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オーストラリアのWagyu(わぎゅう)/出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~ 其の六拾四

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バサーストにある「Suzuki Farm Wagyu」

 日本の和牛の血筋を持ちオーストラリアで育った牛「Wagyu」については以前にもご紹介しました。オーストラリアにおけるWagyuの歴史は30年を超え、レストランのみならず、カフェなどのメニューにも「Wagyu」という単語をよく見掛けるようになり、同時にこの数年、Wagyuを扱う精肉店が増えたように感じます。現在のWagyu人気には、さまざまな人や企業、団体などの施策や努力が関わっています。

 今回は、オーストラリアのWagyuの畜産に貢献されている「Suzuki Farm Wagyu」代表、鈴木崇雄さんにお話をお伺いました。鈴木さんとは20年近く前、ブルー・マウンテンズの牧場でWagyuの牧畜を始めた日本人がいると聞き、現地に訪れたのが初めての出会いでした。現在は、NSW州の西部、バサースト(Bathurst)の繁殖・肥育一貫農場を始めて6年が経ち、今では繁殖牛400頭、肥育牛360頭と小規模ながらも、牛の血統、肥育技術、“Suzuki Farm Wagyu”という名でブランド化し、国内外への自社販売するなど、こだわり抜いた畜産事業を展開しています。

 鈴木さんは、夢であったオーストラリアでのWagyu生産の形に近いものができつつあると言います。

 Suzuki Farm Wagyuで自社生産を始めたきっかけは、オーストラリアWagyuの血統の特徴を踏まえながら、オーストラリアの大規模農場では難しい個体管理と子牛生産から肥育までの一貫生産を実現することで、和牛本来の良さを持った牛肉をオーストラリアでも生産できるということを証明したいという思いから、ということです。

飼育場での給餌風景

 今では、オーストラリアのWagyuは世界的に有名になり、世界各国でオーストラリア産のWagyuが販売されています。しかし、鈴木さんいわく、「その肉質は未だ日本の和牛に遠く及んでいません」と、厳しい現実があるようです。「繁殖システム、血統管理、肥育技術、どれをとっても日本とは掛け離れているので、それはそれでオーストラリアWagyuらしい特色になっているとは思います。しかしそんな中で、大変な思いをして先人たちがオーストラリアに残してくれた日本の和牛の子孫たちの本当のポテンシャルを、私なりのやり方で示すことができたら。そのような思いで、Wagyu事業を続けています」と、現在も夢を追求し続ける理由を熱く語ってくれました。

 私の知る、オーストラリアにおける牛肉の50年を振り返って思うことは、店に並ぶ肉の部位が増えたこと、またポーション・コントロールによる量の種類が増え、更にはWagyuという新しいブランド牛も加え、食生活がとても豊かになりました。昨今では、精肉店の店舗がとてもスタイリッシュになり、店頭に肉のエイジングを展示する店舗が現れるなど、故アンソニー・ボーディン(Anthony Bourdain、米国シェフ作家)がウラーラ(Woollahra)にある「Victor Churchill」を訪れて「The most beafutifu butcher shop In the world」と記したように、おしゃれな精肉店が増えています。

 また、Wagyuを含む精肉のオンライン販売を行う店も増え、値段の高騰は気になるものの、消費者として選択肢が増え、牛肉購入の手軽さが魅力となっています。

 この50年、時間と共に改良は少しずつ進んではいますが、和牛に限らず、日本の食材、例えば米などを見ても、オーストラリア産と日本産の品質の違いを埋めることは容易ではないと実感します。

こだわりの飼育方法で生産する同社Wagyuの肉質

 最後に、「一時の流行としてではなく、オーストラリア国内外でWagyuの価値が高まり、幅広く世界中の人に愛されるようになって欲しいという先人の意志を実現できるよう、今後も品質の高い牛肉を生産していきたい」と鈴木さん。

 オーストラリアにおいて、Wagyu業界が発展していくことを願うと共に、日本の和牛も同時に世界で味わってもらえる機会が更に増えることを願うばかりです。

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese Cuisine、Japanese Cooking at Home, Essentially Japanese他著書多数。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、四條司家公認天日大膳宗匠、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章





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