執筆者=浜田千恵
アボリジナル・アートと聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?「お土産屋さんでよく見掛けるもの?」「どう鑑賞すれば良いのか分からない」「そもそもアボリジナルについてよく知らない」と感じる人も多いのではないでしょうか。
この冬、NSW州立美術館では、オーストラリアで最も国際的に知られるアボリジナルのアート・コミュニティーの1つを紹介する特別展「Yolŋu power: the art of Yirrkala/ヨルングの力~イルカラ・アート」が開催中です。ノーザン・テリトリーのアーネムランドに位置するイルカラにゆかりのある、95人のアーティストによる約300点の作品が展示されています。

アボリジナルの歴史は、5万年以上前にさかのぼると言われています。アーネムランドに暮らすヨルングの人びとが受け継いできた長い伝統文化や、時空を超えた世界観が、彼らのアート作品には色濃く反映されています。
ヨルングの人びとは太古の昔から、身体や岩、大地などに神聖なデザインを描いてきました。彼らの作品がNSW州立美術館で初めて公開されたのは1959年。ヨルングのアートは「視覚言語」であり、彼らの世界そのものを表現しています。そのため、作品は文化的外交手段としても機能し、アートを通じて多様なメッセージを発信し続けてきました。その背景には、イギリスによる植民地支配から始まり、現在に至るまでの歴史が深く関わっています。

今回の展覧会では、イルカラ・アートの歴史を振り返り、1940年代から今日に至るまで継続されている創作活動と、その多様性を紹介します。イルカラにあるブクラルンガイ・ムルカ・センターの協力のもと開催される同展では、デジタル技術によって作品世界を再現したインスタレーションも登場します。女性アーティスト、ムルクン・ウィルパンダの歌声に合わせて展開されるイマーシブな空間では、彼女の深い植物への洞察が描き出す季節の移ろいが、美しく再現されています。

5月には、ニューヨークのメトロポリタン美術館でオセアニア・アートを展示するギャラリーの再オープンを祝う式典が催され、ヨルングの儀式が披露されました。その聖なる力強さがニューヨーカーにも高く評価され、改めて注目を集めています。
オーストラリアのみならず、世界の芸術界に多大な影響を与えてきたヨルングのアーティストたち。彼らがひと筆ひと筆に込めた「力」を、ぜひ会場で体感してみてください。
日本語ガイド・ツアーでは、アートがなぜ、どのように外交手段として用いられてきたのか、そして、現代のアーティストたちがどのように“ヨルングの力”を表現しているのかなど、イルカラ・アートの魅力にたっぷりと迫りたいと思います。
この貴重な機会を、どうぞお見逃しなく!
特別展:アボリジナル美術「ヨルングの力~イルカラ・アート」
開催期間:開催中~10月6日
入場料金:大人$25(詳細はウェブサイトをご覧ください)
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の毎週日曜日、9月21日(日)まで催行。午前11時から、予約不要。入場券を購入の上、北新館地下2階展覧会場入り口集合
アーチボルド賞展(ウイン賞展、サルマン賞展 同時開催)
開催期間:開催中~8月17日
入場料金:大人$25(詳細はウェブサイトをご覧ください)
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の毎週土曜日、8月2日(土)まで催行。午前11時から、予約不要。入場券を購入の上、南本館地下2階展覧会場入り口集合
常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間:10AM~5PM(水のみ10PMまで)。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese