2018ロシアW杯レビュー 4年に1度のフットボールの祭典を終えて

2018 W杯ロシア大会レビュー

4年に一度のフットボールの祭典を終えて

Photo: AFP

2018ロシアW杯レビュー 4年に1度のフットボールの祭典を終えて

フランスが20年ぶり2回目の優勝を果たしたW杯ロシア大会が、7月15日に幕を閉じた。さまざまな興奮と感動を生んだ1カ月に及ぶ世界のフットボールの祭典を、本紙連載「日豪サッカー新時代」でおなじみの植松久隆が、日豪両国の代表の戦いぶりなどを交え振り返る(選手の年齢・所属先は大会当時、本文中敬称略)。(文=植松久隆/本紙特約記者)

強豪国苦戦で波乱、クロアチアの躍進

1カ月もの長きにわたって世界を興奮に包んだW杯ロシア大会が終わった。見応えのあるエキサイティングな試合が続いた今大会は、フットボール(サッカー)という競技が大きな進化を見せた大会としても記憶されることになるだろう。ゲームの在り様を大きく変えたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入、延長での4人目の交代枠など大きな改革も行われた。

同大会を制したのは、開幕前から優勝候補に挙げられることが多かったフランス。下馬評通りの強さで、自国開催の1998年以来となる20年ぶり2回目の優勝を成し遂げた。フランスの底力が最後は勝ったが、全般的に波乱に満ちた今大会を最も象徴的に表したのが、ベスト8に残った顔触れではないだろうか。

イタリアやオランダなど、伝統的な強豪国の幾つかを欠く状態で始まった本大会ではあったが、グループ・ステージの終了時点で、前回優勝国ドイツがまさかの最下位での敗退。これには世界が大いに驚いた。更に、決勝トーナメント初戦で、アルゼンチン、ポルトガル、コロンビア、前々回優勝のスペインと強豪国が次々と散っていった。

出そろったベスト8の顔触れには、誰もが「いつもと違う」と感じる新鮮な印象を受けたに違いない。サッカー王国のブラジルを筆頭に、ウルグアイ、フランス、イングランドのそれぞれが優勝経験国。対して、クロアチア、ベルギー、スウェーデン、ロシアの4チームには優勝経験がない。この顔触れには、近年のサッカーの普遍的なレベル・アップの下、特に欧州で全体的なレベル向上と競争が激化している現状が大きく映し出されている。そこから、4強に勝ち上がったのは、フランス、ベルギー、クロアチア、イングランド。ご存知のように決勝はフランス対クロアチアの対戦となったが、クロアチアの決勝進出を開幕前にどれだけの人が予想しただろうか。今大会のクロアチアは、建国直後の98年フランス大会で3位に入った伝説的なチームに伍する好チームで、そつのない戦いぶりで決勝進出の快挙を達成した。決勝では2-4と初優勝は逃したが、大会MVPに輝いたキャプテンのMFルカ・モドリッチ(レアル・マドリード/32)を中心に、今大会でも特筆すべきクオリティーを見せた。

多くの若き才能が躍動、4年後は……

フランスは、ベルギーとの「事実上の決勝戦」を勝ち抜き、決勝へと駒を進めた。若い卓越した才能が多く集まり、いずれも優勝候補の一角として前評判が高かった両国の対戦だけに、準決勝での顔合わせには多くの注目が集まった。ベルギーは準々決勝でサッカー王国・ブラジルを破りフランスとの対戦に臨んだが、守備的に戦うフランスのゴールを最後まで割れずに無念の敗退。3位決定戦ではイングランドに完勝で3位を確保するも、ゴールデン・エージの円熟期で迎えた今大会の大目標であったW杯制覇は果たせず、悲願の達成は次回以降に持ち越された。

フットボールの母国イングランドにも触れておきたい。若いチームで、準決勝まで勝ち上がり「いよいよ、52年ぶりに母国にW杯が帰ってくる!」と気の早いファンは騒いだが、準決勝でクロアチアに及ばず終戦。母国の悲願達成は、その若いチームが4年の熟成期間を経てから臨む次回カタール大会こそ、より好機となるはずだ。

優勝したフランスについて少し詳しく書く。98年大会を制したチームも各ポジションに高いレベルの顔をそろえた全く隙のないチームだったが、今回もそれに勝るとも劣らないすばらしいチームだった。多様なルーツを持つ選手たちにより構成されたチームは、まさに移民大国フランスの面目躍如。中でも大会を通じて大いに世界にその存在をアピールした2人の選手について触れる。

誰の目にも明らかな異次元のスピードで世界の度肝を抜き、次代のスーパー・スター筆頭として一躍スターダムを駆け上がった“神童”キリアン・エムバぺ(モナコ/19)。そして、その無尽蔵のスタミナで、90分惜しまずに走り続け、ピッチの至る所に顔を出し汗をかき続けるMFヌゴロ・カンテ(チェルシー/27)。この2人を含むタレント軍団でも、それをうまく御する監督がいなければ、W杯優勝という最大の成果にはつながらなかったろう。幸運にも、フランスにはディディエ・デシャン監督がいた。今回の快挙によって、デシャンは、ブラジルのマリオ・ザガロ、ドイツ(当時西ドイツ)のフランツ・ベッケンバウアーに続く3人目となる選手・監督でのW杯優勝という栄誉を得ることになった。

西野監督の胆力が導いた16強

ここからは、日豪両国のW杯を振り返る。まずは、日本。大会前の期待値から言えば、間違いなく過去最低と言える状況で迎えた本大会だったが、西野朗監督に代わってコミュニケーション面が一気に改善に向かったことで、結果的にベスト16進出という期待以上の成果を得ることに成功した。

グループ・リーグ初戦のコロンビア戦は、試合開始直後の相手のペナルティー・エリア内でのハンドの反則によりPKと数的優位を得て、大きなアドバンテージを持って試合を進めることができたことで、2-1と難敵を撃破。続くセネガル戦も初戦でポーランドを破って勢いに乗るセネガル相手に2-2のドローと踏ん張った。

乾貴士(中央)らの活躍で一時は2点をリードするも、後半終了間際のカウンターに沈みベスト8進出は果たせなかった(Photo: AFP)
乾貴士(中央)らの活躍で一時は2点をリードするも、後半終了間際のカウンターに沈みベスト8進出は果たせなかった(Photo: AFP)

決勝トーナメント進出の可否は、全て最終戦のポーランド戦の結果に掛かっていたが、その試合、しかも試合終了まで残り10分というところで“事件”は起きた。他会場の進行状況を踏まえて、西野監督は日本のW杯史上では例を見ない大きな決断を下す。他会場の結果に全てを委ね、負けている状況にもかかわらずボール回しを続け、自ら「負ける」ことを選択。この戦いぶりは、国内外で賛否両論を巻き起こしたが、その決断の結果、他力本願ながらも、辛うじて「フェア・プレー・ポイント」の差でセネガルを上回り、グループ2位通過でベスト16進出を決めた。

あの場で冷静に決断し敢然と実行して、願う結果を引き寄せてみせた西野監督の胆力には驚かされた。ベスト16では、優勝候補の一角ベルギーに堂々と挑み、終了間近の鮮やかなカウンターに「10㎝の差」で及ばず、逆転負けを喫した日本。ポーランド戦のブーイングから一転、世界を唸らせる戦いぶりで散るも、アジア勢で唯一の16強入りを果たし、その存在感を世界に十分にアピールすることができた。

失望のサッカルーズ、無残な敗退

豪州の今大会は、ひと言で言えば“失望”。フランス、ペルー、デンマークという強豪国の中に入り苦戦は予想されていたが、初戦のフランス戦ではそれなりの善戦を見せるも、3試合を通じて特に見せ場らしい見せ場もないままに敗退。選手もそれを見守るファンも、失望の色は隠せなかった。あるメディアからの「大会を通じての豪州のMVPは」との問いに、冗談半分で「VAR」と答えるファンがいたが、笑うに笑えない。実際、3試合で0勝1分2敗で終わった大会で豪州が決めたゴールは2つで、そのいずれもキャプテンのミレ・イェデイナクがPKで決めたものだった。2戦目のデンマーク戦でVARによって与えられたPKで同点に追い付いたことで、何とか唯一の勝ち点を得たという事実が「MVPはVAR」とする主張の拠り所なのだが、それではあまりに寂しい。

失望の結果に終わったロシア大会でのオーストラリア代表。ただ、4年後へ未来を担う新戦力も出現した(Photo: AFP)
失望の結果に終わったロシア大会でのオーストラリア代表。ただ、4年後へ未来を担う新戦力も出現した(Photo: AFP)

しかし、ネガティブなものばかりではない。この大会は、豪州にとって、新時代の幕開け、新世代への継承という象徴的な意味を持つ大会ともなった。長らく、代表のカリスマとして君臨してきたティム・ケーヒル(無所属/38)はメンバー入りも、最終戦の途中出場のみでW杯の舞台を去り、大会後に代表引退を発表した。逆に、この大会にベルト・ファンワルマイク監督に抜擢されたのが、大会を通じての最年少選手のMFダニエル・アルザーニ(メルボルン・シティー/19)。アルザーニは、初出場の大会でも出場機会を得るなど、今後の輝かしいキャリアの大きな1歩を世界の舞台に刻んだ。ケーヒルの退出とアルザーニの出現、これらに象徴されるサッカルーズの世代交代の中で、新しい選手がどんどん既存の選手を突き上げることが、代表のレベルを底上げしていく。サッカルーズが、世界の舞台で再び存在感をアピールするまで、あと4年。グラアム・アーノルド新監督の下で長期的なビジョンに立った強化が進められるのを願って止まない。

1カ月の間、世界を熱狂の渦に巻き込んだW杯という名の“祭典”。世界中をこれだけ虜にするのは、W杯だけが持ち得る魔力だと思う。4年後に、冬期開催にずらしても灼熱のカタール大会には、また日豪両国の代表がそろって見られるように願いたい。それまでの間、それぞれの新監督の下で新たなチーム作りが行われ、来年のアジア杯、2020年の東京五輪、やがて始まるW杯予選と日豪両国のフットボールでの交流とライバリーは継続して育っていく。フットボールが続く限り、熱狂も続く。そんな数々のドラマを、本紙連載コラムと併せて、今後も可能な限りお届けしていきたい。

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