錦織圭、4強逃すも実感した王者への道

最後まで闘志を見せた錦織圭

4強逃すも実感した王者への道

連日熱戦が繰り広げられるテニス・全豪オープンは1月28日、男子シングルス準々決勝で錦織圭が昨年覇者のスタン・ワウリンカに完敗。悲願の4 大大会初制覇はならなかった。錦織の試合経過とともに前半戦を振り返った。

例年、炎天下の下、40度近い高温と熱気が特徴の全豪オープンであるが、今年は20度ほどの肌寒い気候の中でスタートした。日本からは錦織圭、添田豪、伊藤竜馬、守屋宏紀の男子4人、伊達公子、奈良くるみの女子2人の6選手が出場した。

昨年の全豪では、錦織は世界ランク17位とホープの1人とはいえ、優勝候補ではなかった。しかし今年は全く違う全豪が錦織を待っていた。この10年間を制してきたフェデラー、ジョコビッチ、ナダル、マレーの4強に陰りが見え、昨年は全豪でワウリンカが優勝、全米では錦織を決勝で退けて優勝したチリッチなどの新興勢力が台頭してきた。世界ランク5位は当然のことだが立派な優勝候補の1人である。今年の全豪では男女各128人の選手が頂点を目指して戦っている。

錦織、GS初制覇に期待がかかる

全豪第5シードの錦織にとっては第3戦まではノー・シードか低い順位の選手と戦う。試合前の錦織の練習を見てみると体調も良く、12月に十分に休みを取っていたことが分かる。全豪前の1月にはブリスベン国際や全豪前の非公式戦、クーヨン・クラシックを練習試合と位置づけて試合勘を取り戻し、活力全開でメルボルンへ乗り込んできた。

錦織の初戦は大会2日目。相手はスペインのニコラス・アルマグロ。世界ランクは69位だが元トップ10と実績があり経験も豊富で決してあなどれる相手ではない。立ち上がりにさっそくブレークを許し、第2ゲームもキープされ、いきなりピンチとなるが徐々に持ち直し、第10ゲームでブレークして第1セットを奪う。第2セットは激しい展開となりお互いにブレークを繰り返す激戦となった。タイ・ブレークとなったが、落ち着いたプレーで7本を取って2セット連取。第3セットは気落ちした相手からブレークを2度奪い簡単に取って、ゲーム・セット。

錦織は、「4大会の優勝」を2015年の目標としているが、同時に「世界ランク5位の順位を守る」ことも公言している。順位を守ることは下位の選手に取りこぼさないことを意味する。ノー・シードといっても実力はそれほど変わらないし、高い賞金とランク・ポイントを目指して、必死で戦ってくるので慎重に戦うことが必要となる。錦織は下位の選手との戦い方が上手い。


優勝候補筆頭のジョコビッチ

1セット目は相手の実力やその日の調子を見ながら慎重に対応して、決して無理な攻撃はしない。従って競り負けることも出てくる。コーナーを丁寧に突いて、できるだけ相手を走らせて消耗させるのも錦織の常とう手段である。2セット目になると疲れが出てきた相手から巧みにミスを誘い出す。最後のセットになると強打で相手を叩いて、根負けした相手に諦めさせて、とどめを刺す。つまり自分はできるだけ消耗を避け、相手の動揺に乗じて勝ちを取るのが錦織流だ。

準決勝以上で順位が上の強敵とフル・セットを戦うのは仕方がないにせよ、第4戦まではできる限り早い段階で勝負を決定して体力を温存するのは優勝を目指すための必要条件である。酷暑のメルボルンでかつて何度も痛い目に遭ってきたことを錦織はしっかりと覚えている。

不得意なサーブを見事克服した錦織

20日はサッカーAFCアジア・カップの日本対ヨルダン戦が全豪会場に隣接したメルボルン・サッカー競技場で行われたため、日本人の応援が特に多い日であった。試合後のインタビューで錦織は、「日本人の声援が多い全豪をグランド・スラムの中で1番好きだ」と語った。ファンの声援を味方につけるのはどの選手も同じだが、声援に惑わされることなく冷静に戦うのも錦織流である。

第2戦はクロアチアのイワン・ドディグ。ベテランだが強打が持ち味。この試合も第1セットは慎重に攻め、相手にブレークを2度も許し、そのまま第1セットを取られる嫌な流れになった。しかし錦織はまったく動ずることなく、第2セットも第5ゲームまでは両者が取り合った。最後に錦織が強打を連発してあっさりブレークして第2セットを取り互角に持ち込んだ。

この試合で目立ったのはサーブだ。丁寧にコーナーを突きエースを連発した。昨年まで錦織の最大の欠点はサーブであった。4強は第1サーブでのミスが少なく、ダブル・フォールトはほとんどない。錦織もスピードはともかく、正確なサーブが頂点を目指すためには求められていた。サーブは大幅に改善して自信がついたと自慢していた錦織であったが、実際に全豪でもサーブは非常に有効であった。コーナーなど相手が嫌がる場所に落とし、多くのノータッチ・エースを奪った。

1度優位に立つと自在にゲームをコントロールし相手に流れを渡さない。第3セットも2度のブレークを取ってあっさりと奪取。錦織は自分のサーブの時には、相手に付け入る隙を見せずにあっさりと取り、逆に相手のサーブの時にはしつこく食い下がり、隙があればブレークに持ち込む。第4セットはドディグが意地を見せて食い下がったが、6ゲーム・オールとなりタイ・ブレークで7連続ポイントを取って錦織が勝利した。

審判に対しても堂々と意見を言う錦織が見られた。サーブが入っているにも関わらず得点とされなかった審判のミスに対して、食い下がったのだ。英語で審判と渡り合える能力、交渉術もまた戦術の1つであり、総力戦で戦うのがトップ選手の資格だ。


姿を消した王者フェデラー

 


準々決勝で敗退したナダル

第3戦はアメリカのスティーブ・ジョンソンとハイセンス・アリーナでの決戦となった。大柄でサーブも強烈でしつこい。ジョンソンは錦織と同じ25歳で世界ランクは38位だが、2回戦で第30シードのサンチアゴ・ギラルドをストレートで破って勝ち上がっており、錦織と実力は同格とみて良く、隙を見せれば負けを覚悟する必要がある選手だ。第1セットは錦織がジョンソンの強打とスピードがあり強力なサーブに押され、例によって慎重にスタートしたこともあるが、タイ・ブレークからミスが出て第1セットを落とした。

この対戦で観客を驚かせたのは錦織の落ち着きだった。ブレークを許しても動ずることなく堂々と自分のプレーを続けた。左右のコーナーを巧みに突く錦織のストロークに振り回されるジョンソンは強打に頼ってミスを連発し始めた。隙を見せる相手に対して錦織は容赦なく襲いかかる。錦織のサーブはスピードは200km以下でそれほど強烈ではないが、コーナーを丁寧についてエースを連発。あっさりと2セットを取って優位に立った。

ここからが錦織ショーの始まりだった。流れを変えるためもありジョンソンはトイレ・ブレイクを取った。錦織は十分な時間を取ってベンチに戻ったため、ジョンソンは焦れた様子を見せ始める。隙を見せると反撃を食らう可能性があるため、錦織は慎重を期したのだ。ブレイクから戻った錦織は大歓声の中、なんと靴ひもを結び直した。豪胆というか緻密な戦術か、錦織の成長は限りなくトップに近づいていると感じた。第4セットに入っても、錦織はペースを落とさずあっさりと勝利を収めた。1-2戦を通じて錦織は2セットを落としたが、寒冷な天候もありほとんど消耗はないと思われる。


4強の一角だが悩めるマレー

錦織はこれまでもコーナーを突き相手を振り回すストローク、ダウン・ザ・ライン(ライン際)へのするどい返球、バックの上手さなど世界一流のものを持っていたが、欠点であったサーブが改善されている。さらに常に落ち着いていて動揺が少ないこと、審判への抗議・アピールの上手さ、トイレ・ブレイク、インジャリー・タイムなどの時間マネジメントの上手さなども含めて総合力が世界トップ・レベルになっている。まさしく昨年の流行語となった「勝てない相手はもういないと思う」を言い放ち、世界5位の貫禄を我々に見せつける前半戦であった。

男子のトップ選手では、ジョコビッチの調子が非常に良く、マレーも多少の苦戦はしているが順調に勝ち上がっている。フェデラーはイタリアの伏兵アンドレアス・セッピに苦杯を飲んだ。ナダルも準決勝でベルディハにまさかの敗退となった。

錦織、ベスト4進出ならず

2014年全豪の覇者ワウリンカ

4回戦で第9シードのダビド・フェレールをストレートで下した錦織は、いよいよ上位シード選手と激突することになった。準々決勝の相手は第4シードのスタン・ワウリンカだ。

第1セットからワウリンカの210kmを超すサーブが第1サーブから次々と錦織を襲う。一方の錦織は、いつものように第1セットではエンジンがかからない。ワウリンカは強烈な片手バック・ハンドのクロスも面白いように決まり始めた。絶好調のワウリンカに対して、錦織はたまらずイージー・ミスを重ね劣勢に追い込まれた。1セット目を3-6で落とした錦織は、第2セットも押されて4-6で2セット・ダウンと追い込まれた。第3セットに入ってやっと調子を上げた錦織は、初めてブレークするがすぐにブレーク・バックを許してしまった。タイ・ブレークに持ち込まれ、最後は5連続ポイントでいったんは追いつくが最後は逃げ切られて試合終了となった。

ベスト8で大会から姿を消すことになった錦織だが、自信もついた大会であった。来年はさらにひと回り成長して、ぜひ優勝を飾ってもらいたい。

地元選手ほか日本勢も健闘

オージー選手では、19歳のニック・キリオスがベスト8へ進み、オーストラリアを沸かせたがマレーに敗退、バーナード・トミックが4回戦でベルディハに敗退した。国民の人気を集めるベテラン、レイトン・ヒューイットは3回戦で先に2セットを取ったもののフル・セットの上、悔しい逆転負けとなったが、熱い戦いにオージーの賞賛を集めた。昨年のウィンブルドンでナダルと対戦して3-1で勝利したキリオスは4回戦でフェデラーを破ったセッピをフル・セットで撃破して地元ファンを沸かせた。


1回戦を突破した添田

一方、日本勢は添田豪が1回戦を突破したが、2回戦で第31シード、スペインのベルダスコにストレート負け、伊藤竜馬、守屋宏紀、伊達公子、奈良くるみ選手は1回戦で敗退した。世界101位の伊達公子は、勝てば最年長記録塗替えとなり、相手が141位のアメリカの選手なので期待されたが、惜しいスコアだったが、ストレート負けであった。

女子シングルスの優勝候補は?

昨年の全仏を制したシャラポワ


豪打と脆さを併せ持つウィリアムズ

一方、女子シングルスでは昨年の全仏の覇者マリア・シャラポワ、全米の覇者セリーナ・ウィリアムズが勝ち上がっている。ビクトリア・アザレンカは2回戦で第8シードのキャロライン・ウォズニアッキを破って4回戦へ進出。第6シードのアグニエシュカ・ラドワンスや第3シードで注目の若手シモーナ・ハレプはエカテリーナ・マカロワにベスト8で敗退した。第5シードで人気のアナ・イバノビッチは1回戦で敗退、全英優勝のペトラ・クヴィトバも3回戦で姿を消した。オージー選手では、11年全仏優勝のサマンサ・ストーサーなど8人が出場したが、2回戦までに全員が敗退した。

女子優勝候補筆頭は豪打が健在のウィリアムズだが、案外もろい面もある。この10年ほど1度もウィリアムズに勝っていないシャラポワが雪辱を果たすのか非常に興味深い。

会場の変更点・注意点など

全豪ではセンター・コートはロッドレーバー・アリーナ(RLA)、第2会場はマーガレットコート・アリーナ(MCA)、第3会場はハイセンス・アリーナ(HA)と3つの開閉屋根式の近代的なコートがある。錦織の第1戦はMCAで観客席も7,500席と大きい。


国旗をモチーフにした衣装に身を包み地元選手を応援する観客

MCAの開閉式ドーム化は予定より前倒しで完成し、今大会からのお披露目となった。MCAがこれまでの第3コートから昇格し、またオフィシャル・グッズ販売店(土産物売り場)がRLAからMCAに変更され、代わりに選手のラケットのガットの公式張替場がMCAからRLAに変わるなどの変更があった。

また、昨年12月にシドニーで起きた人質立てこもり事件の影響もあり、今年は警備が大幅に強化。入り口の持ち物チェックや関係者の立ち入り制限も厳しくなった。空港での出国審査や持ち物検査も強化されているので、帰国の際は、余裕を持って準備することをお勧めする。


文・写真=イタさん(板屋雅博)
日豪プレスのジャーナリスト、フォトグラファー、駐日代表
東京の神田神保町で叶屋不動産(http://kano-ya.biz/)を経営
 

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