豪州日系フットボール界隈に激震──2人の日本人フットボーラーの逮捕に寄せて/日豪フットボール新時代 第156回

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後から思えば、ぼかしは掛かっていても示唆に富む映像だった。訴追の対象となった行為が行われたとされる試合の映像が使われていた(写真は「9NEW」内動画のスクリーンショット)

 当然、何も書かずにやり過ごすこともできたが、どうしても書かずにはいられなかった。

 6月1日、”Breaking News”として9NEWSがAリーグ所属選手のスポーツ賭博での違法行為を伝えるのを偶然、目にした。使われた試合の映像はぼかされていたが、見慣れた黒と緑のユニフォームの背番号77がおぼろげながら映し出されているのは判別できた。他にも映像に映り込んでいた選手はたくさんいたので、「まさかな」と思いながら翌日を迎えると悪い予感が的中していた。

 翌日、同系列の新聞社の記事には、はっきりと“Riku Danzaki”の名が載っていた。その報道を複数の日本メディアが2次情報のみの翻訳記事で「豪リーグ日本人選手がスポーツ賭博容疑で逮捕」と伝えてからニュースが一気に拡散。その頃から、何人かの関係者や選手自身を知る人物から「ニュースを見ましたか」「(選手個人と)連絡が取れずに心配している」といったような連絡を受けた。筆者も報道以上の内容を知り得る立場にはないので、ただ心配と不安を分かち合うことしかできなかった。

 ちなみに、筆者は逮捕された檀崎竜孔(25)とは定期的に簡単なやり取りをしていたが、今回の事件後は思うところがあって、あえて連絡していない。聞くところによれば、彼の携帯電話は証拠品となっているようで事件発覚以降は全く不通のまま。ただ、現在、彼はメルボルンで公判に向けて準備中との情報も得ている。

 今季、キャリアハイのシーズンを終えたばかりの檀崎が本業ではなく、こんなニュースで世間の耳目を集めてしまうのは、ただただ残念のひと言に尽きる。ブリスベン時代からよく知る存在だけに、筆者個人のショックも大きい。だからこそ、上記のような追っかけ記事を配信するYahoo!のコメント欄やSNSを見ていると、居ても立っても居られなくなった。幸い、筆者には当コラムがある。思い余って、通常の文字数をかなりオーバーしながらも長年の豪州フットボール・ウォッチャーとしての思いの丈をここでぶつけているわけだ。

 今回の訴追内容はまだ詳らかにはなっていないが、諸々の状況からも容疑は概ね事実だろう。それでも、現時点では第3者が分かる情報は非常に限られているからこそ、推測で物を言い(書き)たくない。分かっていることは、檀崎ともう1人の選手がスポーツ賭博関連で訴追を受け、7月31日に公判が開かれる。それ以下でも以上でもない。

 その“もう1人”に関しては、第1報では名前がなぜだか伏せられていた。プロ選手の檀崎の名前だけが報じられ、6月25日なって、ようやく、もう1人が今年からVIC州下部リーグでプレーする平山裕太(27)であることが判明。彼のことは、ブリスベンでプレーしていただけに筆者も面識はある。更に言えば、2人が親しい仲であることも把握していた。ただ、メルボルンでもその関係が続いていたとはつゆ知らず、こんな事件の当事者になるなんて想像していなかった。

 いずれにしても、2人の日本人選手が現役選手としては言うまでもなく社会通念上の倫理的にも許されない行為に手を染めて摘発された事実は変わらない。その事実に、当地の日本人フットボール関係者は一様に大きなショックを受けている。先人が長く積み上げてきた日本人選手の勤勉さや献身性といったところへの高い評価すら根底から揺るがしてしまいかねない。その意味でも彼らが犯した“罪”は重い。彼らには、そこまでの結果責任を負うくらいの気持ちでの強い反省が必要だ。

 ただ、古くから“罪を憎んで人を憎まず”と言う。1度、裁判が結審したら、今後の彼らの反省と更生の日々を日系コミュニティーは温かく見守っていかなければならない。報道直後に散見されたような限られた情報だけで、今回の彼らの行いを一方的に断罪するような行為は厳に慎むべきだろう。

 これを読む方々に重ねてお願いしたいのは、今回の事件だけで豪州で夢を追う日本人選手全体にレッテルを貼るようなことや、選手の出身高校やその関係者を絡めて批判するようなことをやめて頂きたい。誰よりも、周りに掛けた迷惑に苦しんでいるのは選手本人だ。特に、若い家庭を持つ檀崎に関しては心底、打ちひしがれているに違いない。そんな彼を更にむち打つ必要が果たしてあるだろうか。

 7月31日の公判で彼らが何を語るのか。どのような事実が明るみになるのか──。さすがにメルボルンの法廷を傍聴するのはかなわないが、自分なりに情報を集めて可能な限りで追っていきたいと思う。

 最後に、今回、直接伝えられなかった思いの一部をこの場で伝えることを、どうか読者の皆様にはお許し頂きたい。

 竜孔、本当に残念だよ。一番辛いのは竜孔自身だろうけど、裁判がどんな結果になってもしっかりと罪を償って、迷惑を掛けた皆さんにきちんと頭を下げてから、その後の人生のセカンド・チャンスをしっかり歩んでくれ。頼むからさ、また、あの屈託ない笑顔を見せてくれよ。話せる時が来たら、いつでも話を聞くからな。これからも応援する気持ちは変わらないよ。

プロフィル

植松久隆(タカ植松)

植松久隆(タカ植松)

ライター、コラムニスト。タカの呟き「パースでの日豪戦。かなり久しぶりに豪州が日本に勝った。その後、豪州が無事にW杯出場権を獲得したことで、次回も日豪両国仲良く本選に駒を進めることができた。それにしても、今回の出場国数の増加によってヒリヒリする緊張感のない最終予選となってしまったのは本当に残念」





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