「悪いニュースは良いニュース」

【解説】オーストラリアでは6月の失業率が3年半ぶりの高水準を記録し、堅調に推移してきた労働市場に軟化の兆候が見えてきた。ところが、景気動向に敏感なはずの株価は絶好調だ。なぜなのか?(ジャーナリスト:守屋太郎)
シドニーのオーストラリア証券取引所(ASX)では17日、主要株価指数「S&P/ASX200」が前日比で77.20ポイント(0.90%)高い8,639.00ポイントで取引を終了し、史上最高値を更新した。15日に続き今週に入って2度目、2日ぶりの最高値更新となった。
同指数の構成銘柄のうち株価が上昇したのは157社に達し、下落は33社にとどまった。後払い決済(バイナウ・ペイレイター=BNPL)大手のブロック(5.13%上昇)、ソフトウエアのニューイックス(4.85%上昇)などが高かった。
セクター別では、11ある全業種で上昇し、資本財(建設・運輸・産業機械など)が1.43%、金融が1.33%、不動産投資信託(REIT)が1.31%、それぞれ上昇した。
17日の最高値更新を後押ししたのは、午前に発表された雇用統計だ。6月の失業率は4.3%と前月から0.2ポイント上昇。就業者数の伸びは2,000人と市場予測の2万人から大きく下振れした一方、失業者数は3万4,000人増えた。
利下げ期待に冷水 据え置きは失策!?
雇用統計がネガティブな内容だったにもかかわらず株価が上昇したのは、逆に利下げへの期待感が高まったからにほかならない。株式市場の反応は、まさに「悪いニュースは良いニュース」だった。
一般論として、利下げ=金融緩和は高インフレ下では物価高を加速させるリスクがあるものの、インフレが落ち着いていれば景気を刺激する効果が期待できる。銀行預金の利息で生活している人の所得は目減りするが、そうした層は全体から見れば少数派。住宅ローン返済中の世帯の負担を減らすなど個人消費を活性化させ、企業の資金調達コストも下げて設備投資を促す可能性がある。
ただ、中央銀行の豪準備銀(RBA)は7月9〜10日の前回会合で、市場の予想に反して政策金利を3.85%で据え置き、利下げを期待していた国民や市場に冷水を浴びせた。「インフレが持続的に2.5%前後で推移していることを確認するまで、もう少し待つ」というのが、RBAの言い分だった。
しかし、15日の雇用統計が弱かったことを受けて、エコノミストからは「金利据え置き決定は、間違った(金融)政策だったようだ」(キャピタル・エコノミクスのアビジット・サーヤ氏=公共放送ABC)といった厳しい意見も出ている。
8月利下げ確率、8割超に上昇
それだけに、RBAは8月11〜12日に開く次の会合で、さすがに追加利下げに踏み切るだろう−−。そうした期待はいっそう高まっている。
ABCによると、RBAが8月に「0.25ポイント利下げする確率」(ロンドン証券取引所)は雇用統計発表後に84%(発表前は77%)まで上昇した。
もっとも、米トランプ政権の高関税政策を背景に、世界経済の先行きは混沌としている。オーストラリア経済がずるずると混乱に巻き込まれていくのか、それとも金融緩和で内需主導の成長を加速できるのか。答え合わせには、もうしばらく時間がかかりそうだ。
■ソース