ポジティブなマインドを保ち、
心と体を健康に
専門家に学ぶメンタル・ヘルス・ケア
コロナ禍の影響で、メンタル・ヘルス・ケアへの関心や重要性が高まり、さまざまな対策などが講じられるようになった。本特集では、昨今のメンタル・ヘルス・ケア・サービスへの需要の増加傾向に加え、ストレス度合いのセルフ・チェック方法や、ポジティブなマインドを保つために大切なことなどについて、専門家のアドバイスを交えてお届けする。
取材協力: Mind Body Living Counseling Service/桜井多恵子先生(豪州公認サイコロジスト)
桜井多恵子先生が行うクリニックの詳細は「ヘルスケア特集 日本語診療が可能なオーストラリアの医療機関」よりご覧になれます。
昨今のメンタル・ヘルスの現状
近年、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、オーストラリアの都市部を中心に長期にわたりロックダウンが施行されるなど、人びとがストレスを感じたり心身に不調をきたす事例が増えている。メンタル・ヘルス不調というと、うつ病や適応障害などの精神疾患をイメージする人がいるかもしれないが、ストレスや強い悩み、不安感といった精神状態も含まれる。コロナ禍が、メンタル・ヘルスに及ぼす影響は、非常に深刻だ。
オーストラリア健康福祉研究所(Australian Institute of Health and Welfare/以下、AIHW)の発表によると、オーストラリアでは、2020年3月から21年6月までの間に、メディケアを使用したメンタル・ヘルス・ケア・サービスの需要が1760万件あったという。また、メディケアを使って受診するような深刻なものだけでなく、電話相談も増加傾向にある。
21年4月に行われた調査によると、コロナ禍以前の19年4月と比べ、ライフラインでは約18%、キッズ・ヘルプ・ラインでは約11%、ビヨンドブルーにおいては31%も増加したそうだ。相談の内容は多岐にわたるが、ロックダウンによる行動制限や、コロナ禍での経済的・将来的不安から来るうつ、不安、ストレスなどが多く見られるようだ。
出典:AIHW, COVID-19 impact on mental health
www.aihw.gov.au/reports/mental-health-services/mental-health-services-in-australia/report-contents/mental-health-impact-of-covid-19
ストレス度合いのセルフ・チェック方法
ストレス度合いをセルフ・チェックする方法として、最も分かりやすいのは体の不調だという。例えば、寝付きが悪い、眠りが浅い、十分な睡眠時間を取っても眠気を感じるなどの睡眠異常、食欲減退または過食などの食欲異常、お酒や甘い物など嗜好品の摂取の増加、体調を崩しやすくなる、なかなか疲れが取れない、などがある。また、比較的気付きにくい心身の異常では、やる気が起きなかったり、集中力が続かなくなったり、感情の変化(極端に乏しくなる、または激しくなる)、などが挙げられる。
そういった症状が見られても一時的なものなら問題ないが、2~3週間以上続くようなら、一度、専門家に相談すると安心だ。オーストラリアでは、メンタル・ヘルスも同様、全ての医療窓口は一般開業医(General Practitioner/GP)となっているため、まずは掛かり付けのGPのドクターに相談しよう。
ポジティブなマインドを保つには
ストレスと上手に向き合うための方法として、「まずは自身が何をどのようにストレスに感じているのか、自分の気持ちに気付くことが一番大切です。しっかりと自分に向き合い、心が何を感じているのか耳を傾けましょう。自分の気持ちに気付いたら、それはあなたの心が感じていること、良いも悪いもありません。ネガティブな感情であってもそれを大切にすることは、自身を大切にすることにつながります」と桜井先生は話す。
また、ポジティブなマインドを保つためには、快眠・快食・快便が基本的となる。日常のルーティーンを守り、食生活に気を配って、適度に体を動かすことが大切だ。更に、自身に合ったストレス解消法を把握し、それをきちんと実行していくこともポイントとなる。運動をする、音楽を聞く、絵を書く、ペットと遊ぶ、お風呂に入る、など自分の気持ちをリセットできるアクティビティーの時間をきちんと確保しよう。
ポジティブなマインドを保つためには、人とつながることも重要な要素となる。桜井先生は「人間は1人では生きられない動物です。家族や親戚、友人、趣味の仲間などと“しっかりつながっている感覚”は、人に安心感をもたらすため、気分をポジティブに保つことができます」と話す。
身近な人が落ち込んでいる場合は
身近な人が落ち込んでいる時は、まず話を聞いてあげよう。聞く時のポイントは「相手の身になって話を聞くこと」だ。叱咤激励したり、具体的なアドバイスをしてあげることは、逆効果になってしまう可能性もあるという。自分でも落ち込んでいるのは分かっているけれど、どうしても気分が上がらなくて辛い思いをしている、そんな人に励ましの言葉を掛けると言うのは、辛い気持ちに更に鞭(むち)を打つようなもの。共感して話を聞くことで、落ち込んでいるその気持ちに寄り添ってあげることが重要だ。そして「必要なら専門家に相談してみては?」と提案してみるのも良いだろう。
落ち込んでいることに気が付いていない人には、それを気付かせてあげるようなアドバイスが必要になることも。「最近、ぼーっとしているようだけど大丈夫?」など、本人が気付いていないストレスのサインをそれとなく教えてあげるのも良いサポートになる。
自身の心の声に耳をすませることが大切
最後に、桜井先生からメンタル・ヘルス・ケアを行う専門家としてのアドバイスを頂いた。
「体の健康を保つために必要なのは、自身の健康状態がどうなっているのかを知ることですが、心の健康も同じです。自分の心の声に耳をすませて、心が何を感じているのかをきちんと理解すれば、心の健康を保つことができます。“心の声を聴くこと”は、私たち人間全てに備わっているスキルです。“今日は何を着ようか” “夕食は何を食べようか”と考える時など、私たちは自分の心の声にすませているでしょう? 自身の気持ちをないがしろにすると、気付いてもらえなかった感情が未消化のまま残ります。それらは知らないうちに溜まってしまい、あなたの心の健康を脅かす原因となりかねません。私は、フォーカシングという方法を用いたカウンセリングにより、皆さんの“心の声を聴く”ことをサポートしています。自分の気持ちに気付きそれを認めることができれば、レジリエンスが高まり、メンタル・ヘルス・ケアの向上に役立つからです。皆さんもぜひ、1日わずかな時間でも自分自身を振り返るひと時を持ってみましょう」
もし、思い当たる節があるようであれば、一度専門家と話をしてみることをお薦めしたい。
桜井多恵子先生が行うクリニックの詳細は「ヘルスケア特集 日本語診療が可能なオーストラリアの医療機関」よりご覧になれます。
取材協力
Mind Body Living Counseling Service
Tel: 0466-229-273
Web: www.mindbodyliving.com/japanese
Facebook: www.facebook.com/Mind-Body-Living-Counseling-Centre-100551314933273