2025年5月にオーストラリア連邦議会選挙が行われ、その結果は選挙戦前の下馬評をひっくり返すような現政権労働党の圧勝で終わりました。各政党、さまざまな移民政策をマニフェストとして発表していましたが、移民政策には非常に厳しい政策を打ち出す政党ばかりで、オーストラリアも保守ナショナリズムに流れているようです。
前述したように労働党政権が再選されたことにより、オーストラリアの移民政策には今後数年間で大きな変化が訪れると予想されます。特に注目されているのは、移民受け入れ数の見直しや、技能移民・留学生制度に関する規制の強化です。
まず、政府は移民の総数を段階的に抑制していく方針を示しています。直近の2026〜27年までに年間の純移民数(海外からの実質的な人口流入数)を約22万5000人にまで縮小させる見込みだそうです。永住ビザの年間発給数は引き続き18万5000人に設定されていますが、その中でも70%は働く能力や専門性を持つ技能移民に割り当てられ、家族ビザなどの人道的なカテゴリーは30%にとどまります。
これは、オーストラリア国内の労働力不足を補いつつ、社会的・経済的な負担を抑える意図があるとされていますが、同時に行われる学生ビザの厳格化に関しては、かなり矛盾が生じるのではないかと考えられます。特にオーストラリアにおける技術能力者の多くが留学生として入国し、その後に技術能力者としてビザを申請するということを考えると、将来オーストラリアが必要とする有スキル労働者候補が先細ると思われます。
技能移民制度においても、従来より厳しい基準が設けられると言われています。求められる最低給与額の引き上げや、ポイント・テストの見直し、更にはビザ申請費用の値上げなどが予定されており、高度な技能と収入を備えた人材がより優遇される仕組みになっていきます。一方で、技能の基準に満たない申請者や一時的な労働者には雇用を確保しなければ厳しい状況となるでしょう。
上記で少し触れましたが、留学生制度についても大きな改革が進められています。24年7月には学生ビザの申請料が1,600豪ドルに引き上げられ、25年には2,000豪ドルへと増額されることが決まっています。加えて、大学ごとに留学生の受け入れ枠が定められ、全国での総受け入れ人数が最大27万人に制限されます。この措置は、教育機関の質の確保や、不正なビザ利用の防止を目的としていると言われていますが、それと同時に留学対象国として留学生が他の国へ流れる現象を生み出すと思われます。
一方で、難民や人道的支援を目的とした移民枠については、年間2万人という水準が維持される予定です。これは国際社会への責任を果たすというオーストラリアの立場を反映したものと言えます。
また、今回の選挙では、移民制限を掲げる保守系の「ワン・ネーション党」が上院で議席を増やすなど、移民に対する厳格な姿勢を求める世論も無視できない状況となっています。野党連合も移民政策の見直しを主張しており、今後の国会審議や制度改正に影響を与える可能性があります。
このように、オーストラリアの移民政策は「選別的・制限的な受け入れ」へとシフトしており、移住を検討している人や留学を計画している人は、これまで以上に事前の情報収集と慎重な準備が重要になってくるでしょう。今後の動向には引き続き注意が必要です。
アドバイザー

清水 英樹
オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営
