福島先生の人生日々勉強
重心は真下に
「左へ側(そばだ)ち、右に傾き、前に跼(くぐま)り、後ろへ仰(あお)ぐことなかれ」
これは、座禅をする際の心得として示されたものです。左右に傾かず、前後にも倒れないこと。必ず体を地面に真っ直ぐにして座ること。両耳と両肩、鼻とへそはそれぞれ垂直に相対すること。舌の先は歯の付け根に当て息は鼻より通じること。口は閉じること。真っ直ぐに座っていると、心がすっきりと落ち着き、自然に心と体が一体となってきます。実際に、姿勢の良し悪しが心身の健康に影響することがさまざまな研究で示されています。皆さんも何かしら思い当たることがあるのではないでしょうか。
例えば、姿勢が悪いと横隔膜や肋骨(ろっこつ)をうまく動かせず、呼吸が浅くなり、交感神経が優位な状態が続きます。体は緊張状態となり、自律神経のバランスが崩れると、脳内神経伝達物質の活動も抑制されて精神不安にもつながります。
姿勢の悪さは、筋肉や関節、皮膚に至るまで体のあらゆるところに余計なストレスを掛けます。肩凝りや腰痛、便秘や腹部膨満感、めまいや立ちくらみ、肌荒れ、ドライアイなど、姿勢の悪さからくる不調は枚挙に暇(いとま)がありません。骨盤や内臓にも負担が及ぶため、代謝が下がり太ってしまうかもしれません。
更に、姿勢を良くする方が良い理由に「光」があります。近年の研究で、子どもの近視予防には、1000ルクスを超える明るい光を週11時間以上浴び続けることが有効という学説があります。既にシンガポールや台湾などでは、屋外授業を義務付けるなどの法改正により、光による成果が認められてきています。矯正視力0.7未満で認知症が急増するというデータもあり、近視は万病の元。新薬の開発も進められていますが、より積極的な予防が急務です。「光」は視力だけでなく、心身に対して大きな影響力を持っています。明るい光はセロトニンやメラトニンの生成に良い影響を与え、質の良い睡眠へと導き、体組織の修復・再生をする成長ホルモンの分泌を促すからです。屋内で過ごす時間が長くなっている昨今、うつむいて前屈みに過ごしていると、目から入る光量が圧倒的に不足し、健康が脅かされてしまいます。
座禅の心得は、そのまま日常生活の心得であり、人生の心得でもあります。座禅は静、人生は動。静と動の違いはあっても大切なことは同じです。どっしりと構え、人生がどんなに動いても、座禅のごとく体の真下から重心を外さないこと。そうすれば外からのストレスにも強くなり、明るく乗り切っていけるようになります。
このコラムの著者
教育専門家 福島 摂子
教育相談及び、海外帰国子女指導を主に手掛ける。1992年に来豪。社会に奉仕する創造的な人間を育てることを使命とした私塾『福島塾』を開き、シドニーを中心に指導を行う。2005年より拠点を日本へ移し、広く国内外の教育指導を行い、オーストラリア在住者への情報提供やカウンセリング指導も継続中。