2025年アーチボルド「Archibald賞」展/NSW州立美術館ボランティア・ガイド便り

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執筆者=吉澤なほみ(NSW州立美術館ボランティア・ガイド)

 NSW州立美術館では、毎年恒例のアーチボルド賞展が開催中です。1921年から始まった同展は長い歴史を持ち、受賞者の賞金が10万豪ドルという権威ある肖像画の公募展です。毎年、優秀な作品への期待と共に、幅広い分野のセレブリティーなど活躍する「時の人たち」がモデルとして描かれる話題性があり、被写体の面々は現代のオーストラリア社会を反映します。

 「肖像画」と決められた絵画のジャンルの中で、アーティストたちの表現方法はさまざまで、際立つ作風の持ち味やテクニックが鑑賞者を楽しませてくれます。

 テレビや新聞などのメディアでも大々的に取り上げられ、多くの来場者を迎えるアート界の一大イベントです。

2025 Archibald Winner – Julie & Justene, Archibald Prize 2025 winner Julie Fragar and sitter Justene Williams with winning work ‘Flagship Mother Multiverse (Justene)’ at the Archibald, Wynne and Sulman Prizes 2025 winners announcement, Art Gallery of New South Wales, artwork © the artist, photo © Art Gallery of New South Wales, Diana Panuccio

 今年のアーチボルド賞展の応募作品数は903点。最終選考に残った57作品からジュリー・フラガー(Julie Fragar)が親友のアーティスト、ジャスティン・ウイリアムズ(Justene Williams)を描いた「Flagship Mother Multiverse(Justene)」が2025年アーチボルド賞に輝きました。


 Sydney College of the Artsの学生時代から20年来の親友で、現在2人ともブリスベンに住み、それぞれが
Queensland College of Art and Designの学科長を務める同僚です。ビデオ、写真、彫刻、パフォーマンスやインスタレーション、更にオペラなど融合作品を制作するウイリアムズを、フラガーは最も独創的でエキサイティングなアーティストと称します。作品はウイリアムズが制作したマネキン、手や流星と、ウイリアムズを魔術師として宇宙に浮かべたシュールでモノクロームに近いコンテンポラリーな油彩画です。フラガーは「現実を超越した彼女の作品の特異性と異次元の世界に敬意を払いたかった」と語ります。

Archibald Prize 2025 finalist, Fiona Lowry ‘Ken Done’, synthetic polymer paint on canvas, 212.9 x 176 cm © the artist, image © Art Gallery of New South Wales, Jenni Carter

 
 2014年度のアーチボルド賞受賞経歴を持つフィオナ・ロウリー(Fiona Lowry)が、彼女独特のエアブラシ技法で描いたケン・ドーン(Ken Done)の肖像画。ドーンは1989年から10年以上にわたり日本の人気週刊誌「Hanako」のロゴと表紙デザインを手掛けたことで日本でも絶大な人気を集めました。

 ドーンの豊かな色彩と鮮やかなデザインはロウリーの子どもの頃の風景に織り込まれていて、母が買ったベッド・カバーは家族に喜びをもたらし彼の遊び心あふれる形や色に夢中になり、独特のオーストラリアの美しさの象徴として彼女の心に残っていると言います。

Archibald Prize 2025 finalist, Jaq Grantford ‘Sisters’, oil on canvas, 167.5 x 167.5 cm © the artist, image © Art Gallery of New South Wales, Jenni Carter

 作家兼アーティストとして活躍するジャク・グラントフォード(Jaq  Grantford)が描いたアントニア(Antonia)とニコール・キッドマン(Nicole Kidman)姉妹の油彩の肖像画。妹アントニアは弁護士で、以前はジャーナリストとテレビ・プロデューサーとして成功を収め、ニコールはオーストラリアが誇る国際的に名高い俳優兼プロデューサーです。

 作品の焦点は姉妹の親密な絆を描くこと、そして彼女たちの性格の類似点と相違点を示すことだったと言います。1枚の布で2人を包み、豪華な布はハリウッドの魅力を示唆しています。以前、母親のジャネル・キッドマン(Janelle Kidman)から家族の絆を描いて欲しいと頼まれ、昨年亡くなった彼女の遺思を描いたこの作品をジャネルが喜んでくれることを願っていると話します。

 ウイン賞(オーストラリアの風景画、フィギュア彫刻)、そしてサルマン賞(歴史・宗教画、壁画など)の公募展も同時開催。アーティストたちの多様な作品を一堂に楽しむことができる見逃せない展覧会です。

 日本語ツアーは、6月7日から8月2日までの毎週土曜日午前11時から。オーストラリアの今を知ることができるアーチボルド賞展を日本語ツアーでより身近に楽しんでください。皆様のご参加をお待ちしています。

アーチボルド賞展(ウイン賞展、サルマン賞展と同時開催)
開催期間
:開催中~8月17日
入場料金:大人$25(他詳細はWebsiteを参照)
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の土曜日:6月7日(土)~8月2日(土)催行。午前11時から。予約不要。入場券を購入の上、南本館地下2階展覧会場入り口集合

特別展:アボリジナル美術「ヨルングの力~イルカラ・アート」
開催期間:6月21日~10月6日
入場料金:大人$25(他詳細はWebsiteを参照)
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の日曜日:6月29日(日)~9月21日(日)催行。午前11時から。予約不要。入場券を購入の上、北新館地下2階展覧会場入り口集合

常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から、集合場所:インフォメーション・デスク前

【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から、集合場所:エントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW

ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。

開館時間:10AM~5PM(水のみ10PMまで)。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイトwww.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese



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