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マクロ経済方程式=ケインズ経済学の基本/コロナ・ショック下での日本経済の行方

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今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第74回
マクロ経済方程式=ケインズ経済学の基本/コロナ・ショック下での日本経済の行方

 目下、日本だけでなく、世界中の国々が「コロナ・ショック」で大変な思いをしています。経済関係の人びとは、今回の「コロナ・ショック」は2008年に世界経済を震撼させた「リーマン・ショック」を何倍をも上回る一大事だと、その恐ろしさを口にしています。

 「リーマン・ショック」では多くの企業が倒産するという悲しい現実はあっても、人びとが死に至るというような悲劇はありませんでした。しかし、今回の「コロナ・ショック」では疫病にかかり、家族や親しい人と永遠の別れをするという悲劇が多数見られるのです。これほど悲しいことはありません。何とかして1日でも早く、この悲劇から逃れる道を専門家の皆さんに見つけ出して頂きたいものです。

 経済関係者は今回の出来事を、第2次大戦後最大の経済の落ち込みだと見ているようです。各国財政当局がコロナ対策費の増大を実行したことによって、経済の大きな落ち込みは表面的には見られないようでもありますが、現実的にはかなりの落ち込みが発生しているのです。

 各国は、コロナ禍で落ち込んだ経済不況の対策費として莫大な予算を計上しています。各国当局は、経済活動の中止命令を出している間の対策費用を補填していると考えると、その費用は想像を絶する額に上ることになるのです。もしケインズが現代にいたらどのような経済対策を講じるだろうーー。そんな風に今や世界は、第2のケインズの出現を待ち望んでいることでしよう。

コロナとケインズ方程式について

 経済学では、一国の経済成長の在り方や変動の足跡の分析をすることを大きな仕事としています。その分析方法を「国民所得決定方程式」や「マクロ経済方程式」、または単に「ケインズ経済の基本」と呼んだりしています。この式で表わされる経済の現象は経済の最も基本的な要素を意味する、とも言われており、それは次のような1つの式で表されます。

Y=「C+I+G」+「X−M」

 上の式で「Y」はGDPを示します。「Y」はYieldの頭文字で、収益を意味します。「C」はConsumptionで消費を、「I」はInvestmentで投資を、「G」はGovernmentで政府を示しています。そしてそれら3つを総称して「内需=国内需要」と言います。

 更に「X」=Exportで輸出を、「M」=Importで輸入を示しています。それら2つによって「外需=外国需要」を意味しています。

 以上の方程式は、経済理論ではとても重要とされており、あわゆる場面で活用されています。この式の在り方を理解するということは、経済学の基本を理解することになります。つまり、一国経済の全体像を理解し把握するのに必要不可欠の式なのです。日頃、「日本の経済が」「世界経済が成長した」とか、「一向に伸びない」という言葉をよく耳にしますが、この式を頭に描いて議論しているのです。

「コロナ禍」と日本経済の落ち込み

 コロナ禍の拡大によって日本経済は随分と落ち込むと思われますが、その現実を先に見た方程式に照らし合わせて考えてみましよう。

 まず、緊急事態宣言という政策によって、人びとは外出をしなくなりました。そして旅行の中止、集会の中止、外出の中止によって消費水準が一斉に落ち込む結果になりました。また、工場などが一斉に休業状態になり、生産が一挙に止まるという状態に陥りました。

 これを先の式に当てはめて考えてみると、「C」が低下し、また、工場などでは生産が拡大しないので「I」が低下します。つまり、日本の国内需要の主要構成要素である「C」と「I」が減少するので、「国内需要を支えるのは政府投資だけだ」と言えるわけです。

 政府はコロナ対策費として1人当たりかなりの金額を支給しました。更に地方政府も、中央政府に比して劣らないような金額を住民に支給するという政策を採りました。つまり日本では、中央と地方の両政府による市民への直接支出を敢行し、民間需要の落ち込みを阻止する政策を実行したのです。

 この政策の実行によって国内需要の大幅な落ち込みを食い止めることができましたが、それは政府の赤字財政の結果であることは言うまでもありません。その赤字はいずれ国民の力で埋めていかなければなりませんが、「G」の増大によって一時的であっても国内需要、つまり日本の国民所得「Y」の大幅な落ち込みは回避できたということは事実なのです。

 次に外需の側面を見てみます。これは輸出と輸入の差をもってその国のGDPに貢献する、ということを意味しています。つまり、輸出の増大によってその国の富が増大すればその国はより豊かになるということを意味します。

 今回のコロナ問題によって、外国の経済水準が低下することで日本からの輸出が減少すれば、日本の外需は減少し、その結果、日本の経済水準にマイナスの効果が発生する。つまり、日本のGDP(Y)は減少する結果になります。

 一方、先のマクロ方程式の中で輸入の記号の前にマイナスの符合がついているということは、もし日本国民が外国財への需要を減少させれば、それが日本の国民所得の増大にプラスの効果となるということを意味しているのです。

日本の経済水準の現実性について

 さて次に、先に見たマクロ経済方程式に数字を入れてその結果を見てみましよう。

個人消費=−3%
設備投資=−1.5%
政府投資=+5%
輸出=−3%
輸入=−4%

 これらの数字を先に見たマクロ経済方程式に入れてみると1つの結果が出ます。これらの数字は、もしかしたら、という「想像の数字」です。と言っても、そう現実から離れているわけではありません。経済学を学ぶ時、「予想数字」を用いて数字をはじき出し、経済の原則を学んでいくというのが1つの学習方法なのです。

Y=−3+(−1.5)+5+(−3)−(−4)

 この式を計算するとY=1.5になります。つまり日本の成長率は1.5%という極めて低い成長率となるということを意味しています。もし上の数字が現実的であるすれば、それこそ日本経済は危機的な状態に陥ると言えそうです。

 もし日本の成長率を上げるとすれば、コロナ禍の影響下で人びとの消費水準が上がるとは思えません。また、どの国もこのコロナ禍で経済が沈んでおり、日本からの輸出が増大するとは考えられませんので、ひとえに政府支出の増大に依存しなければなりません。まさに「ケインズ経済」の再来と言ってもいいかと思われます。

解説者

岡地勝二

岡地勝二

関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰。

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