特別展「ヨルングの力 〜イルカラ・アート〜」第2弾─日本語ツアーのすすめ/NSW州立美術館ボランティア・日本語ガイド便り

SHARE

執筆者=鴨粕弘美

Installation view of the ‘Yolŋu power: the art of Yirrkala’ exhibition at the Art Gallery of New South Wales, 21 June – 6 October 2025, all artworks © the artists, Buku-Larrŋgay Mulka Centre, Yirrkala, photo © Art Gallery of New South Wales, Diana Panuccio

 先月に続き、NSW州立美術館で開催中の特別展「ヨルングの力 〜イルカラ・アート〜」について紹介します。オーストラリアの美術批評家からも高い評価を受ける本展では、当館の所蔵作品に加え、アーネム・ランド北東部イルカラにあるブクラルンガイ・ムルカ・センターを始めとするオーストラリアの主要機関その他から選りすぐりの作品を集結。オーストラリアの先住民、アボリジナル・アートの中でもイルカラに住むヨルングの人びとのアートをたたえる内容となっています。

Installation view of Mulkuṉ Wirrpanda with The Mulka Project ‘Rarrirarri’ 2023, as part of the ‘Yolŋu power: the art of Yirrkala’ exhibition at the Art Gallery of New South Wales, 21 June – 6 October 2025 © the artists and The Mulka Project, Yirrkala, photo © Art Gallery of New South Wales, Diana Panuccio

 10室近い展示空間ですが、とりわけ注目すべきは“ムルカ・プロジェクト”。シドニー初公開の没入型体験作品“Rarrirarri 2023”です。アニメーションが投影される巨大なシロアリの塚を中心に、ヨルングの人びとの歌声とその大地のサウンドスケープが融合し、ヨルングの世界に浸ることができます。

 展示会場入り口には、イルカラの風景映像が流れ、見る者をその土地へと導きます。その先には、モッコイと呼ばれる精霊の彫刻が並び、来訪者を静かに迎え入れます。1940年代から現代に掛けて80年に及ぶ作品群が年代順に展示され、バーク・ペインティング(樹皮画)、版画、クレヨン画、木や金属の彫刻、ビデオ作品など多様な作品から、ヨルングの主権、権威、強さ、エネルギー、誇りに至る「力の表現」の手法が、時代と共にどう変化し、また文化がどう受け継がれてきたかを視覚的にたどることができる構成となっています。彼らが用いる神聖な模様が、素材や季節の移ろいと共に変容し、自然素材・再生素材を通じてその世界観を体現しています。

Installation view of the ‘Yolŋu power: the art of Yirrkala’ exhibition at the Art Gallery of New South Wales, 21 June – 6 October 2025, all artworks © the artists, Buku-Larrŋgay Mulka Centre, Yirrkala, photo © Art Gallery of New South Wales, Diana Panuccio

 興味深いのは、1960年代に抽象と具象の表現に苦悩していた西洋画家ピカソが、アーネム・ランドのアートに強い関心を寄せていたという記録で、展示中のマワラン・マリカの樹皮画に特に注目していたと言われています。ヨルングの人びとにとって抽象的な模様は、儀式などのボディ・ペインティングなどに根ざした神聖なものであり、樹皮画に描く時には、その神聖な力から鑑賞者を守るため具象的な表現によって覆い隠すという文化的意図があるそうです。

 この展覧会は、ヨルングの魂・歴史・文化に触れる貴重な機会です。近年、世界の美術界で注目されている先住民の現代アートを理解する上でも見逃せない内容となっています。ドット・ペインティングだけではないアボリジナル・アートの多様性に、日本語ガイドの分かりやすい解説と共にぜひ触れてみてください。

特別展:アボリジナル美術「ヨルングの力~イルカラ・アート」
開催期間:開催中~10月6日
入場料金:大人$25(詳細はウェブサイトをご覧ください)
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の毎週日曜日、9月21日(日)まで催行。午前11時から、予約不要。入場券を購入の上、北新館地下2階展覧会場入り口集合

アーチボルド賞展(ウイン賞展、サルマン賞展 同時開催)
開催期間:開催中~8月17日
入場料金:大人$25(詳細はウェブサイトをご覧ください)
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の毎週土曜日、8月2日(土)まで催行。午前11時から、予約不要。入場券を購入の上、南本館地下2階展覧会場入り口集合

常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW

ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。

開館時間:10AM~5PM(水のみ10PMまで)。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイトwww.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese



SHARE
NSWの最新記事
関連記事一覧
Google Adsense