取材・文=馬場一哉
写真=伊地知直緒人、馬場一哉
Photo: ©Naoto Ijichi, Kazuya Baba
日本のスーパーでは、魚は刺し身用、鍋用、焼き物用、など用途に合わせて切り分けられ、あとは調理するだけというような状態で売られているケースがほとんどだろう。しかし、こちらではそうは行かない。柵で売られている刺し身用のマグロを購入し、魚屋の人が切ってくれるというのでお願いしたところ、非常に小さなピースに分けられ、がっかりしたというようなケースもある。やはり自分で切り方などをある程度知っておいた方ががっかりすることもなくて良いだろう。
また、サーモンを1匹丸ごと買い、店で3枚におろしてもらっておけば、その後さまざまな料理に使うことができるので効率的だ。もちろん自分で3枚におろすことも可能だが、サーモンは骨が柔らかいのでおろすのがなかなか難しい部類の魚のため、任せてしまう方が良いという。焼き物などにするため皮を残したいということでなければスキン・オフしてもらうのもお薦めだ。
サーモンは刺し身として食べられるクオリティーの柵もよく売られているが、そうした物よりも実際にさばいたばかりの物の方が当然鮮度は高いので自宅でおいしいサーモンの刺し身を食べたいのであればチャレンジしてみることをお薦めしたい。なお、今回作って頂いた品は6品。サーモンの刺し身、サーモン・ハラミのグリル、サーモンのカマ焼き、照り焼きサーモン、マグロとサーモンのすし、サーモンの味噌汁だ。
まず、すし用のシャリを用意するため米を研ぐが、米は一番最初の水を一気に吸うため、できれば浄水などを利用したい。また最初は軽くさっと洗い、次から少しじっくり洗うようにすると良いだろう。今は精米技術も上がっているため、昔のようにしっかりと洗いこむ必要はない。30分程度水に漬けた後、羽釜で炊飯する(家庭では炊飯器で良いが火力が弱いのがネック、土鍋も良いが割れるという欠点もある)。
3枚に落ろした物のうち、サーモンの頭を甘辛いタレに漬け込む。これはしょうゆ、みりん、酒、砂糖などを使った照り焼きタレでも良いし、市販の焼肉のタレなどでも構わない。また頭から切り離した骨(身が薄く残っているはず)は数等分に切り分け、軽く塩を振りかけ15~20分ほど置く。前者はかま焼き、後者は味噌汁に使う。
三枚おろしにされたサーモンを調理用途ごとに切り分けてみよう
- サーモンの骨抜きには写真右のプライヤも意外に便利だという
- サーモンの骨は柔らかいため、折れぬよう1本ずつ丁寧に抜いていこう
- 魚は下見からおろすのが基本のため、腹の脂の多い所から切り分ける。そのまま焼いてもジューシーな脂が出てくるおいしい部位ですしにも最適
- 塩焼きや照り焼き用に皮を付けたまま切り分ける
- 皮を引くときは包丁ではなく皮を引くのがコツ
- サーモンは全体的に柔らかいが尾の部分など硬い所は細かくしてちらしなどに使うと良い
漬け込んでいる間に魚の身を切り分けていく。サーモンは一般的な魚より骨の位置が背の方にずれているため、骨抜きはある程度分解してからの方がやりやすいという。小骨抜きではなく、工具屋さんに売っているようなプライヤも使いやすい。骨が柔らかく途中で折れてしまう可能性があるので骨が生えている方向に垂直にゆっくりと抜くことを心掛けよう。骨の数は今回の取材では26本であった。
その後、脂の多い腹の部分、塩焼きや照り焼きにする部分など用途に応じて切り分ける(写真参照)。塩焼きにするなど皮を残したい部分を切り分けたら、皮を一気に引こう。包丁を身と皮の間に入れて皮をしっかりつかんで引く。包丁ではなく皮を引くことがコツとなる。
サーモンのお腹の部分は非常に脂が多いため、すしに使ってもおいしいが、今回は一部をすしに、一部をハラミのグリルに使うことになった。また、頭側の一列内側を刺し身にすることに。
刺し身、すしに使用する際の魚の身の切り方は?
- フィッシュ・マーケットなどで一般的に売られている刺し身用のマグロはこれくらいのサイズ。刺し身用には大きいので縦半分に切る
- サーモンをすし用に切っているところ。すしでは硬い繊維部分が短くした方が良いので筋に対して垂直になるよう包丁を入れている。なお、すし用に切る際は斜めに包丁を入れても最後は少し縦に切る。そうすることで手前に来る側の切り口が美しくなる
- マグロを刺し身用に切っているところ。少し斜めに入れることで鋭角で美しくなる
- ~6. 炙り用では火が入るため繊維の部分を長めに切っている。また縮んでしまわぬよう切り込みを入れてから炙る
このタイミングで出来上がった米にすし酢を混ぜる(お店では、松谷シェフこだわりの赤酢を使ったすし酢だったが特に知識がなければ市販の物を商品の指示に従って混ぜれば良いだろう)。混ぜる際に気を付けたいのは混ぜすぎないこと。混ぜすぎると冷めた時に団子状になってしまうからだ。そして粗熱はうちわなどで仰いですぐに取ること。湯気で水がたまることでつやがなくなってしまうからだ。
シャリができたら、タレに漬け込んだカマをオーブンで焼き加減を見ながら焼く。また、同時にハラスも塩をぱらっとふりかけグリルする。どちらも適度な焼き加減で火を止めればOK。
また、昆布やカツオなどが入った定番のだしパックでだしを取っただし汁に薄く塩を振ったサーモンの骨を入れる。そこにお酒を少々、みりん、薄口しょうゆを入れる。途中でショウガを加え、最後にみそを溶く。ネギを載せて出来上がり。なお、料理酒は塩などが入っているのでお薦めしないそうだ。できれば純粋なお酒が良いとのこと。
グリルやみそ汁の調理と並行して照り焼きサーモンを作る。皮付きのサーモン全体に軽く小麦粉をまぶし、油を引いたフライパンで中火で焼く。ある程度全体がカリッとしてきたら、照り焼きソースを絡めながら焼き、最後にごまをぱらっとかけて完成。照り焼きソースは出来合いの物でも良いし、しょうゆ、酒、みりん、砂糖を使って好みの味を作っても良いだろう。
皮つきの切り身を照り焼きに
- サーモンの切り身に小麦粉をまぶす
- フライパンに油を敷き、皮目からしっかりと中火で焼いていく。皮目から焼くのは盛り付ける際にそちらが表側になるため仕上がりを意識してのこと
- 照り焼きソースを絡めながら焼き、たれが全体になじんだら完成
最後に、刺し身、すし用にそれぞれ魚を切っていく。すし、刺し身で異なる切り方に関しては写真と共に解説を見てもらえればと思うが、きちんと切れる包丁を使うことが大切だ。刺し身は盛り付けの美しさも重要でそのためには切り口が鋭角になるよう意識することが大事だという。
すしの握りに関しては、やったことのない人にしてみれば大変難易度の高い技のように思えるかもしれないが、見よう見まねの「素人仕事」であれば意外にもできるもの。家庭でエンターテイメント感覚で試してみるのも一興だ。
すしを握る際の基本の動きは、左手でネタを持ち、右手でシャリを丸め、それをわさびを付けたネタの上に載せ、左手の指先の方にすしを起こして、左右、上下から握りながら形を整えるという流れになる。シャリを握る際にはシャリが手にくっつかなよう水と酢を混ぜた手酢というものを付けるが、これには氷水がお薦めだという。水には冷たい方が粘性があるためだという。
自分でもすしを握ってみよう
- 左手でネタを取り、右手でシャリを握る。すし桶の横には手を濡らすための手酢も置いておく
- 右手の人差し指でわさびをネタの上に載せる
- その上にシャリを置く
- シャリの真ん中を押し、シャリが口の中でほどけるよう空気を入れる
- 手の上で転がしひっくり返した後、形を整える
- シャリを取る時に空気の穴を空ける方法も最近は出てきているという
すしの握りは確かに難しいが、続けていくと意外に上達が感じられて楽しいもの。自宅ですしを握れるようになれば、食卓の献立の幅も広がることだろう。
だが、もちろん、食材のクオリティー、調理の質を本格的に求めるのであれば、プロにお任せするのが一番。今回取材に協力頂いた華樹林はもちろん、シドニーにはおいしい海鮮物が食べられるお店が実に数多くある。次ページではそうしたおいしい魚を食べさせてもらえるお店を紹介しよう。皆さんのシーフード・ライフに幸あれ!
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