トランプ大統領より先に習主席に面会したのはなぜ? アルバニージー外交のしたたかさ

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親中? それともオーストラリア・ファースト?

トランプ米大統領(左)、オーストラリアのアルバニージー首相(中)、中国の習近平国家主席(Photos: Wikipedia)

【解説】オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相が15日、習近平国家首席、李強首相と相次いで会談。少なくとも外交面では、コロナ禍の5年前と比べて豪中関係が大きく改善したことを印象付けた。2つの超大国のはざ間で立ち回るアルバニージー首相のしたたかさが透けて見える。(ジャーナリスト・守屋太郎)

 今年5月の連邦選挙で2期目の再選を果たしたアルバニージー首相は7月、カナダでのG7サミットで、ドナルド・トランプ米大統領と初めて対面で首脳会談を行う予定だった。ところが、イラン情勢の緊迫を受けてトランプ大統領が急きょ帰国して「ドタキャン」を食らった。

 このため、アルバニージー首相は再選後、最も重要な同盟国・米国の大統領より先に、中国の習主席に面会する結果となった。

 中国はオーストラリアにとって最大の輸出先だ。特に鉄鉱石をはじめ資源・エネルギー、農産物などの一次産品は中国市場への依存度が高い。1990年代初頭からコロナ禍まで一度も景気後退に陥ることなく続いたオーストラリア経済の「繁栄の30年」は、中国の高度成長によるところが大きいとされる。

 だが、オーストラリアは、安保や通商で中国と対立を深める米国の最も緊密な同盟国の一員でもある。南シナ海など周辺地域では近年、米国主導の「自由の航行作戦」に参加するオーストラリア軍の航空機や艦船に対する中国軍の挑発行動が散発。加えて、中国海軍の艦船3隻が今年2月、シドニー南東沖約630キロ(公共放送ABC)の公海上で実弾演習を行うなど、水面下では軍事的緊張が続いている。

「自由貿易支持」と首相 トランプ政権ディスった!?

 一方、外交面では近年、関係改善が進んでいる。新型コロナウイルスのパンデミックが拡大した2020年には、オーストラリアの前保守連合政権(中道右派)のスコット・モリソン首相(当時)が感染源(諸説あり)に関する独立調査を中国に要求。中国政府がこれに強く反発し、石炭や大麦、牛肉などオーストラリア産一次産品8品目に対して、高関税をかけたり、禁輸したりして経済制裁を実施した。

 しかし、22年連邦選挙で政権を奪回した労働党(中道左派)のアルバニージー首相の下、閣僚・首脳間の交流が再開。中国側も経済制裁を段階的に解除し、24年末までに完全に撤廃している。

 アルバニージー首相は15日、北京での習主席との首脳会談の冒頭、今年締結10周年を迎えた豪中自由貿易協定(FTA)に言及し、「(豪中FTAの)直接的な効果によって、2国間の自由貿易は両国の国民と企業に恩恵をもたらしている。オーストラリアは自由で公平な貿易を力強く支持している」と強調。トランプ氏流の反自由貿易、反グローバリズムに反対する姿勢を暗にほのめかした。

 米トランプ政権の高関税政策を背景に、世界経済の先行きに不透明感が増す中で、米国との同盟関係は堅持しつつも、一番の上客である中国とも仲良くしたい−−。それがアルバニージー首相の本音と言えそうだ。

■ソース

Statement on Joint Outcomes of the China-Australia Annual Leaders’ Meeting(Prime Minister of Australia)

Opening remarks – Australia-China bilateral meeting(Prime Minister of Australia)

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