックな試合になった。

試合展開はともかく、この試合でのシドニーの敗戦には「ファイナル」という独特のカルチャーについて考えさせられた。確かに競合する他の球技など、ここオーストラリアではプロ・スポーツの「ファイナル」は根付いている。しかし、10チームしかないAリーグでは実に6チームがファイナルに進む。当然、ファイナルでは一定のアドバンテージが上位チームに与えられるが、そこは一発勝負。これまでも幾つもの波乱が起きてきた。それが「醍醐味」だと言ってしまえば、そうなのだが、システム上、シーズン6位、今季なら勝ち点29も離されたブリスベン・ロアにも、勢い次第ではファイナル制覇での下剋上が可能なシステムだ。今季のシド二ーFCほどの完成度の高いチームが、それにふさわしい栄誉を受けられない現行のシステム、個人的には再考の時期に来ていると思うのだが……。

若手の台頭、VAR問題

今季の掉尾(ちょうび)を飾ったグランド・ファイナル。シーズンを通して非常に魅力的な攻撃サッカーを繰り広げたニューキャッスル・ジェッツが、ホームの満員の観衆の前で10年ぶり2回目のチャンピオンになれるかという大事な試合を戦った。

しかし、そんな大事な試合で世紀の「大誤審」が起きてしまった。事の経緯は、拙稿「日豪サッカー新時代・第94回(QLD版)」に詳しいが、今季から世界に先駆け導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が大一番で機能せず、当然、レビューされるべきであったオフ・サイドでの得点が決勝点となった。それ以外にも、さまざまな物議を醸したVAR。その是非はともかくとして、よりスムーズな運用は必須なだけに、来季以降の改善を願いたい。

シーズン最優秀若手選手賞を受賞したダニエル・アルザーニ(Photo: Moto)
シーズン最優秀若手選手賞を受賞したダニエル・アルザーニ(Photo: Moto)

今季のAリーグは、若手の選手の台頭が多く見られたまれに見る「豊作」のシーズンとなった。その中でも、特筆すべきはシーズン最優秀若手選手に選ばれた弱冠19歳の創造性溢れるMFダニエル・アルザーニ(メルボルンC)だ。アルザーニは、今季、メルボルンCで出番を得てブレイクするや、15日に発表されたオーストラリア代表のW杯登録最終候補の26人にも選出されるなど、一気に出世の階段を駆け上がった。その類稀なる才能に「世界」を経験させようとするのは、98年のフランスW杯の日本代表での小野伸二の抜擢と重なるものがある。アルザーニも、ここから世界に羽ばたいてもらいたいものだ。

もう1人は、ニューキャッスルのMFライリー・マクギー。その才能もさることながら、今季は4月27日のメルボルンC戦での驚くべき「スコーピオン・ゴール」が一気に世界中に拡散。そのゴールと名前が一気に知れ渡り、「今年のFIFAプスカシュ賞は決まり!」などと激賞されている。こちらのマクギーも19歳ながら、昨年はフル代表に招集された逸材。他にも、21歳天才MFダニエル・ダシルバ(セントラルコースト)、21歳の快速ウィングFWジョー・チャンプネス(ニューキャッスル)など多くの若い才能が躍動した。

日本人選手不在も、州リーグでは大活躍

ウーロンゴン・ウルブズでプレーする野沢拓也(左)と田代有三(右)(筆者撮影)
ウーロンゴン・ウルブズでプレーする野沢拓也(左)と田代有三(右)(筆者撮影)

楠神順平のWSW(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ)退団後、残念ながらAリーグで日本人選手を見る機会はなかった。来季に向けて、FFA(オーストラリア・サッカー連盟)主導のマーキー(サラリー・キャップ枠外で獲得できる高額スター選手)獲得の動きの中で、あの本田圭佑の名前も“新聞人事”で挙がっているようだ。メルボルンのローカル・クラブと彼自身のスクールとが業務提携をした動きがあるだけに、全く可能性のない話ではないのかもしれないが、シーズンが終わったばかりのオーストラリアにこのタイミングでの移籍は考えにくい。W杯ブレイク明けにどんな動きがあるか、注目はしておきたい。本田の来豪の可能性はともかくとして、何とか来季のAリーグで日本人選手の活躍を見たい。

Aリーグ総括というところからは、少し離れるが、今がリーグ真っ盛りの州リーグでは、NSW州、QLD州、VIC州など各地で日本人選手が活躍している。気になるNSWNPL1のウーロンゴン・ウルブズに所属する元Jリーガーの大物、田代有三、野沢拓也の動向は、今月の拙稿「日豪サッカー新時代」(66ページ)でも取り上げた。ぜひ、チェックして頂きたい。

さて、今月は4年に1度のW杯が開催される。幸い、今回も日豪両国のそろい踏みが見られる大会なので、まずは、両国の頑張りを応援することにフォーカスしよう。その後、刻一刻、話が動いているAリーグ拡張の話題など、オーストラリアのフットボール・シーンを折に触れてフィーチャーしていくので、ご期待願いたい。

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